十六杯目 早坂さんは彼女について悩む
一緒にいられたらいいなと思ってしまう。
でも君を縛り付けてしまうことは嫌なんだ。
だから悩んでしまう。
本当にいいのか
「どうしたらいいんだろ」
早坂さんが独り言を言っている。
私はその独り言を聞いてしまう。
早坂さん、どうしたんだろ?
いつもならフルーツティーを頼んでくれるのに今日は頼んでこない。
なにかあったのかな?
私は仕事をしながらも早坂さんの様子が気になるのだった。
しばらくして時間が経つと早坂さんが私を呼ぶ。
「あきらちゃん」
「はい」
私は早坂さんの席に向かう。
「お待たせしました」
「ハーブティーをお願いしても良いかな?」
「えっ?いつものフルーツティーじゃなくていいんですか?」
「今日はなんだか気分が沈んでいてね。フルーツティーを飲める状態じゃないんだ」
「そうなんですか」
「ごめんね」
「いえいえ。そういうときもありますよね。分かりました。少々お待ち下さい」
「ありがとう」
早坂さんが切なそうな顔をしてる。
きっとなにかあったんだ。
でも私はまだママみたいに上手く相談にのれない。
早坂さんの力になりたいけどお節介なのもよくない。
ここは見守ろう。
本人が答えを探すのが一番だ。
仕事に集中しよう。
そう思いながら早坂さんの所に向かう。
「お待たせしました。ハーブティーです。」
「ありがとう」
そう言って早坂さんはハーブティーを飲む。
「今日のハーブティーは何?」
「カモミールです」
「カモミールかぁ。彼女が好きな花だよ」
「そうなんですか」
「カモミールを見ると彼女を思い出すんだ」
「素敵な彼女さんなんですね」
「そうなんだよ。俺にはもったいないくらいの優しい人だよ」
「でも俺は・・・・・・・」
早坂さんが急に黙ってしまい、また切なそうな顔をする。
私はきっと彼女について悩んでいるんだなと感じた。
「早坂さん」
私が声をかけると早坂さんははっとなり、話を続ける。
「ごめんね。今は誰にも話したくないんだ。自分で考えて答えを出さないといけないから」
「早坂さん」
「あきらちゃん。ありがとう。ハーブティー美味しかったよ」
「いえいえ」
「また来ても良いかな?」
「えっ?」
「いや、なんでもない。じゃあ」
「ありがとうございました」
私は早坂さんを見送る。
見送りながら私は早坂さんのあの切ない顔を忘れられなかった。
それからというものの早坂さんは来てくれるがその姿は大丈夫とは言えなかった。
窓の外を見ながらため息をついてばかり。
好きだったフルーツティーもカモミールティーも頼まなくなった。
頼むのは私のいれたコーヒー。
その切なそうな姿を私は黙って見守ることしか出来なかった。
ママもそんな早坂さんの異変に気づいていた。
「前は元気で明るかったのに最近どうしたのかしら」
「はい。実は私も気になっていたんですけど悩んでいるのは分かるんですけど何に悩んでいるのか分からなくて」
「どうしたものかしらね」
「このまま黙って見守ることしか出来ないんですかね」
「そうね。本人が話したいと思うまで待つしかないわね。お節介になるから」
「はい」
「あきらちゃん。早坂さんに変化があったらすぐ私に報告してね」
「はい」
私は「はい」としか言えなかった。
早坂さんの力になれるならすぐにでも助けてあげたい。
でも早坂さんが望まないなら黙って見守ろうと思った。
「あきらちゃん!」
「はい」
私は他のお客様に呼ばれ、席に向かうのだった。
他のお客様も早坂さんの事を心配してくれる。
「早坂さん、最近、元気ないけど大丈夫かしら」
「同じ常連が元気がないとこっちまで元気がなくなるから早く元気になるといいけど」
そういう声が私に届く。
早坂さんにもこの声は届いているのだろうか?
届いてくれるといいな。
今日も窓の外ばかり見ている早坂さん
早坂さんの瞳にはどんな景色が見えているのだろう?
しばらくして早坂さんはカフェに来なくなった。
他のお客様に配慮したのか
それとも私達に気を遣ってなのかは分からない。
でもカフェには寂しい雰囲気が漂っていた。
それからして午前のカフェの時間が終わり、外の掃除をしていると久しぶりに早坂さんがやって来たのだ。
「いらっしゃいませ。早坂さん」
私がニコッと笑うと早坂さんは私の名前を呼ぶと泣き崩れた。
泣き崩れる早坂さんを私は慰め、貸しきりの札をかけるのだった。
早坂さんを落ち着かせる為、私はいつもと違うハーブティーをいれるのだった。
「早坂さん、どうぞ」
「・・・・ありがとう」
早坂さんは泣きながらハーブティーを飲む。
そしてハーブティーのお陰なのかだんだん落ち着いてきた。
「早坂さんが泣くのを始めて見ました。辛いことがあったんですね」
私が声をかけると早坂さんは頷く。
「何があったのか話してくれませんか?」
私がそう言うと早坂さんは少し黙っていたが自分のペースで話し始めた。
「彼女と別れたんだ。俺」
「えっ?」
「彼女を幸せに出来ないと思って。一方的にさよならって言って逃げてきた」
「・・・・・」
「最悪な男だよね」
「どうしてさよならを?」
「彼女にプロポーズしようとしていたでも彼女の自由を奪ってしまうと思ってやめた。それからどんどん彼女に対する想いが冷めきってきたんだ」
「そうだったんですか」
「フルーツティーもカモミールティーを見ると彼女の事を思い出して嫌になってきてそれで飲めなくなった」
「・・・・」
「俺の彼女に対する気持ちはこんなもんだと思ってしまってなんだか情けなくて泣いてしまったんだ」
「・・・・」
「涙を見せてごめんね。あきらちゃん」
「いいえ。よっぽど辛かったんですよね。ごめんなさい。それなのにわかってあげられなかった自分が情けないです。」
「そんな。あきらちゃんは何も悪くない。何もしらなかったんだから」
「でも・・・」
「これは俺の問題だから。でもありがとう。きにかけてくれて」
「早坂さんは大事なお客様ですから」
「ありがとう」
「あきらちゃんは恋人とかいるの?」
「えっ?」
「あ、あの・・・・います」
「そっか。なら俺のようにはならないでね」
「えっ?」
「あきらちゃんなら大丈夫だと思うけど彼女を不幸にした俺にはならないでね」
「早坂さん」
「話、聞いてくれてありがとう。邪魔して悪かったね。俺は帰るよ」
「早坂さん!」
「もう一度、彼女とやり直したいとは思いませんか?」
「えっ?」
「だってあんな幸せそうだったのに」
「私、早坂さんを見て、恋したいなと思ったんです」
「早坂さんはまだ彼女が好きだと思います!傷つけるのが怖くて縛り付けるのが怖くて。それ、間違っていますよ!お互いを良いところも悪いところも受け入れられるのが恋人同士でしょ」
「早坂さんはあなたは彼女を不幸にしたって言うけど今ならまだ取り返せます。どうか彼女と話し合ってください」
「あきらちゃん」
私は思いの丈をぶつける。
これ以上、大切なお客様である早坂さんの切ない顔は見たくない。
そう感じて出た言葉である。
「結婚ってそういうものじゃないんでしょうか?結婚すればお互いに大切に思って自分の時間がなくなる。でもその分、幸せなことがある。それでいいじゃないでしょうか?」
「私だったらそう思います」
私が言葉を続けようとした時、女性が「早坂さん!」と言って駆け寄ってきた。
「紗由理」
早坂さんが彼女を見つめる。
すると彼女はいきなり早坂さんに泣きそうな顔で平手打ちをする。
そしてびっくりした顔をしていた早坂さんを抱き締めるのだった。
「ひどい。私の気持ちも聞かないで一方的に別れを言うなんて最低よ。でも私はそんな早坂さんが好きなの。私の事を考えてくれていたんだから」
「紗由理。ごめんな。俺、君を傷つけたくなくて。縛り付けたくなくて」
「馬鹿ね!私は早坂さんがそばにいないとダメなのよ!どんなに傷つけられようが縛り付けられようがそばにいたいのよ。だって私達、結婚するんでしょ?」
「いいのか。紗由理」
「うん。いいよ。だから別れようなんて言わないでよ。簡単に!」
「ごめん。ありがとう」
そう言って早坂さんも彼女を強く抱き締める私は黙ってその場を去るのだった。
それから早坂さんは彼女とよりを戻し結婚することになった。
勿論、私もママもご主人も招待されている。
あのとき、ちゃんと勇気をもって言えてよかったと思う。
私も少しだけどママのようになれたかなと思った。
その話を聞いたママは「あきらちゃんの想いが二人を幸せに導いたのよ」と言ってくれた。
本当にそうだったら嬉しいな。
私はそう思うのだった。
二人の結婚式はまだだけど私は二人からスピーチを頼まれている。
いきなりの大きな仕事に戸惑っているが一生懸命に頑張ろうと思うのだった。




