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「それで、整理とは具体的にどうするんだね?」
上司が卑しい笑みを浮かべながら言う。
この一ヶ月で上司がクソ使えないと身を持って知った。失礼、言葉が悪い。
居ても居なくても変わらない、むしろ居ない方が仕事が捗るどころか世界的に見ても類を見ない程の害悪で害虫の様な存在で、来世でも忘れられないであろうレベルでどうにもならないくらい感情を掻き乱す、人物と呼ぶのもおこがましい生き物である事が分かった。
ルークが九割愚痴になった気持ちも今なら分かる。
あえての無視を選択した私は、ルークを見て言った。
「現在の構成はルークさんが決めてるんでしたっけ?」
「僕が決めているというより、役所の基本構成に準じてますね。現在の配置は、受付に二名、現場確認や見回りに二名、リコリスさん一名と、リーダーとして僕だね」
書類整理ではない、私が一名はおかしくないか?とか、上司は数に入らないんだな、とか思うところはあるが、話が進まなくなりそうなのでツッコミを控える。
「ありがとうございます。まずは、受付の混雑を解消するために、専用担当を設けます。管理、調整、工事建築、災害防止と警備の各業務をそれぞれ一人ずつ、計四名」
ルークが顔を顰める。
「それだと人数が足りなくなりませんか?」
「それはそうなのですが、受付を見ていて思ったのです。受付をやっている人が知らない内容は、誰かに聞きに行ったり書類を探したり、調べたりする時間がありますよね? 受付に並んでる人たちはその間待っている事になります。四人がそれぞれの分野に特化すれば、その時間が無くなり、結果効率が上がると思うんですよ」
「なるほど……それは一理ありますね」
頷くルークへ補足する。
「担当を分ける事で、最初から書類も分けて保管ができ、どの書類がどの辺りにあるかも担当職員が把握できます。なので、書類整理の時間も激減しますし。役所を利用する側も、滞在時間を減らすことができます」
「でも、そうなると担当は常に受付業務に縛られてしまいませんか?」
顎に手を当てて頭を傾げながらルークが言った。その姿はなかなか絵になる。……隈がなければ。
「俺、毎日ずっと机に座ってる仕事向いてないぜ」
カインが力のない声で言う。なんとも情けない顔をしていたので、耳と尻尾が垂れ下がった犬のようだ。
「安心してください。まず、担当と称しているのには理由があります。例え受付に居なかったとしても、あくまでもその人が担当。席を外していた場合は、言伝のみ預かります。
その他にも、各受付にお休みを設けます。一日の利用人数も調整できますし、その日に書類整理やまとめ、雑務を行う事ができるのです」
「斬新ですね。でも、とてもいい案だ」
ルークが顔を綻ばせながら言った。
それに頷き続ける。
「それに、四つの受付と言っても、表に配置する必要があまりない業務もあります。その辺りも受付お休みの日数に反映させて、効率良くしていきましょう」
「確かに、ギルドとの調整や災害防止などは外回りの方が多いかもしれないね」
「はい。各業務の配置ですが、人口や土地の管理はミランダさん。ギルドとの調整はラウロさん。土木建築はカイトさん。災害防止と警備はジーニャさんでどうでしょう?」
各々の顔を見て言い、最後にルークを見る。
「良い人選かもしれませんね。僕とリコリスさんはどうするのですか?」
「ルークさんはリーダーなので、必ず役所に居てもらいます。何か判断する必要がある場合、リーダーがどこにいるか分からないと困りますから。私は、各業務を全体的にフォローします。お使いや雑用もこなせる人がいないと困りまし、欠員した場合にルークさんと私で埋める事が出来ます」
説明し切って、改めて全員を見回す。
「私は賛成ですわ。正直今のまま続けるのはちょっと辛いですもの。自分が担当した書類だけをまとめられるのも効率が上がると思いますし」
ミランダが笑顔で言った。パンパン男性に絡まれていたのは、きっと引き継ぎが上手くいかなかったのだろう。
「なんで俺がギルドとの調整なの? 俺よりジーニャの方が適任じゃね?」
ラウロが片眉を上げながら言う。
「確かに、ラウロさんとジーニャさんで迷いましたが、ラウロさんのコミュニケーション能力は目を見張るものがあります。きっとそういう事に向いていると思ったので、ラウロさんにしました」
「コミ…? ちょっと言ってる事が分からないけど、褒められてる事が分かったからなんとか頑張るわ」
「失礼、対人能力とでも言いますか。それに、冷静に判断できるジーニャさんの方が災害や自衛団に向いてると思ったのも一つの理由です」
ラウロからジーニャに視線を移して言うと、ジーニャは頷いた。
「そうですね、災害の予防とかをラウロさんに任せたら、こんなんで大丈夫だろう、と適当にやりそうです」
「悪口か? それ、悪口だよな?」
「いえ、いい意味で寛容と言っているのです」
「悪い意味だと?」
「大雑把で適当で何となくで全てが丸く収まって、楽しければ何でもいいと言っています」
「悪口じゃねえか!」
楽しそうに言い合っているジーニャとラウロから、カイトへ視線を移す。
「カイトさんを土木建築にしたのは、それに携わる人たちから頼りにされているからです。事務的なところはフォローしますので、ぜひその関係を保ちながら仕事をしていただきたいな、と」
カイトと以前、お使いで町を歩いた時に、たくさんの職人から挨拶をされていた。どうやら事あるごとに、手伝いをしているらしい。だから好かれているのだろう。
「あー、まあそうだな。他の仕事より役に立てそうだ」
頭を掻きながら照れ臭そうに顔を背けた。事務処理は苦手なカイトだが、職人からの人望は人一倍高い。
「リコリスさん、この短期間でよくそこまで考えられましたね。みんなの長所と短所を理解した上で、とても良い配置だ。僕もこの案に賛成だな」
ルークが満面の笑みを浮かべながら、何度も頷いた。そして、少し首を傾げて言う。
「以前こういう仕事に関わった事があるような手際の良さだけど、メルクーリさんって成人したばかりだよね?」
「あはは……私の器量の良さをそんなに褒めないでくださいよー照れるなー」
実は前世で培った知識です、とは言えないので、愛想笑いと若干棒読みになってしまった台詞で誤魔化した。
「まあいいか。とりあえず、住民への周知と知識の蓄える時間を考えて、二週間後くらいからこの配置でいきましょう」
全員がその言葉に頷いた。
「よし、ではそれでいこう。各々担当領域の知識を深めるように」
最後に使えない上司が締める事で、朝礼が終了した。
なぜお前が締める。