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モブな私としましては。  作者: ちょこ
真実を知った私としましては。
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36

 「さて、と。じゃあリコリス、頑張ってくださいね」


 「善処します」


 「頑張れよー、そこそこ期待してるからな!」


 レヴァンが私の肩を叩く。痛い。


 昨日の会議で、レヴァンはルメス経由でアグーラへ向かい、イルはルメスでルークたちと共に人族の救出をする事となったのだ。

 もちろん、私は魔法の練習である。


 「イルさん、レヴァンさんをお姫様抱っこで連れて行くんですか?」


 そう言って茶化すと、イルが不快そうに顔を顰める。


 「野郎を抱く趣味はありません。仕方ないので、背負って行きますよ」


 「俺としてはお姫様抱っこでも良いんだけどな」


 ニヤニヤとするレヴァンに、イルが冷たい視線を向けた。


 「やっぱり簀巻きにして引き摺りますか」


 「じょ、冗談キツイぜ人狼君」


 後ずさるレヴァンに、冷たい視線のまま、イルが眉間に皺を寄せる。


 「いい加減その呼び方やめてもらえませんか? ルメスには人狼がたくさんいるんですけど」


 「悪かったよ、よろしく頼むな。イル!」


 レヴァンが盛大にイルの肩を叩くと、イルがふらついた。人狼にダメージを与えるとは、さすがレヴァンである。


 「やっぱり引き摺るか。いや、ぶん投げるという手も……いっそ道中で襲われたと言って海に流すか……」


 イルは恨めしげにレヴァンを睨み、ぶつぶつと物騒な事を言っていた。


 「あの二人、大丈夫ですかね?」


 「大丈夫大丈夫、二人とも戯れてるだけだよ」


 そう言って笑うヴァシスだが、笑い声が掠れている。不安だ。


 「あ! イルさん、この手紙をルークさんに渡してもらえますか?」


 忘れるところだった。

 手紙を差し出すと、イルがたじろいだ。


 「……恋文ですか?」


 「んなあほな」


 少しの間の後、ぼそりと言ったイルについつい素が出てしまった。

 私が帰らないとルークとカイトが心配するだろうと思い、状況と報告を書いたのだ。


 「まぁ、詮索はしませんよ」


 「え、あ、はあ。もう何でもいいんでとりあえず頼みましたからね」


 いろいろとツッコミ要素はあるが、めんどくさいのでスルーした。


 「じゃあ二人ともよろしくね」


 「おう! 任せとけ!」


 「それでは魔王様、行って参ります」


 二人を見送り、私とヴァシスは城の中へと戻った。




***********




 「へー、田中さんはゲーム会社に勤めてたんですか」


 「うん。新作を作ってる最中だったんだけど、どうなったかずっと気になってるんだよねぇ。佐藤さんは広告代理店だっけ?」


 「そうですよー。上司が使えなさすぎて、ストレス死ですよ絶対!」


 魔法を練習している間の休憩中は、前世の話をしていた。

 その間は前世の名前で呼び合っている。田中と佐藤なんてありふれている苗字なのに、ここではかなり新鮮だ。


 「ははは、広告系は上下関係も大変そうだね。僕もここに来る少し前に、代理店に依頼してさ。太ったいかにも偉い人って感じの人が来たんだけど、酷いプレゼンだったよ」


 その時の事を思い出したのか、ヴァシスが苦笑する。


 「そういえば、私の上司もゲーム会社にプレゼン行って大失敗したんですよ。しかも、その責任を押し付けられまして」


 これだからゆとりは、と言う奴ほど使えない。私の持論である。

 役職に胡座をかいてるやつもいるが、これだから団塊世代は、と言うゆとりは居ない。

 かく言う私はゆとり世代なわけだが。


 夢で制裁を加えてやったとはいえ、ふつふつと怒りが込み上げてきた。

 カップを持つ手に力が入る。


 「うわっそれは酷い。この世界なら魔法でぎゃふんといわせられるのにね!」


 口をへの字に曲げていたが、真面目にそう言ったヴァシスを見て、耐えきれずに笑った。


 「ぎゃふんて、死語ですよ!」


 怒りが嘘のように溶けるのを感じて、持っていたカップを口に運ぶ。

 お茶菓子はヴァシス製たい焼きもどきだ。甘くておいしい。


 「そ、そうかな?」


 ヴァシスはかなり落ち着いているし、もしかすると結構年上なのかもしれない。


 「年齢は聞かないでおいてあげますね! それで、結局その人は追い返したんですか?」


 「流石にお引き取り願ったよ。でも、後から若い子が来て、かなり強引に企画書を置いてってさ。その企画が良くて、結局そこにお願いしたんだ」


 「へー、その若者はやりますなぁ。ちなみに、どんな企画だったんですか?」


 「お、職業柄気になる? うち、若い会社でさ。スマホって分かる?」


 「え? あ、はい」


 一瞬、さすがに知らない人はいないだろうと思ったが、少し考えて納得した。転生した者同士では、生きていた時代が違う可能性もある。ヴァシスもなかなかに転生物を読み込んでいるようだ。


 「と言うことは、生きてた時代も同じくらいだね。で、うちはスマホゲームで急成長した会社だったんだけど、結構いろんな事に手を出しててさ。企業イメージを確立するために、代理店に依頼したんだけど……」


 口に含んでいた紅茶を勢いよく吐き出してしまい、慌てて口元を押さえる。危うく鼻からも出る所だった。


 「ちょ、ちょっと待った! その話、なんだかすごく知ってる気がします。いや、このご時世そんな会社いくらでもあるんでしょうけど……ほんと、ものすごーく知ってる気がする!」


 「ははは、これで頼んだ代理店が佐藤さんの会社だったら面白いね。なんて所に勤めてたの?」


 「そんな偶然あったら驚きますけどね。結構大手だから知ってると思いますよ、博楽堂ってところです」


 そう言うと、笑ったままヴァシスが固まった。


 「……佐藤さん、最後の記憶では何年でした?」


 「確か二千十八年の八月十七日、です」


 「……。僕は二千二十年だ。被ってるね。もしかして、辻君って知ってる?」


 「懐かしい! 後輩ですよ……ってまさか」


 「うん、企画持ってきた子が辻君だよ。半泣きになりながら、必死に資料を押し付けてきたよ。先輩が作った資料を見てください! ってね」


 後輩は彼しかいなかったので、かなり可愛がっていた。もちろん、仕事の上関係で他意はない。イケメンだったが、やましい気持ちはない。断じてない。


 まだ入ったばかりの彼は、そんな大きな仕事に関わっていないはずだ。そういえば、私が上司に提案した企画は、彼にも共有していたはず。


 「……それってもしかして、いろんな媒体を使った謎解きゲームだったりします?」


 「えっ、もしかして、あの企画作ったのって」


 「多分、私です」


 「……」


 かなりの衝撃だったのか、ヴァシスは黙り込んでしまった。


 辻は死んでしまった私の遺作を届けてくれたのだろう。そして、まさかそれが採用されているとは。しかも、ヴァシスの会社だったなんて。


 「あまりにも偶然すぎて驚きを通り越しましたよ。これはもう何かを疑いたくなりますね。田中さん、もしや意識だけ電脳世界で遊ぶゲームとか開発してません?」


 ジト目で見ると、ヴァシスは困惑を含んだ笑みを浮かべた。


 「僕の記憶では、さすがにそこまで技術が進歩してなかったと思うんだけど。でも、そうだったら面白いね」


 「それにしても、不思議な事もあるもんですね」


 やはり、私が死んだ所で世界は回る。

 それでも、死んだ先の事が少しでも分かった私は運が良いのかもしれない。


 辻はきっと、私が教えた通りに私の企画を生かしてくれただろうし、ヴァシスも満足してくれていたようだ。

 死んでから自分の残した物と触れ合えるなんて、なんとも複雑な気分だ。


 「あ、そろそろ練習再開しようか。僕たちにとって、向こうの世界は止まってるけど、この世界は動き続けてるわけだしね」


 そう言って差し出されたヴァシスの手を、勢い良く握る。


 「そうですね、頑張ります!」


 懐かしさと嬉しさと少しの痛みを胸に、私は今と向き合うのだった。

一方、ルメスでは……。


イル「リコリスから恋文です(-_-)」


ルーク「∑(゜Д゜)ここここここいbm!?」


とてつもない誤解が生まれていた。

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