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モブな私としましては。  作者: ちょこ
社畜な私としましては。
13/50

11

 お昼を食べてから馬車へ乗り込み、青い顔をしながら必死に揺れと戦っているラウロを見つつ三日半。アグーラへと到着した。

 警備ギルドはアグーラに本拠地があるのだ。


 夜に着く便だったので、当然宿が必要になる。そうなればもちろん、ブモ亭一択。

 元気よく扉を開けると、小気味良く鐘が鳴る。数ヵ月しか経っていないので店内は全く変わっていなかったが、懐かしさが込み上げてきた。


 「モアさんお久しぶりでーす!」


 大声で言うとパタパタと足音を立てながらモアが出てきた。料理中だったのだろう、葉物の野菜を握りしめている。


 「あら、リコリスちゃん! 良く来たわね」


 「モアさんの料理が食べたくて! あ、こちらは同僚のラウロさんです。彼も泊まるので、二部屋お願いできますか?」


 ラウロが軽く会釈し、モアも頭を下げる。


 「初めましてモアです。リコリスちゃんも隅に置けないわね」


 「ただの同僚ですから。隣人以下の関係ですから」 


 即座に笑顔で反応する。ラウロが何か言いた気にこちらを見たが、完全無視を決め込んだ。

 その反応を見て苦笑しながら、申し訳なさそうにモアが言う。


 「あら、残念。でもそうなると、リコリスちゃんごめんなさい。今日は一部屋しか空いてなくて……。ベッドは二つあるのだけれど」


 「とても仲の良い同僚なので、ベッドが別であれば同じ部屋でも全く問題ありません」


 ラウロがぎょっとして私を見たが、もちろん涼しい顔で無視である。モブ亭の食事を逃すくらいなら女を捨ててやる。


 「そう? じゃあこちらへどうぞ」


 モアが背を向けて階段を登り出した。

 それを見たラウロが慌てて声を張り上げた。


 「いや待って待って! さすがにそれはどうなのよ」


 私は華麗なスルースキルを発動し、モアさんの後ろについて行く。


 「さぁモアさん、行きましょう」


 「ちょっと待てって、俺一応おと――」


 「モアさん今日のお夕飯はなんですか? え! 豚のシチューですか。あれとても美味しかったんですよねー、また食べれるなんて!」


 「ちょ、待っ――」 


 「あ、わざわざ私のために? 嬉しいです!」


 「ちょま――」


 階段を登りきるとラウロの声は聞こえなくなった。

 結局、ラウロも美味しい食事に丸め込まれて同じ部屋に泊まったのだった。




 **********




 そんなこんなで交渉当日。


 「新しい魔王が誕生したらしい」


 がっちりとした体形に濃い眉。濃い顔に濃いオーラを纏った警備隊長のガランは、開口一番にそう言った。


 「は、はぁ……」


 魔王と言われてもピンとこない田舎者の私であるが、隣のラウロは驚いて声が出ないようだ。


 「あくまでもまだ噂だがな。噂とはいえ、富裕層の多いアグーラから警備ギルドへの依頼も増えてきている状態でな」


 「えっと、それはつまり……」


 「人員は限りがあるということだ。非常駐含め十名の希望という話だが、到底無理だ。一人も出せねえな」


 話を聞こうともせずに秒殺である。納得できるわけがない。


 「それは困ります! 開発中の土地ですよ? 万が一魔族が攻めてきたとして、アグーラの上流に位置するルメスが占拠されたらどうするんですか!」


 机をバンッと叩き、勢いよく立ち上がる。

 その音で我に返ったラウロも続けた。


 「アグーラには川もある。そう簡単に向こう側へは行けないだろう? それに、騎士団もいるじゃないか」


 会社運営のような警備ギルドとは別に、騎士団というものが存在している。

 騎士団は王に指揮権があり、王と王宮があるアグーラを守っているのだ。


 ガランは太い眉を寄せて顔を振り、ため息をついた。


 「何故だかは分からんが、アグーラの騎士団の動きが鈍いんだ。それを不安に思った富裕層が、自分の身は自分で守ろうと警備ギルドに殺到しているわけだ。こっちも仕事だからな。金払いが良い上客を逃す手はないってこったな」


 「痛いところ突くな。確かに役所はそこまで金を積めるわけじゃない」


 ラウロが早くも白旗宣言をしている。が、ここで諦める私ではなかった。 

 あえて余裕の表情で腕を組む。


 「ほぉ~う。お金が全てですか? アグーラの為に開拓地で頑張ってる人たちを見捨てて、人の上に胡坐をかくような人たちを守るんですか? そもそも、戦争が始まったらお金なんでゴミ同然ですよ。お金があっても物が買えなくなるかもしれませんし、労働者を敵に回さない方がいいと思うな~」


 「そんなことになるわけないだろう。金があればなんとかなるもんさ」


 「そうですかね? 富裕層の人たちが食べ物を買い漁って物価が高騰。はした金じゃ何も買えなくなりますよ。あぁもしかしたらお金ではなく物々交換の時代に逆戻りかもしれません。富裕層は自分たち可愛さに食べ物を分け与えるような真似はしないでしょうしねぇ。そうなったらもちろん、私たちは警備ギルドに何も施してもらえないわけですし、何かを分けるという選択肢もないですけど。ルメスは海も近いし、農業も盛んだし、食べ物に困ることはないんですけどね~。さ、ラウロさん帰りましょうか。他にアテもありますし」


 噛まずに言い切って席を立ち、ぽかんとしているラウロを引っ張りながら扉に手をかける。


 「ま、待て待て、少し落ち着け!」


 引き留める声に、自然と黒い笑みがこぼれた。


 「なんでしょう? 私たちは次の打合せがあるのですが」


 不機嫌そうに振り返る。もちろん心は踊っているが。

 止まった事に少しほっとしたのか、ガランは咳払いして浮かせていた腰を下ろした。


 「そういえば、つい先日仕事を終えて帰ってきた奴らがいたのを思い出してな」


 「そうですか、それは良かったですね。では」


 「待て待て、そう急ぐな! まず座ったらどうだ」


 大真面目にコントをしているようで笑いが込み上げてくるが、なんとか気持ちを落ちるかせる。ルメスの為である。つまり私の為である。

 大きく長い溜息をはいて、先ほどまで腰かけていた椅子に座った。


 「あまり時間はありませんから」




 **********




 「いや~さすがだわリコっち。席を立った時は焦ったけどな」


 警備ギルドからの帰路。日が傾き、空がオレンジ色になっていた。


 「あそこまで気持ちよく慌ててくれる人もなかなかいないですけどね。腹の探り合いが苦手な素直な人なんでしょう。ところで、そのリコっちとは……」


 顔をしかめてラウロを見る。


 「なんつーか、ほら、一夜を共にした仲でリコリスさんって呼ぶのは堅苦しいし、リコリスちゃんって呼ぶ感じでもねーし、リコっち? みたいな? 愛嬌あっていいだろ?」


 カラカラと笑いながらラウロが言った。調子の良い奴め。


 「まぁなんでも良いですけどね」


 「じゃあ決まりな! 改めてよろしく、リコっち」


 無理やり手を握られてブンブン振られた。無邪気な笑顔を見せられると毒気が抜かれてしまうのは、年だろうか。いやまだ私は十五歳だった。

 ため息をついて苦笑いする。


 「とりあえずの交渉は上々ですよね、ガランさん大分渋ってましたけど」


 「だなー。隊長さんの言うことも分かるんだけど。にしても、騎士団は何してんだか」


 ガランが言った事に嘘はなさそうで、やはりアグーラの状況が少しおかしいようだ。はっきりと原因が分からないもやもや感はあるが、一般人の私には思いもよらないような事があるのだろう。


 結局のところ、話し合いでは常駐で五名の確約を取れた。

 魔王が誕生したかはさておき、警備員不足のこの状況で五名はなかなか上出来である。


 「それにしても、さっきの話が本当だとしたら、早急に食糧確保できる状態を作らないといけませんね」


 「というか、ルメスに農業やってるとこなんてあったか?」


 「これから作るんですよ」


 さらりと言った私を見て、ラウロは目を丸くした。


 「えっと、つまり嘘ついたのか?」


 「嘘? いえいえ、これから作れば嘘にはなりませんよ。限りなく黒に近いグレーな発言ではありましたが」


 「俺、リコっちには逆らわないようにするわ……」


 なぜそんな引き気味に言うのだ。日本人はグレーが大好きなんだぜ。


 「一先ず役所に戻って皆さんと相談しましょう。なかなか忙しくなりそ……あれ? 昨日までも忙しかったような」


 社畜は生まれ変わっても社畜であった。

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