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モブな私としましては。  作者: ちょこ
懐疑的な私としましては。
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 私を連れたイルは、人狼が数人待機していた会議室にルークとカイトを呼んだ。

 やってきた二人の顔色も優れない。それもそうだろう、二人は私よりも長い時間を、ジーニャにラウロ、そしてミランダと過ごしているのだ。


 いつもより大分広く感じる会議室の、いつもの席に座わると、自然と空席に視線が動く。


 「そんな状態の君たちに話すのも気が引けるんですけど、そろそろ俺の知っている事を話しておこうと思います」


 「なんで今なんですか?」


 ルークの言葉に、イルは視線を逸らした。


 「今だから、です。きっかけは君たちがアルミスを魔族が襲ったと言った事。俺たちはその時点で本当にその情報を知らなかったんです。魔王様に確認をしても、魔族がそんな事をした事実はない」


 「そんなわけねーだろ、実際に人族の村一つ、一晩で皆殺しにされてんだぞ!」


 「それが魔族の仕業という証拠はありますか?」


 「そ、それは知らねえけど、それ以外にないだろ」


 イルは盛大にため息を吐き、こちらを見据える。


 「それに、ですね。こちらも村が襲われて惨殺されてたんですよ。アルミスが襲われるよりずっと前に」


 「そ、そんな……!」


 タナスの情報が私たち平民に伝わってくる事はほとんどない。きっと悪戯に伝えてしまうよりも、ブラックボックスにしておくことで国民が不用意に手を出せないようにしているのだろう。

 そもそも、それは勘繰りのし過ぎで、王ですら把握できていないのかもしれないが。


 「魔王様はそれでも動かなかった。魔族内でもかなり反発の声が上がったのにも関わらず。その魔王様が動いたのは、俺たちも知らなかったアルミスの襲撃が起こってからです」


 イルの説明に、顎に手を当てていたルークが言う。


 「それこそ、魔族の一部が勝手に動いたからでは?」


 「それはあり得ません。これはここだけの話に留めておいてほしいんですが」


 イルがそこで一度口を閉じ、私たちを見る。それほど重要な内容なのだろうか。

 私たちは視線を交わし合い、全員でイルに対して頷いた。それを確認したイルも頷き返して口を開く。


 「全ての魔族は魔王様と繋がっています」


 「繋がっている……?」


 そう聞いた私にイルが視線を向けた。


 「はい。前に話した、魔族の制約です。これは人族には分からない感覚でしょう」


 イルが言っている感覚は、かなりスピリチュアルなものだ。言っている事が全く理解できない。

 疑問符を浮かべている私たちにイルが続ける。


 「つまり、今代の魔王様は人族の殺生を良しとしていない。なので俺たちも積極的に人族を殺そうと思わないんですよ」


 「えっと、それはつまり……魔王の気持ち一つで魔族は敵にも味方にもなる。そして、今は味方だと言う事ですか?」


 頭の中で整理して言うと、イルが頷いた。


 「もちろん、魔族にも善し悪しがいるので全ての魔族とは言えませんがね」


 「それを俺らに信じろってのか?」


 カイトが吐き捨てるように言うと、イルは首を横に振る。


 「いえ、きっと無理な話でしょう。ただ、あなたたちと生活を共にして、少なくとも目の前で死なれたくないと思うくらいには情が湧いています。それだけは信じてもらいたい。まぁ、自分でも人族にそんな感情が湧くなんて驚きですけどね」


 そう自嘲気味に言い、顔を伏せた。


 「アタシもそう思ってるよ。モニカやケルンも可愛がってもらってるし、おっちゃん達もいい人たちだし」


 そう言ったレヴィに、ハンクやロンドも同意する。


 その様子に、私は立ち上がった。

 確かに彼らは魔族だ。ただ、今まで過ごしてきた時間に種族は関係あるのだろうか。何より、彼らから歩み寄ってくれようとしているのだ。

 顔を上げたイルを真っ直ぐに見て、ハッキリと言う。


 「私もそう思ってます。イルさんたちには、目の前でだけじゃなくても死んでほしくないです」


 その言葉に、イルは今まで見た事がない優しい笑顔を浮かべた。


 少なくても彼ら人狼は、町の立て直しを手伝ってくれて、その気持ちが住民にも伝わっていた。そして、今回も自分たちが傷つく事を恐れずに住民を守ろうとしてくれたのだ。


 「僕もそう思うよ。カイト君も、彼らは悪くないと分かってるんじゃないかな?」


 ルークが顔を向けると、カイトはバツが悪そうに顔を逸らした。


 「俺、考えるの苦手なんだ。でも、確かに人狼たちは俺たちに良くしてくれてる。おやっさんたちも、すごく助かってるって言ってたし。だから……さっきは悪かった」


 そう言うカイトに、イルは目を丸くして慌てて手を振る。


 「あ、いや、俺もちょっと言葉が悪かったです。それで、魔王様がこの町を封鎖しろ、と言った理由が分からなかったんですが……タナスとアルミスで虐殺を行った実行犯がここにいると推測していた可能性があります」


 一瞬、イルの視線が私に動いた。彼らは最初、魔王と同じ匂いがする私を守る為だと思っていたのだ。


 「これ以上被害を出さない為に、この町のどこかにいる犯人に監視を付けていた、ということですか?」


 私の言葉にイルが頷く。


 「あくまでも推測ですが」


 「魔王は一体何を考えているんでしょう? こういう言い方もどうかと思いますが、人族を守る事に魔族は何のメリットもないですよね」


 ルークが顎に手を当てて言う。確かにその通りだ。


 「俺たちもそこまでは分かりません。

ただ、この結果は本当に残念ですが、誰が犯人か特定できていない以上、話すことができなかったんです。人狼で封鎖しているとはいえ、なんらかの方法で内通している可能性もありましたし」


 「なるほど」


 「俺たちは魔族ですが、先程も言ったように、皆さんには死なれたくない。だから、この先何が起こってもこの町を守ってみせますよ」


 そう言い切ったイルに、ルークとカイトの顔に明るさが戻ってきた。何が起こっているか分からないこの状況の中で、心強い味方を得たのだ。


 「本当に、なんと言ったらいいか……。ありがとうございます。そして、よろしくお願いします」


 ルークに笑みを向け、イルが真剣な顔に戻る。


 「すみません、話が逸れてしまいましたね。それで、確認したかったのはあの人族は村が滅んだ時期にアルミスへ行く事はあったのか、という点です」


 自然と口を閉ざしてしまった中、ルークは戸惑いながらイルを見た。


 「そういえば、彼女は帰郷した時期と重なるかもしれません。信じたくはないですが」


 ミランダはアルミスへ行っている。その事実が重くのしかかってきた。

 あの時、自分で殺した村の事を心配している演技をしていたのだろうか。


 「もしそうだとしたら。あの戦闘力と足の速さを考えると疑わざるを得ないですね」


 「でも、ミランダが人族を殺して何になるってんだ? わざわざ魔族のせいにして……」


 「待ってください。普通に考えて、それだけの事をするとなると、流石に単独ではないはずですよね」


 私の言葉にイルが頷く。


 「そうですね。俺もそう思ってます。そこで、少し話を整理してみましょう。まず、魔王様が生まれる。その後、人族ではどうなりましたか?」


 「魔王が生まれた事は伏せられたまま、先代の王が亡くなりました。そして、今の王に代わり、勇者が現れてから少し経って魔王が生まれたと噂が流れました」


 ルークが考えるように流れを話す。

 そこでふとギルドでサラとルークが話した内容を思い出した。


 「あ、あれ、そういえばなんですけど。前に魔王と勇者は同時に生まれるって話じゃなかったでしたっけ? 町で初めて勇者を見かけた時には、町の人たちに魔王が生まれたなんて雰囲気がありませんでしたが」


 その言葉を聞いてルークが笑みをこぼす。


 「すみません、説明が悪かったですね。確かに同時に生まれますが、正確には同時代と言うんですかね。全く同じ瞬間に生まれる訳ではないんですよ」


 「そ、そうなんですか」


 ファンタジーだからそんな事もあるだろう、と片付けていた。流石に、全くの同時という不思議は起こらないようだ。


 「つまり、今代の王になって勇者が現れ、その後に魔王が現れた。討伐する為に徴収を行い、村を滅ぼされたというきっかけで戦争になっている。人族ではこういう流れになっているという事ですね?」


 イルのまとめに全員が頷く。


 「今代の魔王は知りませんが、先代魔王の惨殺が人族にはとても深い傷を与えているんです。だから、人族は先手を打って動いていた」


 ルークが言うと、イルが眉間に皺を寄せる。


 「魔族は村を襲撃してませんけどね。つまり、そのきっかけは魔王様を倒したい誰かに造られた可能性がある」


 魔族側の情報と人族の情報を照らし合わせると、一つの可能性が浮かんできた。


 「ま、まさか……」


 確かに先代魔王の脅威は残っている。とはいえ、生まれたての魔王へ国民全員が敵意を向けるだろうか。それまで魔族と人族は不干渉である事の方が多く、今代の魔王がそうであればあえて戦争する必要はない。

 だが、人族の村が襲撃されたらどうだろう。人々は完全に魔族を敵と認識するだろう。


 魔王を討伐することを決めた人物。それはもちろんーー。


 「人族の王は、よほど魔王様を排除したいようだ」


 そう言ってイルは呆れたようにため息をついた。

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