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始めての弟子

 城内の部屋で軟禁されることになった誠は、椅子に腰かけて目を閉じ、師匠と念話による会話を続けていた。


(では、まず初めに俺のことは、師匠と呼べ)


(はい、師匠)


(うん、いいなぁ……もう1度)


(はい、師匠)


(うん、最高だ)


 実は、このフレデリック、弟子をとるのは初めてなのである。


(師匠、魂が揺らいでいます。もしかして成仏しそうなのですか?)


(あぁ、すまん、すまん。こんなことで成仏してたまるか。もっと、師匠と呼ばせてやる)


(はい、師匠)


(……よしっ!! まず体内にある魔力を体の隅々まで行き渡らせ循環させる。ここまでは、お前も出来ているようだな。普通はそこまでになるためには、かなりの鍛錬が必要だ。今まで良く頑張っていたのだな、褒めてやろう)


(ありがとうございます、師匠)


(うむ。俺は褒めて伸ばすタイプの師匠だからな。良く心得ておけよ)


(はい、師匠)


 今、確実に言えることは、誠は褒めて伸びるタイプの弟子ではない。そして、誠は、師匠を褒めて伸ばすタイプの弟子である。


(しかし、お前の魔力制御はまだまだ甘い。もっとムラなく魔力を拡げ循環させるのだ。例えば、右手と左手。魔力の濃さが違うだろ。体の急所部分の魔力は濃いがこれは無意識だろ? 意識して急所を濃くすることは構わないが、今は鍛錬だ。体全体の魔力の濃さを均一にしろ。それができるようになれば、次は激しい運動をしながらもできるようになれ。わかったな)


(はい、師匠)


 その後は、しばらく静かな時間が過ぎていったが、師匠が口を開いた。


(う~ん、まだまだ甘いが、運動を開始しろ。まずは柔軟だ。全身の間接の限界を超えるつもりでやれ。でなければ、俺の教える剣術は使えない。もちろん魔力制御を続けたままだぞ)


(はい、師匠。……しかし、師匠は剣術も使えるのですね)


 柔軟運動を始めながら、珍しく誠から師匠に声をかけた。これは魔力制御しつつ運動し、会話を足すことによって意識に負荷をかけるためだ。こと鍛錬に関して誠はストイックなのである。


(当たり前だ。俺が何歳で死んだと思っているのだ)


(知りません)


(ああ、すまん。言ってなかったな。まぁ俺も覚えていないが、5千歳以上は確実だ。だから、いくらでも時間はあったのだ)


(この世界の人間はそんなに長生きなのですか?)


(いや、俺が特別なだけだ。魔力の多い者は基本的に長生きだが、それでも200歳は無理だろうな)


(では、師匠の何が特別だったのですか?)


(うむ、良く聞いてくれた。俺は時空属性魔術を使うことができたのだ。勇者召喚陣にも使っているのだがな。この時空属性魔術を使うことによって、自分の肉体を若返らせていたのだ)


(では師匠は、不老不死だったのではないのですか?)


(そうだ、俺は不老不死だったのだ。どうだ、凄いだろ)


(たしかに凄いのですが、ではなぜ死んだのですか?)


(……う~ん。まぁお前には話しておくべきだな。お前にも時空属性魔術を覚えてもらうつもりだし、弟子に師匠と同じ過ちを犯させるわけにはいかないからな)


(師匠は、何か罪を犯したのですか?)


(うむ。罪と呼べるのかどうかわからないが、1つの文明を滅ぼしたのだ)


(えっ!! もしかして!!)


(おっ!! 初めて驚いてくれたな。やはり話して良かった。あと、魔力制御が乱れている。気をつけろ)


(はい、すみません)


 弟子も弟子なら、師匠も師匠だ。やはり少し変わっている。


(まぁお前の予想通り、古代文明を滅ぼしたのは、この俺だ。どうだ、凄いだろ)


(たしかに凄いですが、一体どうやって)


(うむ。説明しよう。召喚魔術は時空属性を足すことによって、過去や未来から人や物を召喚することができる。しかし、同じ世界の過去からは人や物を絶対に召喚してはならない)


(なぜですか?)


(それはな。例えば、お前が過去から勇者召喚陣を作る前の俺を召喚したとしよう。どうなると思う?)


(なるほど、今現在にある勇者召喚陣が消えてしまうのですね)


(そうだ。だが、それだけではない。召喚されなければ係わるはずだった事象にすべて影響を及ぼす。人や物、建物、国といったものがゆっくりと消えていくのだ。お前以外に誰も気付かずにな。

 俺は経験したからわかるのだが、これはかなり怖い。最後には俺が係わったもの以外すべてが消え、その恐怖に耐え切れず自ら命を絶ったのだ)


(なるほど、壮絶ですね。ところで師匠は、過去から何を呼び出したのですか?)


(わからん。今思えば、古代文明における創造神のようなもの呼び出してしまったのかもしれんな)


(もしかして師匠の未練は、その過ちに対する贖罪のようなものですか?)


(いや違う。死んだ時に気付いたのだ。俺は弟子をとったことがないなと。俺はこんなに天才なのに、俺の才能と能力をまったくこの世に残す努力をしていなかったと。それが未練だ)


(それで私を弟子にしたのですね。もし私に師匠のすべてを伝授できてしまうと、成仏できそうですか?)


(う~ん、どうだろう。なんか成仏できる気がせんな。お前と一緒にいると楽しそうだし、また未練が増えそうだ)


(そうですか。あと今までの話でいくつか気になった点があるのですが、質問宜しいですか?)


(もちろんだ。俺は弟子には寛大だからな)


(今この世界にいる人たちは、どういった人たちなのですか?)


(まぁほとんどが、古代文明圏から外れていた者たちの子孫だな)


(ということは、今でいう古代文明や古代人は、師匠個人を指す名称なのですね)


(まぁ今となっては、そういう事になるな。俺以外に係わるものすべて消えちまったからな)


(なるほど。次は、未来や異世界からの召喚でもいろいろな影響があるのではないですか?)


(もちろんあるだろう。しかし未来がどうなろうと異世界がどうなろうと現在この世界にいる召喚者である自分にはまったく影響はないから、気にならんな)


 さすがは師匠である。人として完全に終わっている。実際に死んでいるので、人として完全に終わっているのだが……


 この後も鍛錬をしながらの会話続いて行く。柔軟運動の後は、腕立て、腹筋、背筋、スクワットなど室内でできる運動を動けなくなるまで行い。休憩がてらの瞑想。そして、また柔軟運動へ……恵美先生が部屋に来るまで、約8時間、そのローテーションが延々と繰り返されていた。傍から見ている侍女はかなり引いていが、まぁそれも仕方ないだろう。さらに、侍女は気付いていないが、もちろん魔力制御の鍛錬と師匠との会話も同時に行われていた。



 ここで、少し師匠から聞いた話をまとめておこう。

 魔王とは、魔族の王である。魔族とは、師匠が生まれるよりももっと前、2万年以上前に、人間が、人間と魔物を、エルフと魔物を、ドワーフと魔物を、獣人と魔物を掛け合わせて作った生命体らしい。それが、独自交配を重ねて、今に至るらしい。だからこそ、強く人間を恨んでいるらしい。 

そして、魔物は、人間が、動物を魔力の力で、無理やり進化させた生命体らしい。これも独自交配を繰り返し、今に至っているらしい。

 さらに、エルフとドワーフは、人間が、人間と精霊を掛け合わせて作った生命体らしい。そして、獣人は、人間が、人間と動物を掛け合わせて作った生命体らしい。魔族は失敗だとされたが、これらは、進化という形で成功したと扱われたため、彼らが、人間を恨むことはなかったらしい。

 別の仮説もあるようだが、師匠の時代は、これが主流だったようだ。ちなみに、今は、完全に忘れられているようだ。


 この世界には、魔の領域という地帯がある。この魔の領域とは、山や森、平原、湖などある一定の範囲に、魔族や魔物が生息し、独自の生態系作っている地域を指す名称である。このような魔の領域は、大陸中に点在しているが、特に大きいのが、魔王が住む魔の領域である。

 この魔の領域には、ここ以外では手に入らない資源や魔物の素材を手に入れることができる。危険を承知で、それらを行うのは、冒険者と呼ばれる人たちである。

 基本的に領域から魔族や魔物が出てくることはないようだが、軍隊のような大量の人が入り込むと生息する魔物が過剰反応を起こし、領域から溢れだし、近隣の村や町に襲い掛かることがあるようだ。これは、スタンピードと呼ばれる現象である。このスタンピードを起こさせないために、4~5人でこの領域に入ることが一般的であるとされている。そのため、勇者や冒険者も4~5人のパーティで魔の領域に入るようにされている。

 しかし、まれに魔族が、魔物を率いて村や町を襲うこともある。この被害に目を背けることが出来ずに、過去の時代の人間族の支配者が、勇者召喚を行うよう命じたそうだ。過去の師匠が、それを受け入れたのは、異世界人と話をしてみたかったからである。あの師匠である。軽い理由あるのは、仕方がない。




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