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モブな私としましては。  作者: ちょこ
ひもじい私としましては。
22/50

19

 ルメスに戻った私たちは忙殺された。

 元々町としての機能が十分でなかった上に、これからの食糧確保や備蓄量の回復、警備の強化など、やる事が山積みだったのだ。


 「おかしい。お役所仕事のはずなのに定時で帰れた事がない気がする」


 戻ってから既に一ヶ月が経過していたが、一向に仕事が減らない。減るのはお腹と気力だけである。


 「リコリスさん、口じゃなくて手を動かしてください」


 私の机に新たな書類の山を築き上げたルークは、朗らかとは遠い笑顔で言う。

 その顔は初めて会った時同様、疲れ切っていた。


 「は、はひ」


 ルークもさすがに余裕がないらしい。ピリピリしている気がする。

 文句の一つも言いたくなるが、藪蛇を回避するため、げんなりとしながらも積み上げられた書類に手を伸ばす。

 その様子を満足気に見ていたルークの元に、ジーニャが小走りで近づいてきた。


 「ルークさん、面倒な事になりました」


 顔をしかめながら言うジーニャに、ルークが困惑した表情で首を傾げた。


 「十分面倒な事にはなってると思いますが、それ以上に面倒な事が?」


 その言葉に大きく頷いて私とルークを交互に見た後、ジーニャが言った。


 「上司が戻ってきました」


 一瞬呆ける。存在を忘れていた。


 「まぁ、面倒と言えば面倒ですが……そこまで大事でもないんじゃないですか?」


 ついつい本音が出てしまった。そう、上司が居ようが居まいがはっきり言って関係がないのだ。


 「ただ戻っただけなら取るに足らない事なんですけどね。騎士団を連れてきたんです」


 私の言葉に、ジーニャはため息を吐きながらそう言った。




 上司が戻ってくるなり職員全員を集めて話した内容は、とても受け入れられるものではなかった。

 王宮でどんなやり取りがあったかは知らないが、今後月に一度、徴収が行われるというのだ。

 さすがに各々が憤りを表して反論はしたものの、それは王の命であり、刃向えばルメス全体に処罰が下ると言う。


 「つまり、騎士団の皆様はこんな開発中で備蓄もほとんど残っていないルメスにわざわざ徴収へいらしたという事ですか」


 前回やって来た騎士団長と上司へ、口を歪めてルークが言うと上司は重々しく頷いて言った。


 「魔王討伐の為、国全体で協力しないといけないからね。頑張ろう」


 皮肉は通じないらしい。

 そもそも、上司が働いている所を見た事がない気がするのだが。

 いくら魔王を討伐するとはいえ、ここまでする必要があるのだろうか。


 「君たちは先代の魔王を知らないからそんな事が言えるのだ。我々は王を、延いては国の民を守る為、こうして物資の調達をしているのが分からないのか?」


 強い口調で睨みながら騎士団長が言ったその言葉に、開きかけた口を閉ざす。


 確かに前魔王の非道さは伝え聞いているし、どんな事態になるか見当もつかない。私たちの知らない所で魔王が進軍してきた際の計画が着々と立てられてきるのかもしれないし、目先の事に囚われすぎているのだろうか。


 「そうですわね。あまりにも事が起こらないものだから、私たちも現状の不満しか考えてなかったかもしれませんわ」


 ミランダが伏せ目がちに職員を見回す。


 「そう、だな」


 「虐殺されるのは御免ですし」


 ラウロとジーニャも、消化しきれていないであろう感情を抑えて頷いた。


 それ以上発言する者はおらず、重い沈黙が続いた。不満は有れど、騎士団長の言っている事も正しいのだ。納得は出来ないが、理解はできる。

 そんな中、ぐるりと一同を見回して騎士団長が口を開く。


 「さて、それでは徴収に移らせてもらおうか」


 言葉は出なかったものの、私たちは逆らわずに重い腰を上げて備蓄の収集に向かった。




**********




 「ひもじいよぉ〜お腹一杯ご飯が食べたいよぉ〜」


 「リコリスさん、はしたないですよ。でも、そうですね。さすがにそろそろ限界かもしれません」


 机に頬を付けて書類を放棄しながら言った私に呆れつつ、ルークもため息を吐く。


 最初の徴収から半年が経っていた。


 最初の頃は食糧問題を何とかしようと躍起になったが、徴収のせいで満足に食べ物が得られない。徴収の魔の手は備蓄では飽き足らず、他の保存食にまで及んでいたのだ。

 職員のみならずルメス全体の士気も下がってきており、状況としてはかなり悪い。

 他の町もこの状態ならば、王への不満が爆発していつ暴動が起こってもおかしくないはずだ。


 そんな最中、故郷を心配する声が上がった為、半年の間に交代で里帰りをした。戻ってきた時、誰も明るい顔をしていなかったので、どこも同じ様な状況なのだろう。

 ちなみに、私の村も徴収が始まっており、活気が奪われてた。両親は貧しくなっても明るく迎えてくれたが。


 「うーん、さすがに何か次の手を考えないといけないんですけどねぇ」


 頬に机の冷んやりとした感覚を感じながら、やる気のない声で言うとルークが唸った。


 「次の手と言っても、何をしても手詰まりになってしまうからね」


 以前警備隊長へ叩いた大口が現実のものとなっている今、お金に価値はない。

 それに、最近はどの町も守りに入っている事もあり、食糧を仕入れられないのである。

 加えて、自給自足をしようとしても、徴収がありーー。


 「あれ? これ無理ゲーじゃね?」


 「? ムリゲ?」


 「あ、いや、何でもないです」


 首を捻るルークを冷たくあしらい、改めて考える。そろそろ前世チート無双できないだろうか。

 とはいえ、私が過去にした事と言えば、もやしや豆苗の栽培、ぜんまいや筍、のびろにたらの芽などの山菜探しくらいか。そもそも前世は何でも買える環境である。食糧が潤沢にあったその知識など役に立つはずもなかった。

 この世界で手に入れた力もグルーという生活魔法だし、全く役に立たない。

 この魔法は書類をくっ付ける以外になにか出来ないのか。


 そこまで考え、ふと思い出す。

 そういえばサラが品種改良にも使えると言っていたような……。


 回転の鈍い頭をしっかり働かせるため頭を上げると、廊下からドタドタと荒々しい足音が聞こえた。

 きっとカイトだろうと当たりをつけてドアを見る。

 乱暴にドアを開け放って入ってきたのは、相当焦っているのだろう、息を切らして目を血走らせたラウロだった。


 「た、大変だ!」


 普段なら軽口の一つでも叩くところだが、あまりに異様なラウロの様子に言葉が詰まった。嫌な予感がする。


 「どうしました?」


 ルークも感じたのであろう、緊張した面持ちでラウロへ声をかけた。


 「ま、魔王がアルミスにある村を一つ滅ぼしたらしい!」


 「えっ……」


 思考は追いついていなかったが、体が先に反応した。産毛が逆立ち、無意識に自分を抱き締める。


 いつか始まるとは知っていた。いつかこうなる事も。唐突なその知らせに、心の底からどんどん冷えていく。


 言葉を失った私を見て、ルークがラウロに向き直った。その顔には血の気がない。


 「それって、つまり」


 膝に手をついて息を整えていたラウロが、はっきりと言った。


 「魔王軍が動き出したみたいだ」

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