表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブな私としましては。  作者: ちょこ
エピローグ
50/50

43

 田中信一、三十六歳、独身。

 学生時代は男友だちとばかり遊んでいて、就職してからは仕事が恋人だった。

 つまり、見栄を張った言い方をすると女性経験が少ない。

 だからこそ今、混乱している。


 「どういう状況だ、これ……」


 ぽつりと呟く。

 正面に座った女性が、二人分のコーヒーを注文していた。

 そわそわしていると、女性が首を傾げて言う。


 「あまり好みのお店じゃないですか?  少し落ち着いて話せる所が良くて」


 ここはいつも僕が行くような安いチェーン店ではなく、コーヒーの値段は倍もするお洒落な店だ。

 BGMも有線放送ではなく、レコードを回しているらしい。とてもゆったりと時間が流れていた。もちろん、僕以外の時間が、だが。


 「あ、いえ、そういう訳じゃないんですけど。どういったご用件でしょうか?」


 「えっと、ちょっと田中さんを探してまして」


 彼女は僕の会社の前で、片っ端から人に声をかけて田中か聞いていたのだ。

 それほど大きな会社ではないので、程なくして捕まったのが僕である。


 「それは知ってます。なんで探してたんですか?」


 女性に声をかけられて、ついつい付いて来てしまったが怪しすぎる。

 冷静になれば分かる事だが、会った時にはそう思いもしなかった。

 決して浮かれていた訳ではない。


 「はい、それなんですけど……。私、博楽堂の佐藤と言います。あ、今は辞めているので、元、ですけど」


 「は、はあ」


 博楽堂は去年広告をお願いした会社だ。仕事関係だったか。

 それもそうだ。それ以外に女性から声をかけられる事なんてないだろう。

 既に辞めているという事は、転職先からの営業だろう。


 「えっと、田中さんは……」


 何かを言いかけた彼女は、口をパクパクさせながら首を傾げる。


 「どうしたんですか?」


 怪訝な顔をして言うと、彼女は困った顔をした。


 「いえ、その、うーん。そうか、言えないのか」


 何かボソボソと言いながら一人頷いている。この人、大丈夫だろうか。


 「今広告系でお願いしたい仕事はないんですが、新しい営業ですか?」


 そう聞くと、佐藤と名乗ったその女性は慌てて手を振った。


 「すみません、お仕事の話じゃないんです。個人的なお話で」


 まさか、ついに僕にも春が……と言いたいところだが、この女性とは仕事でも会った事すらないはずだ。


 「面識、ありましたっけ?」


 女性をじろじろ見るのは失礼と思いつつ、改めて彼女を見る。

 黒のボブヘアーに、赤いメガネ。綺麗よりは可愛い雰囲気を持った彼女に、会った事があるのだろうか。いや、ない。


 「まだ二千十九年だし、ここではないんですけど、えっと、あ!」


 彼女は自分のバッグをガサゴソと漁り始め、メモとペンを取り出して何かを書き始めた。


 「やはり、今日が初めてですよね?」


 彼女は顔を上げず、書き終えた紙を僕に渡してきた。


 「あの、言ってる事が分からないかもしれませんが、数年後に私の事を知るはずです。その時に連絡してほしいんです」


 そう言って渡された紙を見ると、花の模様が描かれた紙に、佐藤という名前と電話番号が書かれていた。


 「それって、どういう……」


 「すみません! これで失礼します!」


 急に立ち上がって伝票を持ち、追いかける間もなく彼女は店を出て行ってしまった。


 「な、なんだったんだ」


 残された僕は、独りごちった。




***********




 「先生! 先生! 田中さんが目覚めました!」


 白い天井が見える。

 どうやらベッドに寝かされているようで、体が思うように動かせなかった。

 頭をなんとか動かして周りを確認すると、ここは病院の様である。


 「田中さん、気分はどうですか?」


 答えようにも、上手く声が出せない。


 「ゆっくりでいいですからね。ゆっくりと体の機能を回復させましょう」




 どうやら一年ほど昏睡状態だったらしい。両親も同僚も見舞いに来てくれて、体の機能も回復したが、一つだけ引っかかっている事がある。

 夢で片付けるには難しい程、鮮明に異世界での記憶が残っているのだ。


 退院した僕は、真っ先に家の机に向かい、一番上の引き出しを開けた。

 あの意味も、今なら分かる。彼女も自分の記憶が本物かどうかを確かめたかったのだろう。




 僕は引き出しの中から、リコリスの花が描かれた一枚のメモを取り出したーー。

【モブな私としましては。】いかがでしたでしょうか?

お時間ありましたら、感想や評価頂けると嬉しいですm(_ _)m


ブクマしてくださった皆様、評価してくださった皆様、読んでくださった皆様のおかげで、最後まで書き終える事ができました。

本当にありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ