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モブな私としましては。  作者: ちょこ
懐疑的な私としましては。
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 どうやら助けられたらしい。

 騎士の振るった剣の先端が地面に突き刺さっていた。騎士団に動揺が走る。


 「そ、そこを退け。お前も反逆罪になるぞ」


 騎士団長が言うと、漆黒を纏った目の前の男は大きく息を吐いた。


 「くだらない」


 「なんだと? 奴も殺せ!」


 その一言で我に返った私は、地面に手を当てて咄嗟に魔法を発動する。


 「な、なんだこれ! どうなってる!!」


 「う、動けないぞ!」


 「何をした!」


 上手くいくかは分からなかったが、どうやら成功したらしい。騎士団員の靴と地面をくっ付けるイメージで魔法を使った。まさか騎士団相手にこの方法を試す事になるとは思っていなかったが、戦争となると弾数は多い方がいい。密かにグルーの練習していたのだ。

 最前列が動けず、二列目以降が動こうとしたせいで倒れ込んでいた。


 背を向けていた男は私を一瞥し、騎士団長に向き直る。


 「俺は何もしてませんけど。今引くなら見逃しますよ」


 「我々は騎士団だぞ! 逆らえばどうなるか分かってるのか!?」


 今にも爆発しそうな感情を顔に浮かべ、剣に手をかける騎士団長に対し、男はつまらない物を見るような目を向けた。


 「あー、どうでも良いです。まぁそちらがやる気であれば強制的に退去して頂く事になりますが」


 「あれー何してるのー?」


 場にそぐわない呑気な声が聞こえた途端、男の隣に少女が立っていた。


 「モニカ、一人か?」


 「ううん、もうすぐみんな来るよー」


 男は驚く様子もなく、モニカと呼んだ少女と言葉を交わす。

 少女の出現とその言葉に騎士団長が青ざめた。視線が集まっていたのに、誰にも察知される事なく、急に男の隣に少女が現れたのだ。

 それに、どうやら仲間もいるらしい。


 「リコリスさん!」


 会話を続ける彼らだけ時間が流れているような感覚の中、馴染みある声によって私の時間も進み始める。

 ゆっくりと振り向くとルークが走っていた。後ろからから役所の面々も追いかけてきていて、見知った顔にほっとする。


 「ここは一度退避しましょう!」


 ルークたちの登場がきっかけとなり、はっとしたように騎士団から声が上がった。

 こちらの仲間が増える事に危機を感じたのだろう。

 騎士団長の顔に葛藤の色が見えたが、団員の動揺を見て男に視線を戻す。


 「次はないと思え」


 「そちらもね」


 苦虫を潰したような表情を浮かべながら騎士団長は退避の号を出した。

 慌てて私は魔法を消し、騎士団は退却していったのだった。




 「あ、あの、助けていただきありがとうございます」


 ぺこりと頭下げる。


 「あー、うん、別に助けたって訳じゃないんですよ」


 改めて男と少女を見る。

 男の方は真っ黒な髪に真っ黒な服。緑色の瞳を持ったその顔はファンタジー補正がかかっている。つまりイケメンだ。

 武器らしい武器は持っておらず、はっきり言うと強そうには見えない。

 モニカと呼ばれたその少女は、男と正反対の真っ白な髪を持っていた。少女の動きと共に上の方で二つに結わいた髪が揺れている。ぱっちりとした目を付けたその顔は、不思議な物を見るような表情を浮かべていた。


 「どんな理由であれ、あなたが来なかったら私は確実に死んでいました。本当にありがとうございます」


 もう一度頭を下げる。


 「全く、リコっちは死ぬつもりだったのか?」


 「本当に焦ったんですからね」


 「でも無事で良かったですわ」


 「俺、早く行こうと焦りすぎて転んじまったよ……」


 次々と声を掛けられて、苦笑する。これだけ心配してもらえる私は幸せ者だ。


 「僕からもお礼を言わせてください」


 その様子を優しい目で見ていたルークが進み出て手を出した。

 それを見た男は首を傾げ、少し間を置いて口を開く。


 「とりあえず、この町の一番偉い人に会いたいんですけど」


 その言葉にルークと顔を見合す。ルメスで一番偉い人と言うと上司だろうが、今は不在である。


 「えっと、今で言うと一応僕です」


 「あ、そうなんですか」


 「何がご用ですか? 助けてもいただきましたし、役所の方でご用件を伺いますよ」


 男はその言葉に頷くと手を挙げる。すると、次の瞬間、いくつもの影が現れ、目の前に縛り上げられた五名の警備兵が転がされた。


 「それではその前に。ここは魔族が包囲したので無駄な抵抗はやめてください。抵抗しなければ何もしません」


 「は……?」


 集まった影は、白い毛に包まれていた。面長の顔の先端に付いた鼻、牙の生えた口、先の尖った耳が上の方にピンと立っていて、尻尾が生えーー。


 「俺たちは人狼です。抵抗したところで、あなたたちは到底勝てないでしょう。命を捨てるような真似はしない方が賢明だと思いますよ?」


 突然現れた魔族に、呆気なくルメスは白旗を上げる事になったのだった。




***********




 「僕たちをどうする気ですか?」


 場所を変えて役所の一室。緊迫した雰囲気の中、隣に座っているルークが言った。

 向かいには黒い男、もとい、イルと名乗った人狼が座っている。

 他の職員は対応に追われており、イル以外の人狼は外に待機していた。この部屋には三人しかいない。


 まさかこんなに早くルメスが落とされるとは思っていたかった。小回りが利く少数精鋭が、西の山から来たらしい。

 進軍に適さない上にアルミス方向で襲撃があった事もあり、西の山から来ると想定していなかったので警備が手薄だったのだ。警備が万全でも、守りきれていたかと言われると微妙なところだが。


 「抵抗しなければ何もしませんよ。ただし、町は封鎖させてもらいます」


 最悪の状況ではあったが、魔族が節操無しに人を殺さなかった事は幸いだ。話し合いにも応じそうな雰囲気である。


 「何が目的なんですか?」


 「うーん、当面はここに居座る気ですが、目的と言われても。あ、強いて言えば住むところと食糧は確保したいですね」


 「食糧、ですか……」


 今のルメスには、徴収のせいで食糧がほとんどない。人狼がどれほどの量を食べるか分からないが、到底足りないだろう。


 「現状、食糧に関しては人族を養うので精一杯です。町を封鎖するとなると、それすらも賄えなくなるかもしれません」


 二人の会話に口を挟む。話が通じる相手のようだし、後から言って反感を買うより最初に伝えておいた方が良いだろう。


 「ふーん、じゃあ食糧はいいです」


 思いの外、軽い返事が返ってきた。わりと重要な事だと思うのだが、魔族の考えている事は分からない。


 「要求はそれだけですか?」


 「今のところはね。人族に危害を加えるつもりはないですよ」


 「警備兵は解放してもらえますか?」


 「俺らに手を出さなければ解放します」


 「そう、ですか」


 今のところは、と付いてはいるが、身の安全は当面確保できそうだ。


 「あ、あとそこの子を貸してください」


 「え、えっと、何の為にですか?」


 私を見ながらそう言ったイルに対し、ルークが顔を曇らせて言う。


 「何の為に?」


 イルが首を捻る。


 「案内や、用聞きでしょうか? それなら僕や、他の人族を」


 「その子じゃなきゃダメだ」


 きっぱりと言い切るその物言いにたじろぐルークを手で制して、私はイルを見た。


 「分かりました」


 「リコリスさん!」


 「大丈夫ですよ。どの道戦ったところで勝てないんですし、危害を加えないという言葉を信じるしかないです。それに、私は一度彼に助けられましたから」


 「賢明な判断ですね。さて、話も終わりましたし、この町の案内をお願いします」


 イルは満足気に頷き、席を立ってドアへと向かう。


 「大丈夫、上手くやってみせますよ」


 心配そうなルークに声をかけ、私もイルの後を追った。

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