信者が1名できあがりました※
◇吉良視点
俺の名前は天上寺吉良。
赤ん坊の時に親に孤児院の入口に置き去りにされているのを発見されそのままこの施設で面倒をみてもらうこととなった。
ここは如月グループが援助をしている孤児院だから支援金を普通の施設より多くもらっているため外観はものすごく綺麗だ。
しかしその実、施設長は支援金の大半を私腹の肥やしにしている。
俺らの食事は1日1食だ。残飯みたいな、何かをぐちゃぐちゃにまぜたよくわからないものを食べさせられる。
風呂も週1回だけ、服も1週間くらい同じものを着ている。支援者が来る時だけ綺麗な服、まともな食事を与えられる。
俺らの面倒を見るスタッフも明らかに子供なんて好きじゃないだろう奴らばっかりだ。
言うことを聞かないガキには力技で言うことを聞かせる。俺たちの体は強く掴まれたり押さえつけられたりして青痣だらけだ。
いつまでこんな生活が続くのか日々恐々としていた。
一度、お偉いさんらしき人が来たときにこの施設の実情を訴えたことがある。だがここの施設長がそんなことするわけないと取り合ってくれなかった。
大人なんて自分がいかに楽をしようとするかしか考えてないんだ。
お金もちの支援者だって自己満足の上っ面の援助しかしてくれない。
いつかおれが偉くなってそんな大人たちを逆に顎で使うようになるんだ。今に見てろ!
そう、強がることでしか前を向いて生きられなかった。
しかし、ある日を境にこの施設がガラリと変わることになった。
きっかけはたったひとりの女の子だった。
この施設にさらに支援金が上乗せされることになったらしい。それも毎月数十万も。そして今日はその支援者が施設を訪問するらしくいつものように俺たちは身なりを整えられ食事もまともなものが出されることになった。
しかしお偉いさんが帰ったらどうせまたあの酷い現実が戻ってくるんだと思うと一時の希望に一喜一憂することはなく、みんなの目は死んだ魚のようだった。
そうして黒光りする長い車がやってきて通路に赤絨毯がしかれた。今までどんな客がきてもここまでもてなしに気を使ったことなんてなかった。いったいどんなVIPが来たんだと唾で喉をならした。
車から降りてきたのは女の子だった。
俺と同い年くらいの幼い女の子。淡い栗色の髪を半分編み込みで結い上げのこり半分がふんわりと風になびいている。服装は質素な白いワンピースだ。いかにもいいところのお嬢様。つま先にまで手が行き届いているようになにもかもがキラキラしていた。
そんな少女をみて年少組が目をきらめかせ「お姫様だ……」と呟いていた。
「ちょっと、何この赤絨毯? 恥ずかしいからやめてください!」
少女はその儚げな印象を裏切り、付き添いの黒いスーツを着た大男に力いっぱい怒鳴っていた。
「玲那様が歩く先に危険があったらいけません。本来なら抱き上げて移動させていただければ私の気苦労も減るのですが、その方がお嫌なのでしょう?」
「当たり前です! いつまでも赤ん坊扱いしないでください」
あんな厳つい大人に対し毅然とした態度をとる少女の姿に施設の皆は目を丸くした。いったい何者なのだろうか。
いつもは威張り散らしている施設長でさえ、少女に向かってペコペコしている。
「ようこそ如月様。本日はわざわざ足をお運びくださってありがとうございます」
「こんにちわ。今日はよろしくお願いします」
彼女は優雅に笑った。視界に花が咲き誇る。そんな幻覚が見えるほどその表情は華々しいものであった。
そして、彼女は俺らの姿を見渡し「あれ?」と不思議そうな顔をしていた。
「ねえ、君何歳?」
俺は急に話しかけられてびっくりしたが、素直に年齢を答えた。
「8歳」
「同い年か、それにしては……」
「如月様! 食堂に食事を準備しています、是非皆で食事をとりましょう!」
彼女が俺に話かけているのをみてあわてて引き離しにかかった施設長。余計なことを話されると困るからだろう。
そして食事の席についた。いつもでは考えられない豪華な食事。みんなはかき込むように貪り食べた。
「こら、お前たち如月様の前で無礼だぞ! もっと品よく食べろ!」
そんなこといったって無理だろう。俺たちはお前らに品なんて教えてもらってないからな。
そして彼女は皆の食事の様子をみてからまた話かける。
「ねえ、君たち。君たちはいつも食事をちゃんととっているのかな?」
彼女言葉に油汗を流しながら答える施設長。
「はは、しっかりとっていますとも」
そんな施設長に、彼女は信じられないくらい冷たい声と視線を投げた。
「あなたには聞いてないわ」
そう言うと少女は俺の方に向かって話はじめた。
「あのね、私がここにお金を寄付するのはそのお金が今のところ私には必要ないからなの。でもね、有り余るお金は貯めておくより使ったほうが景気もよくなるし、必要としている人に正しく使ってもらえたら私もうれしいなって思った。だから、私が寄付するところがどんなところなのか、どういう風にお金が使われるのか興味があるから実際に自分の目で見てみようと思って来たんだけど……」
俺のほうに近寄ってきて彼女はいきなり俺の腕の袖をまくりあげた。
「なんで8月で暑いのにみんな長袖を着ているの? この青痣なに? なんで施設長は豚みたいに肥えてるのにこの子たちはこんな痩せほそっているの? いつもこんな食事たべててこんな痩せてるのおかしいよね? 同い年なのにこんな発育不良なんてありえない!」
いままで来た客はそんなこと見て見ぬふりをしていた。それなのにこの子は真っ向からそのことを聞いてきた。
この子に話したらもしかしてこの現状が変わるのではないか。そう思ったのは俺だけじゃなかったみたいだ。
「あのね、いつもはごはんこんなんじゃないの!」
「こんなご飯食べたの2か月ぶりだよ!」
「いつもご飯は1食しかでないの」
「こいつらいつも言うこと聞かないとものすごい力で腕をつかむんだ!」
「風呂にだってまともに入れないんだ」
「洋服もまともなのはこの一着だけなんだよ
「いうこと聞かない罰だっていって3日もご飯食べれなかった!」
みんな一斉に不満を爆発させた。それを聞いて彼女は一言いった。
「施設長、あなたクビね。ついでにここにいる職員まとめて幼児虐待容疑で訴えるわ」
それをきいて今度は大人がわめきはじめたが、少女がスーツの男に視線を送ると男は次々に施設の大人を縄で簀巻きにしはじめどこかへ輸送していった。
「こんな状況だったことに気づくのが遅れてごめんなさい。でも、これからはおいしいご飯たくさん食べて逞しく生きて。あなた達の未来は可能性で溢れている。皆が自立できるまでちゃんと手助けしてくれる人を用意するから。だから、人に絶望しないで。諦めないで。腐った大人もいるけれど、それだけじゃないってこと、どうかわかってね」
そう言って彼女は去っていった。
その後、すぐに別の施設スタッフが来た。彼らは子供好きそうな優しい人ばかりだった。
俺たちの体をみて「辛かったね、今までよく頑張ったね」とひとりひとり抱きしめていった。
そしておいしい食事を1日3食とれるようになり、風呂だって毎日入れ洋服もボロは捨てられ真新しい手触りのよい服が大量にそれぞれに贈られた。
みんなこれは夢なんじゃないかと言ってる。集団でみんな同じ夢をみてるのかと半信半疑だった。
まともな生活を送れるようになって、時々書物も届くようになった。
それは使い古された本。百科事典、動物図鑑、小学生向けの英語の本など様々だ。本にはいずれも「キサラギレナ」と名前がかかれている。
「ねえ、このキサラギレナってだれなの?」
俺は新しい施設長に聞いてみた。
「みんなも会ったことあると思うよ。ここの施設が生まれ変わるきっかけになった女の子だよ」
その言葉を聞いて、驚いた。
この本をあの子がよんでいたのだと考えるだけで胸がいっぱいになった。しかし、中には明らかに小学生向けではないものもある。
でも全部読み込まれていて名前が書かれている。彼女が読んだものは自分も全部読みたい!彼女のように強いひとになりたい!
そう思って時々届く本に彼女の名前が刻まれたものはすべて読み込んだ。
どんなに難しいものでも、わからないものでも周囲の大人に聞いてわかるまで読み込んだ。
そうしているうちに成績はみるみる上がり英語も話せるようになり小学校では「神童」と持ち上げられることになった。
しかし俺は本当の神童を知っている。キサラギレナ。彼女こそ本当の神童、神の子なのだ。
俺はいつかまた彼女にあって話をしたい。そのために偉い大人になるんだ。
その足がかりはすでについている。
桜坂学園。
どんなにお金がない貧乏人でも秀でたものがあれば入学金、授業料ともに免除される。奨学生になれば授業に必要なもの文房具でさえタダで支給されるのだ。
多くの政財界の大物や芸能人がそこから輩出されている。
おれの第一志望の高校はそこだ。そこに入ってチャンスを掴むんだ。そしていつか彼女と――
(信者が1名できあがりました)