四十五杯目 爽やかで甘い
香織がこの街に来てくれた。
それだけでも嬉しいはずなのに
私は許されていると知り、涙が流れた。
嬉しくて泣くことなんてなかったのに。
改めて自分が幸せ者だと感じるのだった。
今日も香織がカフェにやって来た。
幸いなことに今日は貸し切り状態である。
こういう日もあってもいいわよねってママは笑うが私はこの仕事が好きだから落ち着かない。
落ち着かないので掃除をする。
香織はそんな私を見て笑いながら紅茶を飲む。
「姉さんは本当に仕事が好きなんだね」
「うふふ。あきらちゃんは仕事人間な一面があるから」
ママと香織がそんなことを言う。
確かにそういう一面があるのは分かっていたので私は苦笑いするのだった。
「あきらちゃん、掃除はそのぐらいにして美味しい紅茶でも飲んでくれるとママは嬉しいんだけどな」
「そうだよ。ママが入れてくれた紅茶はとっても美味しいだから飲まないと駄目だよ」
「うっ!はーい」
私もようやく観念してママの入れてくれた紅茶を飲み始める。
ママも香織はお互いにニコッと笑うのだった。
そんな穏やかな時間を過ごしているとカフェの扉が開く。
三人は扉の音に振り返ると今日はお休みのはずの幸司さんの姿があった。
「あら?こうちゃん、どうしたの?今日はお休みのはずなのに」
「なんだか仕事をしていないと落ち着かなくて来てしまいました」
「まぁ。こうちゃんも仕事人間ね。あきらちゃんとそっくりね」
「そうですね。ちょっとうつったのかもしれません」
私は香織をちらっと見ると香織の目線の先には幸司さんの姿があり、それを見ている香織の顔はなんとも言えない顔だった。
幸司さんが香織の視線に気づくと香織は慌てて目線を外す。
でもまた香織はちらっと幸司さんを見つめると幸司さんはニコッと笑いかける。
そんな二人の空気に甘いものを感じる。
言葉ではなく、目で語っている感じがした。
特にお互いに話をしないまま、香織は帰ろうとする。
幸司さんはなにか香織に言いたそうだったけど遠慮している。
「じゃあ、私は失礼します」
香織はお辞儀をして慌てて帰ろうとする。
すると香織の靴が床の隙間に入ってしまい、転びそうになったが
幸司さんがさっと香織を助けてくれた。
「大丈夫ですか?」
「は、はい。ありがとうございます」
「気を付けないと駄目ですよ。せっかくの可愛らしい顔が台無しになる所だった」
「えっ?」
「んっ?」
「あ、ごめんなさい。助けてもらったのに変なこと言ってしまって」
「いえいえ。こちらこそすみませんでした」
「私、剱崎香織と言います。あ、あなたは?」
「皇本幸司と言います」
「皇本幸司さん。素敵なお名前ですね」
「あ、ありがとうございます。香織さんも素敵なお名前だと思いますよ」
「えっ?あ、ありがとうございます。それじゃ失礼します」
「話が出来て嬉しかった」
「わ、私もです。あの!ご迷惑でなければまた来てもいいですか?」
「勿論です」
「ありがとうございます。それじゃ失礼します。姉さん、また」
「気を付けてね」
そう言うと香織を急ぎ足で帰っていくのだった。
「あきらさんの妹さんですか?」
「はい。そうです」
「可愛らしい女性ですね」
「んっ?」
「あ、いえ。なんでもないです」
そう言うと幸司さんは顔を背けてしまった。
幸司さんの顔を見るとちょっと顔が真っ赤だった気がしたが鈍感な私にはそれがどういう意味なのか分からないのだった。




