生き物苦手係の俺が異世界モンスター相手に合法的に嗜虐欲求を満たす話
猫っているじゃん。
あれをかわいいって思わなきゃいけない風潮が少しばかり苦痛だ。
かわいい?確かにかわいいな。
かわいいと思わせる見た目と仕草をしている。それはわかる。
そりゃSNSで毎日「うちのかわいこちゃん」の画像や動画が流れてくるだけある。
もちろんそれは猫だけじゃない。
生きた愛玩対象は猫だけにとどまらない。もふもふ、ふかふか、きゅるんっとした瞳のかわいさの権化みたいなやつからブサイク顔だけど愛嬌のあるやつ、愛されるべき、守られるべき尊い生き物達…
それらを愛でる人種を俺は否定しない。
ただ少しだけ苦痛に感じるのは「猫が嫌いな人間はろくでなし」って言われかねない風潮っていうか…そんな無理矢理な理論が窮屈なだけなんだわ。
まあ、俺の真の苦痛は「猫が嫌いなことを公言しにくいこと」ではなく「猫を殺したくて仕方がない衝動を抑えなきゃならないこと」なのだから「ろくでなし」なのは間違っちゃいないけどな。
俺がその「殺したくて仕方がない衝動」を自覚したのは小学3年生の春だった。なりゆきでなった生き物係。同じく生き物係になったクラスでも目立たないおとなしめの女子、金津夏音と一緒に学校で飼育しているうさぎの世話をしているときだった。正確に言えばうさぎ小屋の裏の茂みで出産した猫にうさぎの世話だとごまかして給食の残りを与えに行ったときのことだ。
野良猫に餌を与えてはいけないのはわかっているがクラスのみんなが「赤ちゃんを産んだばかりの猫を放っておけない!」なんて言うもんだから同調しないわけにはいかなかった。尊い命を守ろうと盛り上がる空気に水は差せない。結局世話をするのは生き物係まかせなんだけどな。
俺は正直猫がどうなろうが心底どうでもよかった。母猫が俺が与えた餌を食べるときにちらりと子猫が見えたが「世間一般で言うかわいいってああいうもののことを言うんだろうな」くらいな感想しか浮かばなかった。もちろんそんな冷めた感想が表情に出てはいけないことくらい理解していた。
「わあ~!金津さん!茂みのとこ、子猫が見えた!かわいいね~!」
なんて一緒に母猫に給食の余ったグラタンを与えた金津に話しかけた。クラスのみんなに同調した台詞をチョイスしたわけだけど…
「ほんとにそう思ってる?」
彼女は自然な微笑みをたたえながら俺を見ていた。
「私は苦手だな…猫……ううん、生き物が苦手」
ここは何と言うべきか…別に俺は生き物が苦手な人間を否定する気は無いのだがなんと返せばいいのか言葉に詰まってしまった。
「あ!生き物って言っても人間は好きだよ!人間は大丈夫!」
そんなこと聞いちゃいないし「生き物」のカテゴラズの中に即座に「人間」を思いつかなかった俺は更に言葉に詰まった。
そよ風にのって子猫達の「みゃーみゃー」というか細い鳴き声が聞こえてきた。金津はその声に一瞬、そう、ほんの一瞬だけ嫌悪の表情を浮かべた。
「…私は立候補して生き物係になったけど君はどうして生き物係になったの?」
「なりゆき…かな。他になりたいの無かったし」
「ふぅん……私はね、うさぎが殺したくてなったの」
「!?」
「毎日うさぎのお水に車に使う不凍液を混ぜているの。内臓から血が出て死んじゃうんだって!ふふふ!」
楽しそうに笑う彼女。「大丈夫!海外製の苦味を感じにくい甘味があるものを使ってるから!」などと聞いていないことまで話している。
本来ならば俺は彼女の非道な行いに驚愕し怒らねばならないのだろうが別段そんな感情は生まれなかった。
その代わり生まれた感情は…
(すっげぇ…!)
興奮。
俺は確かに興奮していた。
ドキドキしていた。
わくわくしていた。
金津に先を越されたとさえ感じた。
「うっそだよ~~!」
「は?」
「うそ!全部うそだよ~!!うさぎのお水に不凍液なんて入れてません!」
「はは、だよな!ははは!」
ばしゃっ!!
「!?」
「まあ、ここにまいた不凍液を猫が間違って舐めちゃったらどうなるかはわからないけど……」
俺は全力で水撒きをした。
しかし金津は目敏いやつで俺が生き物を殺すことに興奮するやつだということはあっさり見抜かれていた。
「生き物が嫌いとか苦手とかって言いにくいよね」
「まあ確かにそうだな、正直、生き物に対してはなんの感情も無いんだが世間一般的には好きじゃないといけない感じだよな、それがはっきり言って重くて生き物自体がもうむしろ苦手かもしれん」
「私達生き物係失格だね」
少なくとも猫を殺そうとした金津は即刻クビになるべきだ。言わないけど。
「生き物苦手係があったらな~」
そう言うと金津はうさぎの餌入れに餌を足してやった。先日のことがあったので異物を入れていないか横目で確認する。今日も何もなし、異物は混入していない。
「残念そうだね」
「は、ちがっ…」
「いいよ、隠さなくて」
「ねえ、子うさぎの足、ちぎっちゃいたいよね」
「……」
「耳に穴空けパンチで穴空けて紐で吊るしてブン回してさ、ブチってちぎれたらおもしろいよね」
「………」
「どうせなら何匹か」
「やめろよ」
金津が黙る。
表情は読み取れない。
「やめろよ…いや……、やるなよ!絶対やるなよ!」
「…それは…フリ?」
「ちげぇよ!」
「ふふ、水飲み場で顔見ておいでよ」
「?」
うさぎの水を汲むついでに鏡を見たらありえないほど愉悦に歪んだ俺の顔があった。
それから俺は高校2年の秋まで「生き物を殺したい衝動」を抑え続けることに成功していた。
だが、それはある日を境に失敗することとなった。
俺はモンスターが蔓延る異世界に転生してしまったのだ。
階段で転倒しあっさり事故死したらしい俺は生き物をいじめたり殺めたりしたものが落ちる地獄に落ちそこからモンスターが蔓延る世界に転生させられてしまった。
いや、待ってくれ。俺は確かに狂おしいほど「生き物を殺したい衝動」を胸に抱えていたが実際に手はくだしていない。しかし地獄の審判は言った。
「生き物を殺さないことを守れたあなたにご褒美です」
え、どういうこと…?
しかし俺はくだされた審判の意味をそう時間をおかずに理解した。
ここはモンスターが蔓延る世界。
モンスターを好きなだけ殺しまくっていい世界なのだ。
最初は弱いやつ。ねずみのようなモンスターを粘着式の罠にかけ息絶えるまで針を刺し続けた。猫のようなモンスターには尻尾と頭部を掴み思いきり逆方向に引っ張り脊髄を損傷させ動けなくなったところをじわじわと切り刻んだ。犬のようなモンスターのときは………と、段々モンスターの大きさやランクを上げていった。
モンスターを殺すための技術を次々と会得し実行していった。
俺より強いモンスターを殺しに行く。
それが俺の異世界での全てだった。
まったく興味は無いがこの世界にはモンスター狩りをする技量を持たず日々モンスターに怯え細々と暮らしている人々の町が点在していてモンスターを殺すと大層感謝された。モンスターを殺すだけで結構な額の金がもらえた。
その金を使って新たなモンスター殺しの道具を揃えていき日々モンスター殺しの技術を向上させていった。
自然と人々は俺のことを「モンスターハンター様」なんて呼んでいたが俺がやりたいのは「狩り」じゃないんだよなー…まあどうでもいいが。
ついにドラゴン級のモンスターまでじわじわなぶり殺しにできるようになったある日俺はしくじった。
もふもふしたうさぎくらいの小型のモンスターに出くわしたのだが俺はなんの感情も持たずにそれを踏み殺した。
「オニイチャッ!オニイチャッ!」
踏み殺した個体より一回り小さな個体がすでに事切れた肉塊にすがりつき泣いた。どうやら兄妹だったらしい。まあどうでもいいが。
俺はためらわずもう一匹を持っていた短剣で串刺しにした。
「ギャボエエエッ」
「きったねぇ悲鳴だな」
無感情に言い放つ。今さらこの程度のモンスターでは何の興奮も覚えない。
するとそこへ……
ブオオオオッ!!!!
地響きにも似た雄叫びが響き渡った。
山だと思っていた景色が蠢き立ち上がった。
それは見たこともない巨大なモンスターだった。
なんてことない話だ。俺がたった今殺した小さなモンスター2体には俺が今まで殺したことがないくらいでかいモンスターの親がいたってことだ。
で、俺はそいつに攻撃されてあっさりと死んでしま………わなかった。
モンスターは俺を怒りのまま踏み潰そうとした。だが怒りに我を忘れていたようで踏み損ねた。しかし思いきり踏み抜かれた地面への衝撃で遠くへ吹っ飛ばされた俺は全身複雑骨折。内臓は破裂。それから数ヵ月間は死ぬより苦しい痛みに襲われ続けた。
それでも俺は「生き物を殺したい衝動」を諦めなければならないことの方が何倍もつらいと感じた。
「再び生き物を殺したい」その思いだけで治療に耐えリハビリに耐えなんとか歩行できるようになりデスクワークくらいならこなせるくらい回復した。
しかし「モンスターハンター様」は廃業せざるを得ない。
それでも「生き物の死」に触れたい。
俺は次なる生きる場所をすでに決めていた。
そう俺の生きる場所は…
行き場をなくした元愛玩用野良モンスターを処分する駆除センターだ。
体が不自由な俺は直接モンスターの駆除は担当できないが今日からここで事務員をする。
死に行くモンスター達の側に身をおけるのだ。愛玩されていたモンスター達の死に行く絶望の表情と死に様を掠め見る機会はいくらでもある。
それだけでもここは俺にとって有益な場所であるわけだが更なる「良いこと」が待ち受けていた。
驚くことにそこには彼女がいたのである。
金津夏音…
彼女もまた生き物を殺す衝動を実行に移さなかったご褒美にこの世界に転生していたのだ。
そしてこの施設で働いているのだという。
「最後の姿を見るの…ドキドキする!」
俺に向けられた笑顔はなんとも無邪気で幸せそうで…共に「生き物係」、いや「生き物苦手係」をしていた頃に戻ったようだった。
彼女が幸せでよかった。単純にそう思った。
体が不自由になった俺はもう以前のようにモンスターを殺せない。
しかしここで幸せそうにしている彼女を見ながら働くのだ。
楽しむだけ楽しんだ。
歪んだ欲求が全て満たされた。
はは、最高だ!




