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モブな私としましては。  作者: ちょこ
モブな私としましては。
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 「おう!良く来たな」


 「わぁ〜イル君、それにリコリスさん、久しぶりだね!」


 「………」


 呼び出されたのは謁見の間ではなく、王個人の執務室。

 しかも、レヴァンとヴァシスはたっぷりと琥珀色の液体が注がれた豪華なグラスを傾けている。その顔は真っ赤に染まっていた。種族の頂点に立つ二人が、まさか昼間から酒を飲んでいるとは。


 その後ろでは、長身の吸血鬼とミランダが窶れた顔をして立っていた。心の中で合掌する。


 「何というか、もう、二人とも残念で仕方がないですね」


 「魔王様、何故こちらに?」


 青筋を立てて笑顔で言うイルに、ヴァシスは純粋な笑顔を向ける。


 「レヴァンから良い酒が入ったって連絡があって、つい」


 「つい、じゃないでしょう! 全く……」


 イルは額に手を当てて、大きなため息を吐いた。


 「まぁまぁ、毎日忙しいんだから、たまにはいいじゃない。イル君もどう?」


 「結構です。それで、要件は?」


 強い口調で言うイルに、ヴァシスがやや小さくなる。


 「そうせかすなや、とりあえず座れって」


 促されて豪華なソファーに腰掛ける。隣に座ったイルは、感情が一周回ったのか項垂れていた。


 レヴァンが咳払いをして、改めて向き直る。


 「今回の件、いろいろ助かった。これから徐々に人族と魔族の共存を目指していくつもりだ。嬢ちゃん、そして、人狼たちに何か褒美をやろうと思ってな」


 「……褒美?」


 首を傾げる。むしろ私は事態を掻き回してしまった感があるのだが。


 「そうそう。レヴァンと僕からのご褒美だから、大抵の事は叶えられるよ」


 「勲章や金銀財宝、何でも希望を言ってみろ。まぁその希望が通るかは別問題だけどな。何なら嬢ちゃん、城で働くか? あ、俺の嫁になるか?」


 にやけて言うレヴァンの顔にグーパンチをお見舞いする。


 「年頃の乙女に何言ってんですか。訴えますよ」


 なかなかに自分にもダメージがあったので手を振りながら言うと、レヴァンは顔を抑えながら呻き声を上げた。


 「お、おい……俺は仮にもこの国の王だぞ」


 長身の従者は見て見ぬ振りをしている。むしろ、良くやった、という顔をしている気がするのは気のせいだろうか。


 「今、私はただのゴロツキであるアランさんを殴りましたー。王? 知らないなぁ」


 「全く、いい根性してるぜ……」


 しれっとした顔で言うと、レヴァンは呆れ顔で言った。


 「まぁまぁ、二人とも、戯れ合うのはそのくらいにして。イル君はどう? 何か望みはある?」


 ヴァシスが宥めるように両手を広げ、イルに話を振る。

 イルは顎に手を当てながら、宙を見た。


 「そう、ですね……」


 意外と真剣に考えているようだ。


 「なんでもいいよ。そうだ、タナスに大きな家でも建てる? 人狼みんな住めるようにさ」


 ヴァシスがジェスチャーを加えながら嬉しそうに話すが、イルの反応は芳しくない。


 「あー、じゃあ、ルメスの住民権をください」


 「は?」


 「え?」


 「へ?」


 レヴァン、ヴァシス、私の順で、似たような反応を返してしまった。


 「何だかんだ、みんなルメスの生活が楽しいみたいで。住民とも仲良くなってきてますし。タナスに帰って今までと同じ生活をするより、刺激がありそうです」


 ヴァシスがあからさまに肩を落としたのは見間違いではないはずだ。


 「そうかそうか! 人族の生活が気に入ったか!!」


 逆に、勝ち誇ったようにレヴァンが笑いながら言った。


 「そうですね。リコリスもいますし」


 「は?」


 「え?」


 「へ?」


 デジャヴな反応を返すが、イルは涼しい顔をしている。


 「面白い人族もいたもんです。これからもっと面白いものが見られるかもしれないじゃないですか」


 そう言って向けられた顔に浮かんだ表情は、決して純白な天使のような笑顔ではない。


 「ま、まぁ、イル君がそう言うなら、僕はいいと思うなー」


 「俺も、うん、そんな事くらいならどうにでもしてやれる、ぜ?」


 助けを求めるように視線を向けると、目を逸らしながら二人はそう言った。酷い。


 とはいえ、今のルメスで人狼たちはかなり大きな役割を担ってくれている。だからこのまま定住してくれるのは悪い話ではないのだが。私は間違いなく書類に埋もれる事になるだろう。


 「社畜は変わらず社畜のままか……」


 ぼそりと呟くと、ヴァシスが苦笑した。


 「まあ、他にも何か要望があれば頼れよ。人族と魔族は、もう敵じゃないんだからな。それで、嬢ちゃんはどうする?」


 レヴァンがイルに笑いかけ、私に向き直る。


 「あ、そしたら、そろそろあの件をお願いしますよ」


 私が言うと、レヴァンとヴァシスが顔を見合わせる。


 「あの件?」


 キョトンとするレヴァンに、勢いよく立ち上がって指を突きつける。


 「忘れたとは言わせませんよ! 裏路地のお店!!」


 鼻を膨らませてそう言うと、レヴァンが一瞬固まり、大声で笑い出した。


 「ガーハッハッハッ! 嬢ちゃんは大きな事をしたのに変わらねぇな! 間違いねぇ、約束は約束だ。連れてってやるよ。でも、そんな事でいいのか?」


 「うーん、そうですね。じゃあ、美味しい物を手に入れたらお裾分けしてください。美味しいお店があったら連れてってください。あと、美味しい物が開発されたら……」


 顎に人差し指を当てて考えながら言うと、レヴァンが手で制する。


 「待て待て。そんな事でいいのか? ヴァシスも言ったが、大抵の事は叶えられるんだぞ?」


 そう言われ、今度は私がキョトンとした顔を返す。


 「そうだよ、リコリスさん。例えば、王の側近とか、何なら魔王の側近とか。そうだ、いっそ魔王やる?」


 真顔で言うヴァシスをイルが睨む。


 「いえ、そういう一般人からかけ離れたご褒美なんて身を滅ぼすだけです。今の生活が気に入ってますしね!」


 私は笑顔でそう言い切った。




 **********




 数年後。


 「リコリス、この書類なんですけど」


 「リコリスー! 建物の構造についてなんだけどよ」


 「リコリスさん、お客さんですよ」


 「はいはいはい! 私は一人しかいないんだから順番にお願いします!」


 相変わらず私は忙しい日々を送っていた。


 ルメスは大きな発展をしている。工事していた港も開港し、貿易も増え、商業も盛んになり、人も増えた。今では、アグーラに次ぐ大きな町だ。

 役所も人員が増え、人族だけでなく、人狼以外の魔族も職員となっている。魔族の数だけで言えば、アグーラよりも多いかもしれない。


 「リコリスさん、聞いてよー! ミランダ君がお茶の時間も働けって言うんだよ!」


 「嬢ちゃん、聞いてくれ。俺、仕事のし過ぎで側近に殺されるかもしれない!」


 ガタガタと音を立ててながら窓とドアが開き、悲痛な声が響いた。

 私は大きくため息を吐いて、顔を顰める。


 「あーもう、なんで王が揃って来るんですか!」


 役所の職員はいつもの事なので、特に気にしない様子で粛々と仕事を続けていた。


 ルメスに人が多いのは、王と魔王の溜まり場である事が噂として流れているのも大きな要因だ。それだけ安心出来る場所、という認識がされているらしい。

 大変残念な事に、本当に溜まり場になってしまっているわけだが。


 「リコリス、そんなのほっといてこの書類を早く。急ぎなんです」


 「イル君、そんなの扱いは酷くない?」


 「リコリスさん、お客さん結構待たせてるんですけど……」


 「もうルークでいいよ、これ見てくれ」


 「カイト君、その言い方はさすがの僕もちょっと傷つく」


  意見を交わし合っているルークとカイトに、側近の魔族に引きずられているレヴァン。言い合いをしているヴァシスにイル。そして、それらを遠巻きに見守る、新しい役所の職員。


 ルメスの賑やかな日常に、思わず頬を緩める。


 「さぁて、頑張りますかね!」


 パンッと手を叩く。


 振り返ると、いつもそうだった。

 目の前の事を全力で楽しみながら精一杯頑張る。

 これから先の事は分からないが、ヴァシスとレヴァンは共存の道を模索しているし、現にルメスは上手くいっている。


 みんなが個々に頑張った先には、幸せな未来が待っているはずだ。


 明るく美味しく元気良く、明るい未来へ向けて、まずは目先の書類に取り掛かるのだった。

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