三杯目 お客様はチワワのあんずちゃん
また朝が来る。
新しい朝が来る。
私はそれが嬉しくてたまらない。
朝日を浴びて私の一日が始まる。
今日は早めに起き、カフェに向かう。
カフェに着くとママがちょうどシャッターを開けている。
「ママ、おはようございます。お手伝いしますね」
「あきらちゃん、おはよう。助かるわ。そこのシャッターを開けてくれる?」
「はい」
私はシャッターを開ける。
シャッターを開けるのって結構、重労働なんだよね!
ママ、大変そう。
「ママ、これからは早めに起きてシャッター開けるの手伝いますね!」
「本当?そうしてもらえると嬉しいわ。一人だと大変でね」
「はい、お任せください」
「本当にあきらちゃんがいると助かるわ!」
「いえいえ」
私は照れ臭くなり、残りのシャッターを開けるのだった。
それから掃除をし、開店の準備をする。
開店の準備が終わると辺りを見回す。
「よし、今日も完璧!頑張るぞ!」
そう言い、開店の時間を待つ。
そして開店時間を迎える。
お客様が次々とやってくる。
「いらっしゃいませ」
私は元気な声でお客様に挨拶する。
「おぉー。あきらちゃん、元気だね」
「はい」
「あきらちゃん、おはよう」
「おはようございます」
顔見知りのお客様に声をかけてもらう。
それがすごく嬉しい。
「あきらちゃん、お願い!」
「はい」
「あきらちゃん、今日も可愛いね」
「いえいえ。そんな」
「いい人、いないの?」
「いないんですよね」
「もったいない」
「あはは」
私は思わず苦笑いする。
いい人かぁー。
出会いがないんだよね。
ママに申し訳ないんだけど。
でもこの仕事が好きだし、いい人が来てくれればなぁー。
私はそう考えるのだった。
オーダーをとり終えると席を外し、料理や飲み物を運ぶ。
「どうぞ」
「ありがとう。あきらちゃん」
「ごゆっくり」
そう言って私はまた席を外す。
「あきらちゃん、会計頼むよ」
「はーい」
そう言われて会計をする。
そしてお客様にお釣りを渡し、お客様をお見送りする。
「ありがとうございました」
「また来るね。あきらちゃん」
「お待ちしております」
お客様が見えなくなるまでお見送りした。
お客様が見えなくなるとカフェに戻る。
お客様が見えなくなるまでお見送りする。
それがいつのまにか自然になっていた。
お昼を過ぎるとお客様がどんどん減っていき、さっきまでの賑わいがなくなった。
それを見越したママが私に声をかける。
「あきらちゃん。休憩に入っていいわよ」
「はい」
そう言われて私はカフェで休憩に入る。
「あきらちゃん。お昼はどうする?」
「あ。そういえばお昼、持ってきてないです」
「なんか作ろうか?」
「いいですか?お願いします」
「任せておいて」
そう言ってご主人は厨房に引っ込むのだった。
しばらく待つとご主人が料理を運んできてくれる。
「お待たせしました。オムライスです」
「わぁー。ありがとうございます」
私はオムライスを一口食べると幸せな気持ちになる。
「すごくおいしいです。ご主人」
「ありがとう。ゆっくり食べてね」
「はい」
言われたとおり、ゆっくり味わいながら食べるのだった。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした」
「おいしかったです」
「ありがとう」
「片付けと洗いは私がやるので」
「お願いね」
「はい」
私は片付けをし、厨房を借りて洗いものをする。
洗いが終わるとお皿とスプーンを元の位置に戻すだった。
「ご主人、お昼代は?」
「いいよいいよ。あきらちゃん、頑張ってくれるから俺のおごりだよ」
「ありがとうございます」
私はご主人にお礼を言う。
するとカフェの扉を掻くような音がする。
私はカフェの扉を開けると可愛いお客様がやってきた。
「あんずちゃん。来てくれたんだ!」
やって来たのはチワワのあんずちゃんだった。
あんずちゃんはとにかく賢い犬でカフェに時々来てはおつかいをする。
ここはクッキーやマフィンなどお菓子を売っている。
あんずちゃんはよくご主人様からおつかいを頼まれる。
あんずちゃんの首には小さながま口のお財布がぶら下がっており、中にはご主人様からのメモも入っているのだ。
あんずちゃんは絶対吠えたりしない。
だから私も安心してあんずちゃんに触れるのだった。
あんずちゃんの首にぶら下がっているがま口のお財布からメモを取り出す。
「バナナマフィン(2個)とクッキー(10枚入り)をください」
メモにはそう書かれている。
「あんずちゃん。ちょっと待っててね!」
「ワン(うん)」
私は用意をする。
「お利口ね」
ママがあんずちゃんを撫でる。
あんずちゃんは気持ち良さそうに撫でられている。
「あんずちゃん。お待たせしました」
「ワン(ありがとう)」
「あ、そうだ。あんずちゃん、お水飲む?」
「ワン(飲む)」
「ちょっとまっててね」
私は犬用のお水を持ってくる。
「はい。お待たせしました」
するとあんずちゃんは様子を見てお水を飲む。
「おいしい?」
「ワン(おいしい)」
「良かった!」
私はあんずちゃんの様子をしばらく見つめるのだった。
あんずちゃんはお水を飲み終えるとテーブルを見つめる。
私もテーブルを見つめるとそうだったと思い、あんずちゃんに頼まれていたものを渡すのだった。
「気を付けて持って帰ってね」
「ワン(ありがとう)」
あんずちゃんは大事なものを口にくわえて扉の方に向かう。
私は扉を開けてあげる。
そして私はあんずちゃんは私の方を見て歩いていく。
「また来てね」
「ワン(また来るね)」
私はあんずちゃんを見送った。
あんずちゃんが見えなくなると私はカフェに戻るのだった。
「また来てくれましたね。あんずちゃん」
「久しぶりに来たんじゃない?」
「そうですね。」
「今日もマフィンとクッキーが売れて良かったわ」
「はい」
「また来てくれるといいな。あんずちゃん」
「あんずちゃんに会いたい人は沢山いるからね」
「はい」
あんずちゃんの帰っていた道をしばらく私達は見つめるのだった。