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モブな私としましては。  作者: ちょこ
戦う私としましては。
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38

 「計画に変更があってな。貴様と一騎討ちするために、場所を変えたのだ」


 その声に振り返ると、ヴァシスが堂々とした足取りで進み出てきた。口調と威圧感が魔王のそれだ。どうやら魔王モードに入っているらしい。


 「お前が魔王か。なるほど、魔王に似つかわしい恐ろしい風体だな」


 勇者が獰猛な笑みを浮かべて、剣先をヴァシスに定める。


 「ふん。人族風情が」


 鼻で笑ったヴァシスに、ミランダもグローブをしている両手で、ゆっくりと二本の短剣を構えた。


 どうやらヴァシスがワープをしたらしい。


 「み、ミランダさん!」


 ミランダは私の声に顔を向け、すぐに逸らす。


 「知り合いか?」


 ミランダは勇者の言葉に答えず、魔王を見る。


 「人質のつもりですの? 私たちには小指程の動揺も与えられませんわ」


 ついつい、ヴァシスと顔を見合わせる。


 「そうか、まさか魔王と共闘していると思ってもいないんですね」


 「なるほど、そういう事か。そしたら、このままリコリスさんを人質に取ってみる?」


 「いや、小指程の価値もないらしいですし……」


 「何をこそこそと話している! 早く元の場所に戻せ!」


 小声で話していると、痺れを切らした勇者が叫んだ。


 「元の場所に戻せ? 人族に被害を出したいのか?」


 困惑を表に出さず、ヴァシスが勇者に問いかける。


 「なぜ魔王がそんな事を気にするんだ。人数多い方が俺に有利だからに決まってるだろ」


 「勇者と魔王の戦いに、ただの人族が太刀打ち出来るわけがなかろう」


 「そんなのはやってみたいと分からないね。それに魔王軍はどうした? 単身で乗り込んで来るなんて想定外だ」


 苦い顔をする勇者に、ヴァシスが余裕の笑みを浮かべる。


 「軍を出すまでもないわ」


 それを聞いた勇者は、構えを解いた。


 「そうか。それなら、ヘリウス軍は生贄にくれてやるよ。食うんでも奴隷にするんでも、殺すんでも好きにしろ」


 突然の投げやりなセリフに、ヴァシスも私も目が点になる。


 「おいおい、勇者がそれじゃダメだろ……。無駄に血を流してどうするのさ。何のために一騎討ちしようとしてると思ってるの?」


 ヴァシスは素に戻ってしまう程、呆れているようだ。

 それもそうだろう、勇者の目的が分からない。


 「ちっ。こいつは使えねぇ。ミランダ、予定変更だ。魔王を殺してタナスまで攻め込もう。永遠の平和を得る為に、とでも言えば士気も上がるだろうさ」


 吐き捨てる様にそう言うと、勇者は剣を構え直した。


 「君は何を考えてるんだ? 人族にまで犠牲を出そうとして。憎んでるのは魔族じゃないの?」


 ヴァシスの言葉を勇者は鼻で笑った。

 そして、憎しみがこもった視線をぶつける。


 「俺が一番憎んでるのは人族だ。どっちが勝とうがどうでもいいんだよ」


 「それってどう言う……」


 ヴァシスが言いかけ、直後、刃物が何かに激しく当たった音がした。

 音を辿ると、ヴァシスが防御魔法で勇者の剣を防いでいる。


 「無駄話は終わりだ。俺は早くこの地を血で染めたいんでね」


 一気に緊張が走った。

 血走った目で言う勇者は、とても正気とは思えない。


 下から、上から、斜めから。

 勇者は絶え間なく斬りつけ、ヴァシスの防御魔法を突破しようとしていた。


 「君に何があったかは知らないけど、そんな事して何になるんだ! 落ち着いて考え直して!」


 ヴァシスが訴えるが、勇者は聞く耳を持たなかった。


 「生憎、もうそんな段階はとっくに抜けてるんでね。俺を止めたければ……殺せ!」


 狂気を孕んだ笑顔を浮かべながら、楽しそうに勇者は踊る。踊るように剣を振るう。


 体も思考も追いつかず、見ているだけしか出来ない私の視界にミランダが入ってきた。


 「ぐっ」


 二人からの猛攻撃に、ヴァシスが一歩後ずさる。このままではまずい。

 私にも何か出来るはずだ。この戦いを止める何かが。


 私の必殺魔法はくっ付ける事しか出来ない。この場合何をくっ付けるべきか。

 以前は魔力が少なかったので、地面と靴というピンポイントな方法しか取れなかったが、今、私はこれまでにない程の魔力を保有している。

 魔力が多くても出来る魔法は一つ。つまり、やる事は決まっているのだ。


 「よし、やってみるしかない」


 私は床に手をつけ、魔力を放出する。

 失敗しそうなフラグを立てない為に、さらりとやってみると、床が光りだした。


 「な、なんだ!?」


 「きゃっ!」


 「お、お、お!?」


 剣を振り回していた勇者とミランダが転けて地面に転がり、ヴァシスが尻餅をついた。

 その状態で三人の動きがピタリと止まる。


 「せ、成功!」


 「貴様! 何をした!!」


 勇者が向こうを見たまま、大声を上げた。


 「ただの生活魔法です。床に触れた部分は、もう離れませんよ!」


 名付けて、ゴキ○リホイホイ作戦。

 地味だが一番効果的だ。

 離れようともがく度に、接地面が増えて動けなくなってしまうこの魔法。


 問題を強いて上げるならば、激しく動く勇者たちをくっ付けておく為に、魔力を流し続けなければならない点だろう。加えて、魔力が大きすぎて上手くコントロールできず、ピンポイントで人を拘束できないから、この広間全てに範囲が及んでいる。更に、私自身も変な格好で動けないのだ。あれ、欠点しかないぞ。


 「おっ盛り上がってるな」


 「レヴァンさん!」


 奇跡的なタイミングで現れたレヴァンに、勝機を見出す。


 「ん? なんでそんな状態になってんだ?」


 「あああレヴァンさん、部屋に入らないでください!」


 「え? ぐぁ!」

 

 注意が間に合わず、既に踏み込んでいたレヴァンは片足が離れずにバランスを崩し、結局転んでしまった。


 広間で大の大人が三人、無様に転がり、残りの二人も中途半端な格好で動けずにいる。


 「リコリスさん、どうするのこれ」


 「えっと、ちょっと待ってくださいね。今考えてます」


 クライマックスが近いはずなのに、何とも締まらない状態に陥ってしまった。

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