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一難去ってまた一難?

 あのサバイバルゲーム以降、玲那の所属するクラスには休み時間になると多くの見物人が訪れるようになっていた。



「あれがあの時の……」



「なんかモニターで見たときよりさらに小さくない?」



「あのメガネが会長とやりあったのか、実物みても信じられん」



 ヒソヒソ小声で話してはいるが、通路に近い席の為しっかり内容が聞こえてしまう。


 ふと窓の方をみたら向かいの棟からオペラグラスを使ってこの教室を覗いていた人もいた。

 


 ゲームに夢中になって楽しみ過ぎたかな。




 チャイムが鳴り、授業は終わった。教室内のクラスメイトも残り少なくなる。



 無数の視線に晒されて、いつも以上にその体を縮こまらせていた山田君に声をかける。



「山田君、今更だけど目立ちすぎたみたいでごめんなさい」


 

 肩に手を置くと瞬時に体をビクつかせ緊張した山田君だったが、玲那の顔を見ると身体の力を抜いた。



「如月さんが謝ることなんかないよ。あのまま僕が参加していてもボコボコにされた上に懲罰になって最悪退学も考えていた。もともと奨学生は目立っていたわけだし、虫けらみるような視線が今じゃ人として一目おいて見てもらえるのはありがたいくらいだよ」


 

 確かに、奨学生への扱いは以前とは比べものにならないくらい変わった。

 

 

 差別的な言動をする人はまだいるけど、陰湿な暴行はみられなくなった。



 学園の雰囲気が良い方に変わったのは嬉しい。


 

 しかしあれ以来、あの会長が大人しくしてる方が不気味でならない。



「それよりも、僕、如月さんに話しておかなきゃいけないことがあるんだ」



 山田君は両手を握りしめ、玲那に正面から向き合った。



「昨日の放課後のことなんだけど……」









◇◇◇






◇山田視点






 イベント以降、僕は一躍話題の人となりよく話しかけられるようになった。



「あの時すごかったな!」


「見直したぜお前」


「運動部入ろうぜ!」



 どれも称賛の言葉で居た堪れない。あれは僕じゃないんです。僕運動音痴です。本当のことを言ってしまいたいが、そんなことすればすぐに虫けら扱いに早戻りだ。


 せっかく如月さん達が頑張ってくれたんだから、その頑張りを無駄にしてはいけない。




 授業も終わったし、早く校舎から脱出しないと。



 誰かに捕まる前に!


 唸れ僕の鈍足! 


 早く! 風の如く! 決して走らず! 競歩のように! 絶え間なく足を動かすのだ!





「おい、クソチビメガネ」





 廊下を僕的最高速度で駆け抜けようとしたら呼びとめられた。




 え? 誰にって?




「こっちに来い」




 俺様会長、朱雀門焔様にだよ! やったね!


 


 周りに他のクソチビメガネはいませんかね? あ、僕しかいませんね!

 



 はい! 山田三郎太、完。








 会長に連れられ空き部屋に入る。普段は殆ど誰も使っていない所だ。



 なんだろうリンチ? 撲殺? 恥ずかしい姿を撮影されて社会的抹殺とか?


 

「……」 



 会長は無言で僕を睨みつける。


 

 なんだこの生殺しプレイ。やるなら一思いにやってくれ!



「その姿が擬態なら大したもんだが……違うな。お前にはあの時の度胸も、覇気も、何をしでかすかわからない期待感も何にも感じられねぇ」




 そうです。僕には如月さんのような皆を引っ張っていくような魅力はないんです。


 

 でも……。



「何言ってるんですか? 僕は、僕ですよ。」


 

 胸を張れ。


 前を見ろ。


 男を見せろ山田三郎太!




 僕を睨みつける会長の目を正面から捕える。



「足震えながら言っても説得力ねぇぞ。そもそも、お前のこと調べ上げたが近所じゃ有名な運動音痴らしいじゃねーか。スポーツ万能山田家に生まれた異端児。兄弟に運動神経すべて奪われた弟君。運動会では周回遅れが当たり前。毎回全校生徒に温かい拍手でビリのゴール祝われてたんだろ? そんなヤツが突然あんな運動できるようになるか」



 ば・れ・て・い・る。



 足の震えは止めようと思っても止まらない。


 だって会長の目力半端ないから。


 圧力やばいから。


 背後からゴゴゴゴゴゴッて聴こえるから!




「調べはついていたが、自分の目でも確認しておこうと思ってな。やっぱり、あの時のあいつはお前じゃない」



 会長はもう確信している。あれは僕じゃないって。


 なんて言えばいい? どう返答すればこの場を切り抜けられる?


 尋常じゃない汗が流れる。



「おいおい、そんな緊張すんなって。別に確認したかっただけでお前を今すぐどうこうする気はねぇよ」



 会長は何故か僕の顔をみて楽しそうに笑っていた。

 

 笑っていたけど、目だけが鋭いままだった。



「俺様は恥をかかされた、はじめて思い通りに事が進まなくて最高潮に頭にきた。だが、同時に思ったんだ! プライドのない下等種をいくら踏みつけたってつまらないッ! 軟弱で芯のないヤツよりも抵抗してくる芯が通った相手の根幹をバキバキに折って粉々にして踏み潰してやったらどれだけ気持ちいいだろうかって!」



 歪んだ笑顔の会長が僕に近づいてきて、囁くように言った。



「あの時のお前に言っておけ。次は本当の姿で俺様に勝ってみろとな」




 そのまま会長は部屋を出ていった。


 


 僕はその場に崩れ落ち、しばらく立ち上がることが出来なかった。







◇◇◇







「という出来事がありまして……」



 山田君が昨日の事を話終えると両手で顔を覆った。



「すみません! 僕が貧弱でカメでチビでメガネでクソなばかりに!」



 ぷるぷる震えながら自分を卑下し始めた山田君。



「会長の接触はしょうがないよ。私こそ、その場にいなくてごめんね。山田君は貧弱クソチビメガネじゃないよ。会長の目が曇ってるだけ! 山田君は無限の可能性を秘めた出来るメガネ君だよ!」



 山田君のメガネポテンシャルはおいといて、バ会長のくせにちゃんと調べてきたか。



 これは私が成り変わったことまでバレたかもしれないなあ。別にそれならそれで正面から挑むし問題ないけど。よっぽど会長が怖かったのか山田君の小動物バイブレーションモードが解けない。



「風紀の皆に交代で山田君の護衛ついてもらうことになってたんだけど、もうばれてるならあまり大げさに護衛するのもかえって悪手かもね」



 そもそも風紀のみんな見た目が不良だから山田君を取り囲んでると完全にイジメっ子とイジメられっ子の図なのよね。



 うーん。



「お姉様、目立たない用に山田君の護衛をすればよろしいのですよね」


 

 いつもの如くどこからか現れて私の腕にしがみついた菜奈ちゃん。



「そうだね。でも、さすがに本職のSPに依頼するのはどうかなと思って」



 如月家のSPの皆さんを子供の喧嘩に巻き込むわけにはいかない。できるだけ私が山田君の傍にいるしかないかな。でも、私は明日から忙しくなるのよねぇ。



「それでしたら私にお任せください。風紀委員以外にもお姉様にはたくさんのお味方がいらっしゃるのですから!」



 にんまりと笑いながらスマホを取りだし高速で何かを撃ち込む菜奈ちゃん。



「はい、これで山田君の護衛は大丈夫ですわ!」



「そ、そう? じゃあ山田君、何かあったらすぐに連絡してね?」



「わかりました」




 教室で話をしていると、堂本先輩がやってきた。




「玲那。今日こそ俺の家に来てくれないか」


 

 開口一番、執拗に家に誘ってくる堂本先輩。あんまりしつこいと逆に行くのがコワイ。



 いつも適当に理由をつけて断ってきたけど、今日はちゃんとした断る理由があるのです。



「ごめんなさい。実は明日からお兄様が1週間日本に帰ってくるのでいろいろ準備があって行けないの」



 そう! なんと! 我が愛しのお兄様が戻ってこられるのです!



 お兄様の住んでいる寮の改修工事が1週間ほどあるとのこと。周りは近くのホテルに滞在したりするらしいがお兄様はせっかくだからその期間を我が家で過ごすことにしたそうだ。



「あ、そういえば先輩。昔大会の時にお兄様と顔合わせたことあったわよね? 先輩にはいろいろお世話になってるからお礼もしたいし、先輩が家に来ます?」



 先輩にそう言うと顔色を蒼くして「行かない」と断られた。何故?



「お姉様のお兄様!! 是非挨拶したいですけど、久しぶりの再会を邪魔してはいけないのですよね……今回は我慢しますわ」


 菜奈ちゃんは残念そうにしているが、すぐさまスマホに書き込みをしている。画面をみないで高速で打っている。すごい。何かよくわからないけどすごい。


「あ、お姉様の公式ファンクラブホームページに写真載せたいので、できればお兄様とツーショットお願いしますわ!」


「おっけー」


「公式ファンクラブ? なんだそれは。玲那はそんなもの許可しているのか?」


 顔色を取り戻した堂本先輩がファンクラブについて聞いてきた。


「あれ? 先輩に言ったことなかった? いろんな人からファンクラブに入りたいって言われててね、放置してたら勝手に如月様の為にとかいって暴走するひと多くなったから規制・管理するために本人公認でつくったの。最近は菜奈ちゃんがホームページの管理に協力してくれてるんだよ」


「そうだよねー」と菜奈ちゃんに目を合わせれば「えっへん」と胸をはっていた。カワユイ。



「知らなかった。どうすれば入れる? 教えてくれ」



 ポケットからスマホを取り出す先輩。それに待ったをかける菜奈ちゃん。



「堂本先輩入りたいんですか? 疾しいことがある人は入らないほうが身のためですよ? 一応教えますけど、この「今日の女神様」っていう会員限定ブログに登録して会員ナンバーを発行するんですけど、このサイトをワンクリックするだけで身元特定される仕組みになってまして、ここでみられる画像は1週間限定公開でコピー保存が不可能になってます。お姉様にご迷惑をかける言動すればすぐ通報されて晒されます。登録にはリスクがありますが、お姉様公認なだけあって堂々と日々のお姉様の生活をリアルに知ることが出来るのが最大のメリットであり、ファン同士の交流もおこなえるようになってます。どうします? それでもはいります?」

 


「かまわない。登録してくれ」



 菜奈ちゃんが堂本先輩にファンクラブ規約を読み聞かせている。恥ずかしい。



一応公認はしているけど、自分にファンクラブあるって結構恥ずかしいんだから見えないところで加入してもらっていいですか。



「第一に玲那様に迷惑かけない! はい、繰り返して!」



やめて、ここで大声で読みあげないで!



「第一に玲那に迷惑かけない」



先輩やめてー!















一難去ってまた一難?

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