プロローグ
大通りに流れる人々の雑踏と喧騒が突然凍りつく。
一心不乱に大通りを駆け抜ける一人の青年。
大通りにいた人々は、血相を変えてひたすらに走り続ける彼を奇異な目で追っている。
不思議なものを見た人々は大体同じような反応をするものだ。
まあ、それはそうとして。
一体何が彼をそうさせるのか。
それは……
「まてぇぇぇぇぇ!」
大通りに、幼さを感じる女子の声が響く。
もう一つ、大通りを駆け抜ける人影。
執事服を着こなす男と、それに抱きかかえられている小さな女子。
そう、彼は追われているのだ。
追われているにしても、この図は少しばかり不思議なものだと思う。
可愛らしい少女と執事服を着た長身の男が、狂ったように逃げる人を追っているのだ。
初めて見たものは……まあ、映画か何かの撮影とでも思うだろう。
私もはじめて彼女らを見たときはそんなことを思った。
彼女らが一体何者なのか。それを知るのは私が新聞社に就職してからのことだった。
それを知ったところで違和感はぬぐい切れたわけではないが。
そして、彼女らの仕事が関係しているからか、追われている彼がどうしてそうなったのかもある程度察することができる。
彼にとってはもう逃げる以外の答えがないのだろう。必死なのも頷ける。
自業自得……ってやつだね。
あんな風にはならないように……と。
日常的な光景では無いものの。
このような些細な事件とも呼べない問題は日常茶飯事のようだ。
ここは国で一番栄えている王都の中心街。
あらゆる人々が富か、名声か、手にしたいものを求めてこの街に集まる。
栄光を手にする者。
理想を叶えられなかった者。
道を踏み外す者……
十人十色の物語が存在するこの街において、彼女らが担うのは影の部分。
そんな日の当たらないところで暗躍する者を追いかけたいと、彼女らは私に思わせる。
私はこの街が大好きだ。
賑やかで退屈になることのないこの街が。