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「まさか王様が人族の村を襲わせたって言うのかよ」
「可能性は無くもない、かな。正直、今の王はあまり国民の支持を得られていないんだよ。先代が有能すぎたんだ」
ルークが暗い顔で言った。
「魔王討伐を成功させて国民の支持を得ようとしてるって事ですか?」
カイトが話についてこれている事に内心驚きつつ、王の愚行に眉を顰める。
魔王を倒すかどうかの判断は難しい。常に不安と恐怖が隣り合わせにはなるが、あえて手を出さないというのも一つの方法だろう。手を出してこない相手にわざわざ戦争を仕掛ける必要もない。
戦争では多くのものを失ってしまうので、先代国王はあえて魔王に触れなかったのかもしれない。
もしそうだとしたら、今の王はなんと愚かな事をしているのだろうか。
「想像の域を出ないけどね。今の状態で仮に魔王が倒せたとしても、素直に喜ぶ人族は少ないかもしれないよ。ルメスはまだイルさんたちのおかげで食べ物があるけど、他の町はどうなっている事やら」
ルークがため息をつきながら言うと、イルが口を開いた。
「それなんですけどね。町の外では人族同士が食糧を奪い合ってる状況です。あれでは魔族と戦争どころではないですよ」
サラッと言われた町の外の情報に驚く。今までは何も教えてくれなかったのに。
「犯人の尻尾を掴めないかと情報を制限していましたが、もうその必要もないので」
私の表情を見たイルが付け加えた。
「なるほど。外はそんなに深刻な状況なんですか?」
そう言ってからルメスが占拠される前の状態を思い出す。確かに、あのまま徴収が続いていたら厳しかっただろう。
「そうですね。俺たちは先行してルメスに入ったからここは何とかなりましたが、他の町は魔族が占拠する前に人族同士が争っていて、手が出せなくなったみたいです」
もし全てが王の策だとしたら、この顛末はあまりにもお粗末だ。
人族同士を争わせて何の得があるのだろうか。
「魔王は他の町もルメス同様に占拠しようとしてたんですか?」
怪訝な顔をしてルークが聞くと、イルは迷う事なく頷く。
「はい。魔王様は無闇に人族を殺さないように、占拠してしまうつもりでした。幸い、戦力はアグーラに集まっていましたし。もう少し早く動いていれば間に合ったんですけどね」
アルミスが襲撃された事や、人族同士の争いは、魔王も予想外だったという事だろう。
全ては王の計画なのだろうか。
「ミランダさんは、何で急に行動を起こしたのでしょう」
ポツリと呟く。
ミランダが取った行動は、不確かな情報しかない中で、私たちが実際目にしている確かな真実だ。
彼女がアルミスを襲撃したとして、言い方は悪いが、このままルメスで知らぬふりを通した方が都合良いはず。
正体がばれるリスクを負ってまで、一緒に働いていた職員を殺し、人狼に罪を被せようとした理由が分からない。
「彼女はあの騒動に関しても、王から命令を受けていたのかもしれないですよ」
イルの考えは、人族と魔族を敵対させる為と思えば自然な答えだ。人狼と仲良く時間を共にするルメスが目障りだったから、手を出した可能性が高い。
ただ、わざわざ人が常駐している役所で事を起こす必要があるだろうか。
私だったら、夜中に殺してそこそこ分かりづらい場所に隠し、他人に発見させる。
「うーん、そうかもしれませんけど。そもそも、村への襲撃は一人でできませんよね? 共犯者がどこかにいるはずじゃないですか?」
そう言うと、一瞬時間が止まった。
「た、確かに。ミランダさん以外にも、この町に犯人がいるかも。考えたくないけどね」
誰もその可能性に気づいていなかったのか。ぎこちなく言うルークに、レヴィが意地の悪い笑みを浮かべる。
「あの場にいたそこの二人が共犯とか……」
「えっ俺は違うぞ!?」
「冗談でもやめてください」
カイトが慌てて、ルークがげんなりとした顔で抗議した。
「ま、まぁ、俺はここにいる三人は大丈夫だと思ってますし」
あからさまに動揺しながらイルが言う。
万が一敵だった場合、情報がダダ漏れである。私は少なくなってしまった役所のメンバーを疑いたくない。もちろん、町の人たちも。
この状況を打破する方法はないだろうか。
訪れた重い沈黙を破ったのは、ドタバタとうるさい足音だった。
「私が先ーーー!」
「俺が報告するんだっ」
大きな音を立ててドアが開かれ、モニカとケルンが雪崩れ込んできた。
「なんかあった? とりあえず落ち着きなって」
レヴィが呆れながらじゃれ合う二人を引き剥がしながら言うと、モニカがはっとした表情でイルを見た。
「イル兄、あのね!」
「人族がゆーしゃを連れてお城から出発するみたいだった!」
「あーーー私が言おうとしたのに!」
モニカがケルンに飛びかかろうとしていたが、レヴィの手によって封じられていた。
どうやら二人はアグーラへ偵察に行っていたらしい。
ついにこの時が来てしまった。王の見栄に振り回されて大量の命が奪われてしまう。
私は会議室の机に地図を広げた。何か出来ることがあるかもしれない。
「集団での移動だし、きっと南の川が細い部分を通りますよね。モネやアルミスを通って、タナスに入るつもりでしょうか」
地図上の想定ルートを指でなぞる。
それを覗き込んだルークが首を捻った。
「最初の情報だと、攻めてきた魔王軍をアルミスで迎え撃つって話だったよね。魔王軍が敵対しないと考えると、タナスまで入るのかな」
「さすがに魔王様だって、大軍で攻められれば自衛すると思いますよ。それにしても、勇者は厄介だな」
人族も魔族も無駄に死なせる必要はない。なんとかならないのだろうか。
トップ同士で話し合いの場を設けるとか。いや、王は魔王を殺したがっているから席にすらつかないか。
「そうか、勇者を説得するのはどうでしょう? 一度会った事がありますが、ちゃんと話は通じる相手だと思います」
勇者はヘリウス王国の希望であり、象徴であり、正義だ。彼を戦争の舞台から引きずり落とせれば、国民も従うかもしれない。
私の提案に、なぜかモニカとケルンが暗い顔をした。
「モニカ、言えよ」
「さっきケルンが言ったじゃん。だからまたケルンが言って」
「さっき俺が言ったからモニカに譲ってやるよ」
二人が何事かを押し付け合っている。
先程の元気はどこへいってしまったのか、倦怠感のあるやり取りだ。
「どうしたの?」
そう聞くと、モニカがそろそろと近づいてきて小声で言った。
「ゆーしゃの隣にね、いたの」
「え、何がいたの?」
なかなか先を言わないモニカに、ケルンが近寄って手を握り、私の顔を見て口を開く。
「ここから逃げた人族だよ」
ガツンと殴られたような衝撃を受けた。
ここにいた人族。つまり、ミランダの事だろう。
ミランダが勇者の隣にいたという事実は、多くの推測を生んだ。
勇者の隣という事は王の側でもあるわけで、王の命令を聞いていても全くおかしくない。
そうなると、勇者も王の管理下である可能性が高い。アルミスの襲撃も、勇者とミランダであれば二人で事足りるかもしれない。
「そういう、ことか」
ルークが呟く。
「なにがです?」
一人納得しているルークに訝しみながらイルが言った。
「ミランダさんがなぜ人狼と拮抗する力を持っていたのか。それが気になっていたんですが、理由が分かりました。勇者はパーティメンバーに自分の力を一部付与できるんです」
さすがは勇者。チートスキルを持っていたようだ。
「なるほど。ずっと疑問だったんですよね、なぜ歴代の魔王様たちが負けてしまったのか。いくら勇者とはいえ、所詮人族。魔王様に勝てるはずないんです。ただ、パーティーメンバーが勇者同等の力を持っていたのならば、それも理解できます」
「でも、それってつまり……勇者も確実に向こう側って事ですよね?」
私の問いに、誰も答えなかった。
もう戦争は回避出来ないかもしれない。タナスで人族との戦争が起こったら、さすがに魔王も全面的に人族と敵対するだろう。
いや、もう一つだけ試せる事がある。
私は一つだけ他人が知り得ない情報を持っていた。
それは些細な事だが、私にとっては、かなり重要だ。
「あの、イルさん」
「なんです?」
意を決して、顔を上げる。
「魔王に会わせてもらえませんか?」




