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13. 白石真琴は、あの日の夢を見る

「「「「「おおおおおおお‼︎‼︎」」」」」

 幾何学模様の魔法陣に飲み込まれたと思えば、いきなり耳に入ってくる声が反響する見知らぬ大きな広間に立っていた。

 周りを見渡せば、教室にいたクラスメイト達が漠然とした状態で同じように立ち尽くしていた。

 クラスメイトがいたことに安堵する。

 少し余裕が出来たことで、クラスメイトの中で一人だけ倒れている存在に気づく。

 私は「大丈夫ッ⁉︎」と駆け寄る。

 周りは「なにっ⁉︎」「え⁈」「はぁ⁉︎」と振り向き、この場で倒れている一人に気づく。

 倒れた存在に近寄り、うつ伏せの状態から仰向けにしてハッとなる。

 周りもまた私同様にハッとなるのを気配で感じ取る。

「桐生くんっ⁉︎大丈夫ッ⁉︎」

 私は目を瞑ったまま一向に目を覚まさないクラスメイトの一人である桐生くんを揺する。でもダメだ。起きる兆候がない。

「なんでっ⁉︎どうしてッ⁉︎」

 動揺を隠せない私の元に「少しよろしくて?」と綺麗な身なりをした女性が近寄る。豪華なドレスを着て、括り上げた白い髪の美少女で、雰囲気から只者ではないのが分かる。

 この際、何者かなんて別にいい。

「桐生くんを助けてくださいッ!」

「ええ。もちろん任せてちょうだい」

 ニコッと笑顔を浮かべた女性は「治癒師来なさい!」と張りのある声で呼べば、後ろに控えた人垣から白い服を着た赤髪の女性が颯爽と現れる。

「お呼びでしょうか?姫様」

「ええ。もちろん治癒師を呼んだつもりだったけど、貴女が来てくれるなんて……意外ね。どんな風の吹き回しかしら?」

 一瞬だけど、二人の間に剣呑な空気が立ち込めた。

「そんなことより――」

 口を挟もうとしたら女性の人差し指が私の唇に触れる。感触はヒヤッと冷たく、氷に触れてるかのように冷たかった。

「姫さまのお呼びなら馳せ参じるのはいけないことでしょうか?それに勇者召喚という話題を耳にすれば、如何様な者と言えど、ここに居合わせていてもよろしいのではないですか?」

「……そうね。貴女の言ってる言葉は至極真っ当だけど……いいわ。そういうことにしておきましょう。では早速だけど、この方を診てもらえるかしら?」

「承知。承りました」

 女性はその場で一礼して、桐生くんの様子を診察する。ソレは医療とはかけ離れている診察方法だった。

 幾何学模様の魔法陣が女性を中心に展開され、桐生くんの全身を光が包んだかと思えば、日本語ではない別の言語の文字が羅列で浮かび上がる。

 読もうにも言語がわからなくて読めない。

 女性は全て診終えたのか、深く頷く。

「この若者は意識を失っているだけのようです。心身ともに健康でいらっしゃる。ただ……」

「ただ、なにかしら?続きを言いなさい」

 お姫様に促され、女性は言いにくそうに顔をしかめて言う。

「……目覚めるのにもう少し時間がかかるようです」

「そう。分かった」

 お姫様は迷いなく頷き、次の行動に移るべく玉座のある方へ振り返る。

 少しだけ女性の言葉に引っかかりを覚えたけど、今はその事よりも桐生くんが大丈夫だったことに胸を撫で下ろして安堵する。

「父上!」

 玉座に座っているのは、ただのおじさんではない。お姫様が父上と呼ぶに相応しい人物。紛れもない王様であるのはすぐに理解した。

 王様は目で続けよと促し、お姫様は意を決した表情で言う。

「この方を私の部屋で休ませてもよろしいでしょうか?」

「えっ⁉︎」と口に出そうになったけど、まだ近くに控えていた女性に口を塞がれる。もごもご口を動かすと「静かにしたほうが身の為よ」そう言われたら口を結ぶしかない。

「お前が決めたことだ。よかろう。我が名において、その者を大事に扱い運ぶことを厳命す!」

「ありがとうございます」

 お姫様は深く目尻を下げた。

「よい。さっさと休ませてあげなさい」

 とても優しそうで温厚な性格の持ち主だと王様の発言を受けて思う。

「この方に傷一つ付けずに運びなさい。いいですね?」

「「「「「ハッ!」」」」」

 キビキビした騎士の人達が桐生くんの元に駆け寄ってくる。どの人も武骨で筋肉質のある肉体をしてる。とても勇敢な騎士なんだろうなと見れば、優しく微笑みを浮かべて、桐生くんを魔法の絨毯の上に乗せて大事に運び始める。

「おー!」

「すげー!」

「魔法かよ!」

「魔法の絨毯じゃん!」

「えぇーアラジンっぽくない!」

「喋る絨毯じゃなくても立派な魔法の絨毯ですよ!」

「ここは現実か⁉︎」

「あんなのリアルにあるんかい!」

「速報!魔法の絨毯発見なう!からの悲報!桐生氏この状況で安定のお一人様コース!(笑)」

「うけるー!」

「ギャハハ!」

「ヤツにはふさわしい末路」

「草生えたw」

「……怖っ」

「……教室はどこ??」

「……お腹トイレいきたい」

「そういや、教室であいつ……」

「つーか、それだよそれ!」

「あいつ教室でおかしかったよな?」

「変な突風は巻き起こるわ!これって、あいつの仕掛けた事じゃね?」

「だ、だよねー、変な行動してたし」

「はっ!馬鹿言うなし!」

「こんな大掛かりな仕掛け……ドッキリで見たことないんですけど!そこのところ、どうなん?」

「右に同じく」

「マネージャーから連絡きてない」

「うちも」

「ま、まさか⁉︎世にも不思議な⁉︎」

「異世界転生⁉︎」

「いやいやトラックに轢かれた覚えないっす!」

「うんぽ!異世界転移キタコレ⁈」

「ぷすすすすす!見たところ城の中、転移ならぬ異世界召喚確定!」

「皆さん、落ち着いて。……落ち着くのは自分も一緒。……先生の話を聞いてくださいッ。聞こえませんか?先生の声は届いていませんね。……こんな非日常は夢です!先生寝ますよ?皆さんいいんですか?本当に寝ますよ?……皆さん酷い。聞いてください(泣)」

「先生!みんな!落ち着いて!」

「そうよ!静かにして!」

 クラスメイト達もまた余裕を取り戻して口を開く。馬鹿騒ぎする連中や運動部から文化部やタレントグループから不良グループなどなど、それぞれで騒ぎ始める。中には桐生くんを馬鹿にする輩もいるけど、今始まった事じゃない。桐生くんが余りにも周囲から目立つ存在だから何もしてなくても、一挙一動に批判が集まる。誰ともつるまない。誰とも関わらない。告白されても一刀両断する爽快さを持つ。泣いた女子はどれだけいるか分からない。ソレを知っていてもなお、皮肉な事に女子から人気がある分、男子達から憎まれ口を叩かれる。彼の話題は入学当時から尽きることがない。皆から一心に罵声を受けようと一匹狼を貫く桐生くんは謎が多い。

 意識が別の方向に逸れちゃったけど、王様もお姫様も良い人そうだ。

 ホッと安心すると口を塞いでいた手が離れて、「心を開くな」と私の耳に小声で囁き、桐生くんを診てくれた女性はスッと後ろに下がる気配を感じる。

「えっ?」

 振り向けば、そのまま桐生くんを運んでくれる他の人達と共にこの場から離れていく。

 後に残ったは桐生くんを除いた今日出席していたクラスメイト全員と新任の華恋先生。それと周囲にいる騎士や魔法使いの格好した人達と王様や王様の近くに控えた人とお姫様。これだけの人数がいるのにまだまだ余裕のある広間は大きいの一言。

 お姫様は桐生くんが運ばれていく姿を見送ると王様がいる場所へと戻っていき、私もゆっくりと立ち上がる。

 クラスのリーダー的存在の綺羅星義晴(きらぼしよしはる)くんと綺羅星結生(きらぼしゆき)さん兄妹の掛け声で、みんなの声が次第に声のトーンを縮めて静かになる。

 シーンと静寂が訪れる。それを待っていたかのように玉座に座る王様がこの場に集うクラスメイト全員に語るべく口を開く。

「今この国ファミリア王国は危機に瀕している。よくぞ我が召喚に応じ来てくれた。勇者諸君よ!」

「「「「「勇者?」」」」」

「「「「「召喚?」」」」」

「「「「「まじで?」」」」」

「「「「「……!」」」」」

「「「「「異世界召喚キタ(確定)!!!」」」」」

「これは夢です……‼︎」

「先生落ち着いてください」

「勇者って……えっ?」

 ラノベやゲームで聞くようなアレかなっ?

 私含めた誰しもが困惑する中、一部は歓喜で飛び跳ねて体中から喜びを感じ取れる。華恋先生は頭痛で目眩を起こしてよろけて、それを結生さんが支える。

 この場を代表して、義晴くんが問う。

「僕達はただの学生です。そんな大それた勇者などではありません。ファミリア王国という国は存じ上げません。ここは一体何処ですか?僕達はたった今まで日本という国にいました。この場に集う方達を見れば、日本人とは違う系統の髪色や肌色で日本じゃない場所にいるのは把握できます。しかし召喚というよく理解できないのに応じた記憶もなければ、僕達は無理矢理連れてこられたようなものです。どうかお願いです。僕達を元いた場所へ返してください」

 義晴くんは悲痛な雰囲気で訴えた。だけど、王様もまた「こればかりは……お前達は既に我の支柱どう使おうと我の自由だ(ボソボソ)」最後の部分は聞き取れなかったけど、独り言を呟き、

「よいか勇者よ。いずれ来たる大魔王復活はもちろん、我が国へ再三に渡る侵攻を侵す愚行な近隣諸国の脅威を取り除いてもらわねばならぬ。勇者の願いを成就したければ、今は目の前の現実を受け入れよ。さすれば、自ずと帰れる道は切り開かれよう」

 結論を言われた。それは余りにも受け入れ難い言葉だった。

「しかし――!」

「二度言わねば理解せぬか?」

 射抜くような鋭い眼差しが向けられる。まるで、首筋に切っ先を向けられたかのような錯覚を覚える。

「「ッ!」」

 私は相手をしっかり観察していたからソレがダイレクトに伝わって身震いする。

 義晴くん以外の他クラスメイト達は気づいてない。

 王様の隣に立つ騎士もそれ相応の身分で、只者じゃない。実力者なのだとまざまざと思い知らされる。

「……‼︎」

 背中しか見えないけど、義晴くんが今目を見開いて唇を強く噛み締めるのを感じる。

 帰るには大魔王?近隣諸国?わけのわからない事、私達に全く関係がない事をなぜやらなければいけないのっ。そんなのありえないッ!

 キッと王様を睨んでも、優しい表情を崩さずにどこ吹く風で気にも留めない。

「兄さん?」

 結生さんが義晴くんの変化に気づく。

「兄さん、どうしたの?」

 結生さんが義晴くんの元へ近づこうとして、

「来るなッ!」

 強い声で、義晴くんは後ろを振り返らずに手で制止する。

「なに?急にどうしたというの?」

 その場で足を止めた結生さんは怪訝な表情で尋ねる。

「従おう。逆らってはいけない」

 顔を前に向けたまま、義晴くんは声を絞り出す。切迫したものを感じる。

「……わ、わかったわ」

 結生さんもソレを感じ取り、先生のいる後ろに下がる。

「話が早くて助かる」

 王様は重く頷き、

「では改めまして名乗らせてください。勇者様方に置かれましてははるばるこのファミリア王国の召喚に応えてくださりまして、大変感謝致しております。わたくしはこの国の王女サンファ・N・ファミリアと申します。早速ですが勇者様方のステータスの確認に移らせていただきますね」

 お姫様は動けずにいる義晴くんの肩を優しく撫でて、肩を貸して連れ添うようにこちらへ歩み寄る。

 義晴くんの表情は青い。

 万策尽きたと顔に書かれてるように見えなくもない。義晴くんは力なく、結生さんの隣まで来るとその場でグッタリと深く胡座をかいて座り込む。

「兄さん?」

「少しだけ、今は考えさせてくれるかな」

 両手で顔を覆い隠した義晴くんは何を胸中で思い悩んでるのか、私には検討がつく。でも私にも今の状況から抜け出せる方法が考えつかない。理解できない現象を起こそうにも、その現象がどうやって起こったか解らなければ、解決策はないに等しい。

「これやばくない?」

「詰んだ?」

「いっちょんわからん」

「何がどうなってるわけ?」

「要は帰れないってことよ」

 結生さんが義晴くんに代わって、この場をまとめるように代弁する。

「はぁーーーッ⁉︎」

「嘘だろーーーッ⁉︎」

「ドッキリじゃねのかーーーッ⁉︎」

「ドッキリのわけないだろッ⁉︎」

「悲報!2-Bクラスメイト全員異世界召喚で拉致られた件!もちろん俺氏無事帰れま――てぇん⁉︎」

「今日写真撮影あんだけど⁉︎」

「うちも収録あるのにどうしてくれんの⁉︎」

「牛乳配達がぁぁぁぁああ⁉︎」

「バイト無断欠勤扱いじゃん⁉︎」

「優勝を狙うために日々鍛え上げられた筋肉を解放できないだとーーーッ⁉︎」

「マラソン全国大会が間近に迫っているんだぞぉぉぉぉおお⁉︎」

「昨日彼女と念願叶って付き合い始めたってのにどうしてくれんだぁぁぁぁああ⁉︎」

「フフッ、俺たちの戦いはこれからだッ!」

「磨いてきた技が冴え渡る時っす!」

「ぷすすすすす!異世界最高ッ!」

 教室では絶対に見せたことがない姿勢を示す義晴くんに周囲のクラスメイト達も困惑を隠せない。拍車をかけたクラスメイト達がパーリーピーポーで騒ぎ出す。

「みんな静かに――」

 パンッ!

 お姫様が両手を強く叩いた。音は響き、全員の視線が音の元凶へ一点に集まる。この場の空気の流れが変わる。

「お静かになさってください。1分1秒前の過去の事は忘れなさい。今から重要な説明を行います。静粛に聞いてくださらない方には……そうですね。少しお痛を味わってもらいます。それじゃ、話をします。いいですね?」

 お姫様が全員を見渡し、全員頷く。

 ゴクリと喉を鳴らす。

 お姫様には有無を言わせぬ、圧を感じる。

「勇者様方には自分自身を客観的に数値化したステータスを見る事ができます。ステータスオープンと言えば自分の視界に自分自身のステータスが表示されるはずです。では確認してください。確認し終えた方から順にステータスを開示してください。開示する相手はこの場にいる全員もしくは父上とわたくしのみでも構いませんので指定くださいね」

 ステータス?それってゲームでよく見るアレだよねっ?

 お姫様の言う通り、

「ステータスオープン」

 全員が一斉に声に出す。


 ――――――――――――――

 白石真琴 16歳 女 レベル:1

 職業:イラストレーター

 筋力:100

 体力:100

 耐性:100

 敏捷:100

 魔力:100

 魔耐:100


 スキル:異世界言語・作成

 ――――――――――――――


 わっ⁉︎本当に出たよッ!

 半透明で映し出されたステータスが視界に表示された。

 ゲームのキャラクターで見たりするアレだと理解する。スマホでゲームをたまにやるから理解は早い方だと思う。

 私は自分のステータスを確認して、まずまずのステータスじゃないかな?と納得する。

 他のクラスメイト達も何もない空間をジーっと眺めて、自分のステータスを確認してる。

「よっしゃあ!」

「俺TUEEEEE!」

「異世界最高っすね!」

「俺の時代がキタ!」

「ぷすすすすす!異世界余裕ッ!」

「筋力2000!日々の特訓の成果は実っていたかッ!」

「よくわかんなーい!」

「ステータスほぼ平均1000を上回ってる〜」

「右に同じく」

「大体みんな一緒か?」

「うちも1000は軽くあるよー」

「てか文化部の奴も1000って……草w」

「吉報!俺氏無事に世界最強の魔剣士になった模様!プレゼントボックスに魔剣贈与されとるーぅ!」

「ああーっ。プレゼントボックスこれか――ッ!」

「プレゼントボックスに強化外装甲ってあるんだけど、SFじゃね?(笑)」

「異世界だろ?ファンタジーじゃねーの?こっちはある意味で定番な魔法使いだぞッ(笑)」

「SF要素とか、やばたにえんだろ(笑)」

「ギャハハ。竜騎士って超強くね?」

「竜騎士とか竜いないと役立たないから乙!」

「……職業モデルって、向こうと一緒か」

「皆さん、落ち着いてください!」

「華恋ちゃん、この状況で落ち着けるかよーーーッ!今すぐ冒険したくてたまんないぜーーーッ!」

 あっちこっちから私のステータスと大きく違う声が耳に届く。

 周りを見れば、さっきまで帰れないことに不満を持っていたクラスメイト達ですら顔を輝かせて、自分の職業やステータスを口頭で伝えている。

 そんな中、胡座をかいていた考え込んでいた義晴くんは先程とは違い、光明が見えたと言わんばかりの表情で立ち上がると真っ先にお姫様の元へ。後ろから結生さんも一緒について行く。

「確認し終えたようですね。ではステータス開示と開示する相手を指定して開示してください」

「わかりました。ステータス開示」

 お姫様は静かに義晴くんのステータスを確認して、目を見開く。

「ッ‼︎」

 信じれないと口元を手で覆い、

「ほーう」

 玉座の王様も感嘆の声を上げる。

「勇ましき勇者よ。そなたのステータスをこの場に開示するのだ!」

「ヨシハル様お願いしてもよいでしょうか?」

「わかりました。この場にいる全員へステータス開示ッ」


 ――――――――――――――

 綺羅星義晴 16歳 男 レベル:1

 職業:光ノ勇者

 筋力:10000

 体力:10000

 耐性:10000

 敏捷:10000

 魔力:10000

 魔耐:10000


 スキル:異世界言語・光魔法・全属性耐性・物理耐性・剣術・気配感知・魔力感知・魔力回復

 ――――――――――――――


「うそっ⁉︎」

 衝撃的だった。

 こんなデタラメなステータスを持ち合わせた義晴くんに全員の視線が一点に集中する。クラスメイト達は自分以上のステータスを誇る義晴くんに

「すげー‼︎」

「凄い‼︎」

「すご〜い‼︎」

「チートかよ‼︎」と賞賛を送る。

 クラスのリーダー的存在の義晴くんが勇者だったのも皆納得した感じで、

「義晴だもん」

「義晴が勇者とか安定過ぎ」

「義晴は異世界でもカースト最高かッ!」

「異世界でも勝てねーな」

「義晴TUEEEEE‼︎」

「お前TUEEEEE!俺TUREEEEE‼︎」

 私も義晴くんが凄く強いのにはビックリしたけど、納得かな。だって、クラスをまとめる存在が一番強かったら更に団結力を発揮するだろうし、帰れる日も近いに違いないよッ!

「兄さんも勇者だったのね」

「も?ってことは――」

「ええ。私も勇者よ」

 得心を得た結生さんは頷く。

「まさか……、そんな……。ステータスを開示して証明してもらってもよろしいですか?」

「ええ。構いませんよ。全員にステータス開示」


 ――――――――――――――

 綺羅星結生 16歳 女 レベル:1

 職業:雷ノ勇者

 筋力:10000

 体力:10000

 耐性:10000

 敏捷:10000

 魔力:10000

 魔耐:10000


 スキル:異世界言語・雷魔法・全属性耐性・気配感知・魔力感知・先読・魔力回復

 ――――――――――――――


「凄いッ⁉︎」

 私はまたも衝撃を受けた。

 綺羅星兄妹凄くないッ?

「W勇者だよッ!」

 興奮して口に出しちゃったのは、しょうがないよねッ。

「……‼︎」

 お姫様はステータスと結生さんを交互に確認して、口をパクパク動かす。

 ちょっと金魚みたいでカワイイかな。

 王様も玉座の上で驚きを隠せないでいる様子だ。

 目にもの見せたよッ!さすが綺羅星兄妹ッ!

「白石さんの言う通りだッ!」

「双子揃って勇者とか……ありえねぇーーーッ!」

「W勇者どんだけかっけー二つ名よッ!」

「白石の名言いただきますたぁああ!」

「真琴のW勇者いいね!」

「うちらがショボく見えるねッ!」

「バカ!引き立て役に慣れて光栄だろッ!」

「生まれて初めて思う。今一番言いたい!双子SUGEEEE‼︎」

「W勇者TUEEEEEっす‼︎」

「うんぽ!W勇者SUGEEEEでしょ‼︎」

「速報!Wと書いて双子と読むW勇者爆誕ッ!」

「くそぉぉぉおおおお!」

「異世界の神よ!なぜヌルゲーにしたぁぁぁあああ!」

「イケメンに優しい神過ぎるぞッ!」

「美少女の結生は当然許――すぅぅううううッ!」

「鍛え抜いて追い越してやぁぁぁるるるるるる!」

「お前ら嫉妬しすぎ!w」

「大草原!」

「ギャハハ!双子パネー半端ねーわッ!」

「右に同じく!」

「バーロー!すぐ勇者越えするしー!」

 みんな言いたい放題だよっ。

「素晴らしいですね。確認させていただきました。ユキ様ありがとうございます」

「いいえ。ただすべきことをしたまでです。確認が終わったのなら戻っても構いませんよね?」

「お戻りにならなくてよろしいです。確認し終えた方はわたくしの後ろで待機してください。では次の方ステータスを確認しますので、順番で並んでお待ちくださいね」

 お姫様は満足して、義晴くんと結生さんを後ろに移動させると次々とクラスメイト達のステータスを確認していく。

 私は前へ進もうとした足を無意識に止める。次々と開示される全てのステータスが私のステータスと比較して、あまりにも規格外だったから。まずまずのステータスだと最初は思ったけど、今はまずまずとか思えないよね。かなり弱い。たぶんクラスの中でダントツで最下位を狙えるステータスだよねっ?どう考えても、この場に相応しくないよッ!

 私は最後まで順番の列に並べなかった。だんだん笑えなくなってきた。みんな、あんなに笑顔なのに笑えるわけないよッ。場違いなの私一人だけじゃん!

 時間は止まらない。とうとう長かった順番の列は終わり、最後の一人になった私にお姫様が笑顔で「どうぞ、こちらへ」と手招きする。

 ソレは死神の手招きにしか見えない。私にはそう見えてしまう。

 公開処刑。

 その言葉が脳裏を走った。

 ああーっ、どうしようッ!

 クラスメイト達や先生に助けを求めるSOSの視線を向けても気づいてくれない。友人も「なにしてるの?」とやっぱり気づいてくれない。

 みんなの期待に満ちた眼差しが私に向く。

 私は一歩一歩前進し、お姫様にステータスを開示した。

 多くの強力無比なステータスをその目で見れて満足して喜んでいたお姫様の表情が固くなり、次第に凍りつく。

「少し目が疲れたようね」

 お姫様は目元を優しく揉み、もう一度確認する。

 でも目の前に表示されたステータスに変化はない。

 何度ステータスを確認しても、私のステータスに変動はない。ソレを悟ったお姫様は「一般人以下ね」と吐き捨て、私を突き飛ばす。

「えっ?」

 急に押されて、「きゃあっ!」私はお尻から尻餅をつく。

 お尻が痛い。歯を食いしばって、お姫様を見上げると今までのどの表情とも違う凍える程の嫌悪した顔で見下ろされていた。

 ゾッと背筋が凍る。

 呆気にとられたクラスメイト達と先生はその場から動けない。そんな中、一人だけ颯爽と私の元へ駆けつけてくれる。

「真琴!大丈夫かい⁉︎」

 義晴くんが私を心配して手を差し伸べてくれる。

「う、うんっ」

 私はその手を取り、優しく起こしてもらって立ち上がる。

「王女様、あなたは一体何をお考えなのですか⁉︎」

 義晴くんが珍しく怒った。

「虫が目の前にいたもので、つい」

 義晴くんが怒ろうとお姫様の顔は変わらない。本当に虫を見るような目だ。

「えッ⁉︎」

「ッ!何を言ってるのか、僕には理解出来ません。虫?真琴が虫とでも言いたいのですか⁈」

「ええ。その通りです」

「!」

「ッ⁉︎」

「勇者様方のステータスと比べて、一般人以下の虫と同じではありませんか?そんな虫を虫と呼んで何か問題でもありますか?」

 開いた口が塞がらない。

「し、信じられないッ!」

「ええ。全く信じられませんね。そんなステータスだから最後までステータスを開示しなかったのでは?自分自身でよーく理解してらっしゃったから最後の最後まで足が前に進めなかったのではなくて?」

「ッッ!」

 お姫様の言葉に言い返す言葉がない。

「図星でしたか?」

「や、やめろッ!」

 義晴くんが地面を強く蹴る。

 地面は割れて、義晴くんを中心にヒビ割れを起こす。

「「「「「⁉︎」」」」」

 周りの騎士達はもちろん、クラスメイト全員が驚き声を上げる。

 お姫様はソレでも態度を改める気配はない。それどころか、逆に先程以上の強気の姿勢になる。

「なぜヨシハル様はそのような虫を庇うのですか?わたくしには理解したくもありません。苛立ちを向けられようと虫を虫と呼ぶのは変えません。別にいいじゃないですか?そこの虫は今後王宮の鉄壁に守られて過ごすのですよ?これほど待遇のいい歓待はないのではなくて?」

「それを信じれる保証があるわけが――」

「保証はあります。ヨシハル様が結果を出せばいいのです。今この場で争い事を起こそうと意味はありません。ハッキリ言って無意味です。後腐れを出したいのですか?勇者としての使命を選ばず、そこの虫を選ぶのですか?虫を選べば、ここに集う他の面々は一体どう思うでしょう?嗚呼、ヨシハル様はそんな虫一匹を構うのか。嗚呼、ヨシハル様はその虫に恋慕を抱いてるのでは?嗚呼、勇者としてあるまじき行いは恥ずべきことだ。違いませんか。理解してください。虫は虫として飼われれば、何も問題ないじゃありませんか?違いますか?」

「違うッ!僕は……、……」

「兄さん、王女様の言う通りにしてちょうだい。兄さんが過去に二度彼女に告白した事はこのクラスで知らない人はいないわッ。そんな私情を今ここで挟まないでッ!」

「!」

 私は正直驚いた。まさか、義晴くんがまだ私を想ってるなんて知らなかった。もし仮に今助けてくれてるのが私に対する想いから来てるのなら、私に応える気持ちはない。

「ッッ!」

 義晴くんの顔がカァーッと真っ赤になる。それを見て理解した。理解してしまう。今目の前で助けてくれる義晴くんはまだ……。

「いいじゃない。彼女は王宮で暮らすべきよ。王女様がそう言ってるのだから間違いないわ。それに兄さんには一緒に帰る為の努力をしてもらう。みんなをまとめられるのは、兄さんしかいない。ただ一人しかいないのよ。彼女と逃げようとは絶対に思わないでッ!兄さんには兄さんにしか出来ないやるべきことがあるの。そう心の中では自分でわかってるでしょ?」

「……僕は――」

「兄妹の絆は深いですね。ヨシハル様が此方側を選ばないという選択を選ぶのなら試しに聞いてみましょう。ねぇ、勇者様方はどう思いますか?天秤にかけるべきはどちらでしょう?間違っている方を潔く笑ってあげてください」

「な、何を言って――」

「白石ウゼー」

「白石の為に犠牲になる俺ら糞だろッ!」

「義晴の気持ちに応えないとか最悪ッ!」

「二度告白されて振るとかありえないしッ!」

「普通告白されたらYESじゃんッ!頭沸いてんのッ⁉︎」

「ステータスのゴミは消えろッ!」

「足を引っ張ってくれるなッ!」

「真琴ちん、ごめんけど、義晴は渡せないッ!」

「今言うけど、自己紹介の時にクラスメイト全員と仲良くなるってアレ、マジでないわッ!」

「俺は白石真琴を友達と一度も思った事ないぞ!」

「……私も!」

「……僕も!」

「頭お花畑の白石さんは今すぐ花畑に行けッ!GO!GO GO GO‼︎」

「正直今まで友達と思ってたけど、真琴は義晴の気持ち蔑ろにし過ぎたよ!今も尽くしてるのに何関係ない顔してんの⁈ないならないって言ったら!」

「悲報!白石真琴氏は綺羅星義晴氏と愛の逃避行したらバッドエンド不可避!ここは俺氏に任せて行けッ!とは言わぬ。……はよー何処へなりとも行けいッ!」

「ギャハハ!義晴お前まだ好きなのかッ!お前って本当に好きになったら一直線で振り切ってんなッ!白石にそろそろ嫌われるんじゃね?義晴はよくやるわッ!白石、義晴に応えてやれッ!無理なら今すぐ失せろッ!」

「ぷすすすすす!」

「仲間外れワロタ!」

「白石さんマジでないっす!」

「異世界転生したらええんじゃない!アディオス!」

「大草原!w」

「マジ卍w」

「兄さん。これがクラス全員の総意だと思って諦めてッ。私達には彼女より兄さんの力が必要なのッ!このまま彼女を取ったら彼女の戻る場所はもうないわッ!覚悟があるなら私は止めない。でもクラス全員の罵声を受けて、私達を捨てて彼女との将来を取って背負い生きて行ける覚悟がないなら今すぐこっちへ来てくれるのを切に願うわ」

「……ッ‼︎……真琴、ごめん。僕はこれ以上、真琴を傷つけたくない。……少しの辛抱だ。真琴を酷い目に合わせたりしない。約束する。僕がこれから元いた場所に戻れるまで、ずっと片時も離さずにそばで守る。だから……今は今だけは突き放すのを許してほしい。そしてみんなの暴言は本音じゃないと僕は思う。我慢してくれるかい?……‼︎、本当にごめんッ!」

 義晴くんは私の元から離れる。

 もうわからないっ。わからないよッ!

 何が正解なのっ。正解なんてあるのッ⁈

 私はどうすればいいのっ?ねぇ、誰か教えてよッ!どうして、私なのッ⁈私が何か悪いことしたのッ!何もしてないよッ!義晴くんに対してもそうだよッ……どうして、友達と思った子達も簡単に裏切るのッ……わからないッ!

 もういいやっ。もういいッ!

 もう誰も信じない。信じたくないッ!

 私は暗闇に落ちるように意識を手放そうとした。黙る私にお姫様は色々と罵ったり心の奥を傷つけてきた。クラスメイト達に嘲笑され、人間不信に陥ろうとする寸前で――彼がやってきた。

 私が一番心を寄せる人。

 桐生静。

 彼は意外な登場をして、お姫様やクラスメイト達から笑われようと全然痛くも痒くもなさそうに私を連れ出してくれた。

 さようなら、みんな。

「真琴ッ!行かないでくれーーーッ‼︎」

 義晴くんは今目の前で起こる全てを否定するように私の方へ手を伸ばす。

 でも距離が離れてる私の手を掴むことはできない。虚空を掴む義晴くん。もしすぐ近くに手が届く場所にいたとしても、私はその手を取ることはないとハッキリ言える。

 さようなら、義晴くん。

 私は義晴くんと一緒になることは――ないよっ。諦めてください。

 私はこの時この場から救い出してくれた桐生くんの後ろ姿と自分の意志を貫く強い姿勢を一生忘れることはないだろう。

 ありがとう。桐生くんっ。

 そして大好きだよッ。桐生くんッ。


 私は長い長い悪夢とも希望とも言える夢から覚めるのであった。

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