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モブな私としましては。  作者: ちょこ
モブな私としましては。
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 先が見えないほど真っ直ぐ伸びた広い道。両脇には相変わらず、色とりどりの果物や食べ物を売っている屋台が所狭しと並んでいて、ちょうど初めて来た時と同じお昼時。

 レヴァンに呼び出され、久々にアグーラへ来ていた。


 まだまだ忙しいルメスであったが、王の命となれば断る訳にもいかない。ルークとカイトは血の涙を滲ませながら送り出してくれた。


 「良く考えると、アグーラに来たの初めてです。俺」


 イルが珍しく、きょろきょろと周りを見回している。


 昼食を求める人で溢れかえっているのは変わらないが、一つだけ、大きな変化がある。


 「ママー、あれ食べたい!」


 「ちょっと待ってね、ここはお金が必要なのよ。これで足りるのかしら?」


 そんな会話をしながら、肌に緑色の鱗を纏った親子が目の前の屋台に並んだ。


 「ねぇ、あのお花ステキじゃあない?」


 「君の方が大きくてキレイだよ」


 「まぁ……! あなたの棘もステキよ」


 甘い言葉を、甘い香を漂わせながら言い合う、大きな植物が花屋を見ている。


 そう、ここアグーラに魔族がいるのだ。




 戦争が終結し、私が半泣きになりながら書類整理に追われている間に、レヴァンが国をあげて月に一度、魔族との交流を始めたのだ。


 もちろん、最初は歓迎されるはずもなく、ほとんどの住民は家から出なかったらしい。


 初日を終えた後、レヴァンがルメスにやって来て、やけ酒を飲みながら愚痴っていた。散々管を巻いた後、長身の魔族に引きずられながら帰って行ったが。

 吸血鬼である長身の彼は、魔王の側近から王の側近へ転職したらしい。

 彼曰く、「魔王様のご命令とあらば例え親の仇でも仕えます」とのこと。部下の鏡だ。


 彼らが帰った後、今度はヴァシスが愚痴を言いに来た。

 ルメスの役所は相談所じゃないんだが。

 ヴァシスの場合はイルに見つかり、慌ててワープで逃げていった。


 何とも見ていられない彼らに、一つ、思いつきで案を出してみたところ、これが随分と上手くいっているらしい。




 そんな事を考えていると、前方から黄色い声が上がった。


 「来てたのか」


 女性に囲まれながら金髪碧眼のイケメン勇者、ディオンが近づいてきた。


 「おー、しっかりお勤めしているようで何よりです」


 そう言うと、ディオンは眉間に皺を寄せた。


 事実がどうあれ、ディオンが黒幕だった事を知らない人族にとって、勇者は希望だ。魔族がアグーラに入ってきても、彼が見回りをする事で、人族に安心感を与えているのだ。


 これが私の考えた案である。


 「変な呪いを受けさせられた上に、ミランダまで人質に取られてるんだ。そりゃ働く以外ないさ」


 そういえば、ディオンを外に出す前、悪事を働かないように人族と魔族の知恵を結集して呪いをかけたと、ヴァシスとレヴァンが言っていた。それだけ聞くと、物凄く強力そうな呪いである。

 そして、当の本人は何があったのか分からないが、牢に入れられている間に憎しみ以外の感情も芽生えたらしい。大分丸くなった印象を受けた。

 ちなみに、ミランダは人質として魔王の元で働いている。


 「むしろ、処刑にならないだけありがたいと思いなさい。というか、ものすごーく良い待遇じゃないですか」


 顔をすぼめて言うと、ディオンは俯いた。


 「そうだな。殺されても文句言えねぇよ。それなのに、生きていればまたいつかミランダに会えるんだ。償いきれる事じゃないが、俺が出来る事をしていくよ。王に進言してくれて、あ、ありがとな」


 ぶっきらぼうにそう言ったディオンの態度に相好を崩す。


 「なんという改心っぷり……。人族って良く分からないな」


 イルがぽつりと呟いた。


 「うるさい、お前ら魔族には一生分からねーよ! とりあえず、それだけ言いに来ただけだから、じゃあな!」


 膨れっ面でそう言い放って走って行ったディオンを複雑な気分で見送る。


 彼は大量の人を殺した。そして、彼の為にミランダはジーニャとラウロを殺した。

 それなのに、憎みきれないのは、何故なのだろうか。


 今はまだ分からない。だが、相手の在り方も私の在り方も、きっと時間が答えを出してくれるだろう。


 口を閉ざしていると、イルが私を一瞥して怪訝そうな顔をした。


 「人族は随分と感傷的ですね」


 「人族という括りでもないと思いますけど、まぁ、いろいろ思うところはありますよ」


 そう言って視線を上げると、イルも釣られて前を見た。


 「それにしても、不思議な光景ですね。人族の中に魔族がいるなんて」


 「そうですねぇ。と言っても、ルメスで人狼と一緒だったし、そんなに長生きしてない私としては、そこまで感慨深い事でもないですが」


 そう返すと、イルはにこやかに笑いながら私を見る。


 「これからの世代が、みんなそう思える……むしろ、魔族と人族が共に生活するのが当たり前な世の中になるといいですね」


 ぎこちないながらも人族と魔族が言葉を交わしている姿を見ると、そう遠くない間にイルの思想は現実味を帯びるだろう。


 「そうですね」


 そう言って、私も笑った。


 「さて、そろそろ王宮に行かないと。レヴァンさんが探しにきたら面倒だ」


 レヴァンの名前を呼ぶイルに、自然と口元が緩む。


 「なんだかイルさんが人の名前を呼ぶの、慣れないですね」


 イルは戦争の後、役所のメンバーやレヴァン、そして、町の人たちの名前を徐々に呼ぶようになっていた。


 「認めた相手の名前は呼びますよ」


 「私の場合は間違った認識からでしたけどね!」


 「まぁ、それは、そういう事もありますよ」


 口籠るイルの背中を笑いながら押した。


 「では、美味しい食べ物で許してあげましょう」


 「まったく、リコリスは本当に食べる事しか考えてないですね」


 「それは言い過ぎじゃない!?」


 「そんな事もないと思いますが、何をするにせよ、まずは王宮に行ってからですよ」


 「は〜い」


 少し肩を落としながら、王宮までの大通りを歩く。


 楽しそうに笑う人に、嬉しそうな魔族の子ども。ヘリウスでは見かけない物を売っている魔族の露店、そして、そこへ群がる物好きな人族。

 少しずつではあるが、お互いが歩み寄っている様に見える。


 気づくと笑顔になっていた。ついこの間までは敵対していたのに、人族も魔族も、随分と順応力が高い。


 心地良い雰囲気を堪能しながら、イルと一緒に大通りを歩いたのだった。

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