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モブな私としましては。  作者: ちょこ
ひもじい私としましては。
23/50

20

 「つまり、ここをこう通ってここに来て、村を襲撃したという事ですか?」


 「うん、魔法ギルドで聞いた話だとそのルートみたいだ」


 第一報から数時間後の、職員を集めた緊急会議。

 全員が蒼白で頭も働いていないが、ただ恐怖に怯えていては前に進めない。

 恐怖になんとか蓋をして、これからの事について話し合う為、地図を広げていた。




 ここ、ルメスはバナナ型の北の弧の中心辺りにある。ルメスから見て東側は山となっており、西側には大きな川、その先は山だ。つまり、北側はルメスを除いて海に面している街はない。

 アグーラはルメスから見て、川を挟んだ西南に位置している。

 間にある川はとても大きいが、南の下流に向かって枝分かれし、幅も深さも小さくなるので、歩いて渡れる場所もあるほどだ。

 タナスとヘリウス王国は山で隔てられているが、幾重にも重なる山脈が北から南にかけて徐々に低く少なくなっている。

 今回襲撃されたアルミスは南の山脈の隣にあり、タナスとの間を隔てる山々も低く少ない。土地の規模としては、ルメスの五倍近くあるため、中心となる大きな町以外にも、町や村が点在していた。


 「私が戻った時は、全くそんな気配がなくて……いつもと変わらないアルミスでしたわ」


 小さな声でミランダが言った。アルミスはミランダの故郷なのだ。


 「ミランダさん、ご家族やお知り合いは大丈夫そうですか?」


 「今のところ知らせはないですし、大丈夫だと思いますわ。襲われた村からも離れてますもの」


 その村は、一夜にして全ての命が消えたらしい。消えた命は千にも及ぶが、その襲撃を目撃した者はいない。

 アルミスの中でも最南端に位置し、隣接するメティス寄りにある村である。

 結果的に目撃されなかったとはいえ、道中で冒険者の目に触れる可能性も高いタナスから離れたこの村を、あえて選択した理由が分からない。


 「なぜ魔王軍はこの村を襲って、尚且つすぐに戻ったのでしょう」


 地図を見ながら眉間に皺を寄せる。進軍してきた訳ではなく、少数で襲って、またタナスへ戻ったようだ。


 「この村は中心の町とも他の村とも距離がありますし、援護も来ないと思ったのでは?」


 私の疑問にルークが答える。言った本人も首を捻っているが。


 「単純に、南側を進んで辿り着いた村がそこだったのかもしれません」


 「アルミスの中では人数が少なかったからじゃねーか?」


 ルークに続き、ジーニャとカイトも発言する。


 「いくら山が低いとはいえ、越えてくるのに何日かかかるはずです。わざわざ越えて、一つの村を襲撃して、また戻る事に意味が見出せません」


 「もしかすると、小手調べかもしれないし、牽制かもしれない。ただ無意味に殺傷衝動に駆られただけかもしれませんし、魔族の考えている事なんて分かりませんよ」


 ジーニャが嫌悪を含ませた声で言った。


 「確かに、王宮そういった内容は王宮で議論されてるでしょうし、今はルメスをどう守るかを考えるべきだね」


 ルークのその言葉に全員が頷く。

 しこりが残ってはいるが、私も頭を切り替えた。


 「南の塀は完成してましたよね?」


 「あぁ、そこは終わってるぜ。体の作りが違う魔王軍にどれだけ効果あるか分からないけどな」


 カイトが両手を頭の後ろで組みながら言った。


 魔族は身体能力が人族より遥かに高い。基本的に魔法は使えないが、一部、高位な魔族には魔法も操れる者もいる。

 塀は足止め程度にしかならないだろう。


 「もし魔王軍がアグーラを狙うのであれば、ルメスは通らないはず。アルミス、メティス、モネ、テルプ辺りが通り道かな。他の土地はどうなっているんですか?」


 目の前の事で精一杯で頭が回っていなかったが、他の町がどうなっているのかを確認していなかった。


 「さっき早馬で届いた内容だと、アルミスを戦場と想定して住人が避難しているらしい。それと徴兵が始まったようだよ」


 ルークが書類を確認しながら言った。メールも電話もないこの世界で、情報の伝達はタイムラグが大きい。早馬の情報もどこまでが正しいか分からないが、今はその内容だけが頼みの綱だ。


 「どれくらい人が集まるんでしょうね」


 「どうだろう。でも、勝たないとこの国の人族は終わりだからね」


 「ですよね……」


 いくら前世の記憶があるとはいえ、一般人だった私は戦いにおける知識なんてものは皆無だ。

 ただの村人Aである事がもどかしく、とはいえ何か役に立てるかというと全くの無力である事が悔しい。


 「勇者がいるし、なんとかなるんじゃね?」


 「今までは確かに勇者が勝ってきました。でも、前回は相打ちだったし、人も沢山死にます。なんとかなるかもしれないけど、ならないかもしれないでしょう」


 カイトは空気を明るくしようと言ったのだろうが、ジーニャには余裕が無かったようで睨まれていた。


 「勇者、か」


 そう呟き、イケメン勇者を思い浮かべる。

 漫画や小説だと、勇者という存在は人々に希望を与え、ボロボロになりながらも仲間との絆や何故か湧き出る圧倒的な力で敵をねじ伏せるのだ。

 途中でハラハラするシーンもあるが、ハッピーエンドになる事が決まっているから楽しめる。


 対して、酒場で見たあの勇者はどうだろうか。


 物凄い力を秘めていたとしても、普通のイケメン青年に見えた。イケメンの時点で普通じゃないという点は置いといて。

 少し言葉を交わしただけの勇者だが、リアルな触れ合いで漫画や小説に出てくるキャラクターよりもずっと親近感を感じる。

 気さくなあの青年は、その時まで勇者という自覚もなく、若くして急に人々の希望を背負う事になってしまったのだ。

 それがどんなに辛いものなのか、想像もつかない。

 彼が負けて人族が滅んだとしても、誰も文句は言えないはずだ。


 「勇者にはもちろん頑張ってもらうしかないけど、アルミス王国は何度魔族と戦争してると思ってるんだ? 戦略や戦術、きっと軍師が上手い事考えてくれるさ!」


 「そうだね、その為に辛い徴収にも耐えたんだから」


 カイトを視線で責めているジーニャに、ラウロとルークが言う。


 「各々が自分たちを守れば、必然的に国を守る事へ繋がりますわ。まずは私たちが生き抜く事を考えましょう」


 ミランダがふわりと笑って言うと、ジーニャは大きく息を吐いて目を伏せた。


 「ミランダさんには敵いませんね。確かに、まずは手の届く範囲で考えましょう」


 さすが神対応のミランダである。

 少し軽くなった空気の中、その日も遅くまで会議を続けたのだった。




 その数日後。


 「ま、また、徴収……?」


 「そうだ。各地からアグーラへの避難が進んでいるからな」


 「いやいやいやいや、だってあれだけ徴収してたんですよ? まだ潤沢にあるでしょう!」


 私は騎士団と対峙していた。


 「避難民がどれだけいると思っているのだ。遠征も始まるから全く足りていない。ルメスはまだ余裕があるだろう?」


 たまたま南の塀を確認しようと歩いていると、門が開き、ぞろぞろと騎士団が入って来たのだ。もちろん、上司を連れて。

 嫌な予感がしつつも用件を尋ねると、この状況にも関わらず徴収へ来たと言う。


 腕を組んで仁王立ちする騎士団長の言葉に、私は我慢の限界を迎えた。


 「いい加減にしてください。流石に王の命令と言えど、もう堪えられません。ルメスから渡せる物はもう何もないのでお帰りください」


 その言葉に騎士団長は目を細め、軽く片手を挙げる。すると、後ろに控えていた騎士が腰に携えている剣を抜いた。


 「反逆罪、という言葉を知っているか?」


 ゴクリ、と喉を鳴らす。

 この状況は極めて悪い。言葉を間違えたらその瞬間、頭と胴体が離れかねない。

 私が俯いて口を噤むと、それを見た騎士団長が口の端を吊り上げながら続けた。


 「物分かりが良いようだ。次に君がすべき事は分かるな?」


 そう、やるべき事は決まっている。

 一食分の食料を、三回に分けてギリギリ生活しているこの状況でこれ以上の徴収は無理なのだ。後悔はしたくないし、飢え死にもごめんだ。

 顔を上げて笑み浮かべる。


 「はい、分かってますよ。出口はあちらです。さっさとお帰りください」


 「そうか、余程君は死にたいらしいな」


 その言葉に後ろに控えていた騎士が前に進み出る。


 「騎士団は既に死んでいるようですね。騎士の心が」


 幼稚な挑発にも関わらず、騎士団長は顔を赤くして目を吊り上げた。


 「……殺せ」


 怒りを押し殺したその一言で、騎士が剣を振り上げた。

 反射的に目を瞑る。こんな終わり方をするなんて。




 ふと、風を感じた。




 「な、なんだ貴様は!」


 声が聞こえる、という事は、どうやら私はまだスプラッター物にはなっていないらしい。

 恐る恐る目を開けると、目の前は黒。

 「子どもに剣を向けるなんて、正気の沙汰じゃないですね」


 低い声色に釣られて顔を上げると、全身を黒で包んだ男が私に背を向けて不敵に笑っていた。

ご覧いただき、ありがとうございます!

次章から手動更新となるため、投稿時間が変動します。(木曜日投稿は変わりません)

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