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プロローグ

 本日は晴れのち精霊日和。

 今日もつつがなく俺の周りには精霊たちが辺り一帯を自由に飛び回っている。

 楽しそうにはしゃぎ回ってる精霊たちを見ていると心が和む。

「昨日の朝はさ…」

「友達とカラオケで…」

「義晴くんが…」

「えーそれまじ⁉︎」

「うむ。今週号も…」

「あいつらがな…」

「きゃははははは」

「オレの方がぜってー…」

「マジ卍」

 俺のいる教室もまたいつも通り平常運転で絶賛稼働中。

 誰々がさんがさ〜。あ〜で、こ〜で。と噂話が尽きない女子たちのトーク。

 地元のヤンキーとタイマンして勝ったとか兄貴の友達の友達がすげーやばい人とかなんとか自分のことが大好きで、なおかつ自分のクラス内カーストを絶賛上げる為のマウントを取り合っている男子たちのトーク。中には好きな趣味を和気藹々と楽しんで話している男子たちもいる。

 誰もが誰かしらと話すか何かやってる中で、俺だけが次の授業が始まるまでの休み時間を退屈そうに待っていて、何もない空間をジーっと観察しているような形だろう。周りの連中から見たらの話だけどな。

「今日も平和だ」

 隣の席の女子に聞こえない程度の声でボソッと呟き、窓を眺める。

 グラウンドには体育の授業を受けるためにジャージや寒さも吹き飛ばす場違いな夏の体操服に着替えた猛者含めた他クラスの生徒たちが集まっている。他にも遠目からは空を飛ぶ飛行機やスーパーで買い物をしたお年寄りたちが歩道橋を歩いたり、現在進行形でホットな揚げ物を揚げて汗水流して働いている串焼き屋の店主の姿も視える。

 お気に入りの串焼き屋の店主の周りには火の精霊たちがキャッキャ言って周りを飛んでいる。今日も放課後の帰りに寄って買い食いするか。そう放課後の予定を脳内メモ帳に書き込んでいた時だ。


 ざわざわ、ざわざわ。


 周りにいる全ての精霊たちが震え出し、騒ぎ出す。

 こんな事は今までに一度も見たことがない。初めてだ。

 精霊たちが俺に向かって教えてくれる。

(巨大な力の前触れを感じる…逃げろ?)

 頭の中で精霊の言葉に疑問符を覚えるが、これは只事ではない。

 すぐに行動に起こした。

 俺からほど近い直近の窓ガラスを開ける。いつもなら簡単に開けられるのに開けられない。まるで固定されてるかのようだ。

 こうなれば、教室内の体裁を気にしている場面じゃない。即座に風の精霊たちの力を借り、右手にトルネード状の螺旋を収束させて放つ。

 ズン‼︎

 窓ガラスに接触すると同時に甲高い音と膨大な風圧から成る奔流が教室内を荒れ狂う。

「「「「「うわぁあああああああああ‼︎‼︎」」」」」

「「「「「きゃぁあああああああああ‼︎‼︎」」」」」

「「「「「いたたたたったたたたたたたたたたたたぁああああああ‼︎‼︎」」」」」

「ぐぼがばぁごばぐぎゃばぁぐれぁありゃぁあああああああ‼︎‼︎」

 近場にいた複数の生徒は風圧に抗えずに出入り口付近の壁まで飛ばされ、遠くにひしめき合っていた男女のグループは肉団子状態で押し合ってる。運の悪い男子たちは机や椅子に体を挟まれ、黒板消しの掃除機に豪快にタックルもとい打たれた自称ヤリチンの男子筆頭の顔はボクサーにでも豪快に殴られたように歯は折れ血は流れ、パンパンに腫れ始めている。

 辺り一帯はビリビリに破れたスナック菓子や手作り弁当コンビニ弁当など含め、化粧品関連や雑誌漫画教科書ノートプリント類が散らばり錯乱している。

 もう教室内は一言で表すとカオスだ。

 周りの状況はかなり気がかりだが、すまない。あとで癒しの精霊たちに治してもらうように頼む。

「……くそッ」

 ダメか。高密度の螺旋をゼロ距離でぶつけたというのに窓ガラスは健在。傷一つない。びくともしていない。これはかなりの空間固定が働いているのか?

 興味深い現象だが、感心してる場合じゃない。

 次だ。

 周りでは余裕のある生徒たちは慌てふためいて爆心地を探すように、もしくは奇異な行動を急に取り出した俺に注目が集まる。気にしてられない。今この瞬間が一番、精霊たちのざわつきがやばいのだ。

 もう時間がない。早く――

 ガラガラと教室のスライドドアが開け放たれた。

「さぁー今日も授業を頑張り――」

 次の授業の担当である新任の先生が足を踏み入れた時、それは起こった。

 突如前触れもなく唐突に幾何学模様の魔法陣が教室全体に広がったのだ。


 ま――

 ふぅー。ギリギリ間に合った。精霊に俺の精神体を体から一時的に出してもらった。といっても一時的なものであって永続的なものではない。時間が来れば、俺は自分自身の体に帰結する。

 猶予は限られている。

 今この精神世界で状況を分析して、解決策を導かなければいけない。

 俺の目線の先には幾何学模様の魔法陣に飲み込まれて消えていくクラスメイトたちの姿がある。誰も彼もが信じられない超常現象を目にしてしまったという口を大きく開けて阿呆な表情をしている。これはこれで、ある種の人間から見たら絶景であり、笑いのツボだろう。俺も自分の置かれている状況が外側から覗ける立ち位置なら笑っていただろう。全く関係しなければ、その言葉に限るな。

「――よもや、我輩が担当する現存世界にこの様な事象を起こして退避した人間はお前が初めてじゃわい」

「――なっ⁉︎」

 驚いた。この精神世界で俺以外に人間がいたことに驚きしかない。それも気配一つ捉えることもできずに目の前に近づかれ、あろうことか声をかけられるまで一切気づけなかった。

「ふむ。お主が我輩を人間と認識している点は訂正じゃのう」

 パチン!

 痛みがおでこから走った。

 理解した。

 理解させられた。

 この目の前にいる存在が何者かを。

 人間という枠組みに縛られる事はない存在を。

 物質世界ではない精神世界において生身のないものに物理を与えられる存在。

「あなたは神様ですね」

 震える声で発した。

 目の前の存在は俺の言葉を受け、ニヤリと笑った。

 ぞわりッ‼︎

 全身に駆け巡る悪寒。形容し難いまでの本能がガンガンと警鐘を鳴らす。

「ふむふむ。理解が早くて助かるのう。では時間も惜しい。我輩はこのあと昼ドラを視聴せねばいけんのじゃわい。ネチネチした男女間の……うごほぉん!……要らぬ言葉じゃった。お主には早急に向こう側からの要請を受けてもらわねばなるまいて。先に行った者たちとお主との間に時間観測的に遅れが生じておる。ズレが出る前にのぅ。しかし何もせずに行かせるのも恩恵やらなんやら他の者と同じ扱いというのは……しゃくじゃな。あんな言葉を聞かれてしまったのも解せぬ(ボソッ)我輩のメンツが許さぬ。よしっ決めたわいッ!我輩をここまで来させた労働力と時間としちょ……ゴニョゴニョを含めて重い罰を受けてもらうぞい。くそッい!ビシッと決まらんかったわ!これも含めて罰じゃ‼︎えぇえぇーい‼︎」

 昼ドラ?はぁー?ぇええーー。と色々とツッコミどころ盛りだくさんだったのに口を挟む瞬間は最後まで訪れなかった。神様の強引な一人語りを聞かされた後に全身に重い痛みと電流が走った。意識が飛ぶ。薄れる。強固だと思えた分厚い繋がりは薄く張った一本の線のようにプチっと千切れる。精霊たちとのパスが途切れた。ッ……。


 桐生静の意識は完全に飛んだ。


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