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ゲーム終了

 近くで複数人の話声、大きな物音がする。


「いらっしゃったみたいですよ」

 

 玲那は両手に持ったペイント銃を構える。


 それに倣い風紀のメンバーも臨戦態勢をとる。


 メンバーは扉が開かれる時を今か今かと息をのみ待つ。


 室内の緊張感がピークを迎えた時、スライド式のドアが開かれた。


 ドアが開かれたと同時に一斉に射撃。



 こちらの攻撃を凡そ予測していたらしいスナイパー陣は手前にいた生徒を盾にし、こちらが弾を切らしたところで反撃してきた。


 盾にされた生徒が可哀想ではあるが、こちらも手加減はしない。


 因みに、図書室は戦闘可能エリアとして業者さんにより本棚から通路までラバーシーツで保護されている。どれだげペイントで汚しても怒られないから気兼ねなく撃ちまくる。


 業者さんゲーム終わったらお掃除頑張ってください。



 扉に近い所を守っていた風紀のメンバー3名はうまく棚を盾に身を潜ませつつ射撃していたが、敵の容赦ない反撃で銃を吹き飛ばされたり弾切れになって戦線離脱となった。


 脱落したメンバーは悔しそうに顔を歪めたり、頬を膨らませてプンプンしている。


 銃がなくなれば肉弾戦に持ち込んでぶん殴ればいいじゃん。


 ゲーム前にそんなことを言っていたメンバーにはしっかり拳で躾しておいた。


 ルールはちゃんと守らないとね。



 お互いある程度打ち合ったところで一瞬の静寂が場を支配した。



 そして、その静寂を壊したのは会長の言葉だった。



 会長、朱雀門焔はスナイパーの生徒を後ろに下げ、ひとり前に出た。


「こんなところにゾロゾロ隠れやがって、よくもこの俺様の目を欺いてくれたな」


 凶悪な笑みを浮かべ偉そうにこちらに対峙する会長、朱雀門焔。


 玲那はその姿を初めて間近にする。


 聖治の話を聞いていた限りでは、唯の傲慢で非常識バカなお坊ちゃまだと思っていた。


 けれど、流石は朱雀門家の跡取りと言うべきか。


 ただの馬鹿なお坊ちゃまといった小者感がない。


 人の上に立つ者の雰囲気があると言えば伝わるだろうか。


 一般の生徒ならその雰囲気に飲み込まれてしまうのも無理はないのかもしれない。


 だが、玲那は飲み込まれるわけにはいかない。


「こうでもしないと生き残ることなんて無理ですよね、このゲーム」


 玲那は身を潜めながら焔の言葉に応える。


「ああ? このゲームはお前ら標的が生き残るなんて考えてねーよ。ただ俺様の目を楽しませる、そのためだけのゲームだ」


「つまんないゲームですね、はじめから勝ちが決まっているなんて。だから僕が楽しくしてあげたんですよ」


 玲那の言葉に眉を上げ不機嫌そうな顔をする焔。


「そうだな、確かに少し退屈していた。お前のおかげで面白くなったのもある」


「でしょ?」


「だが、俺は誰かの手に踊らされるなんて我慢なんねぇ。このゲームは俺様がルール。駒を動かし、操る。シナリオもエンディングも決めるのはすべてこの俺様だ!」


 プライド高そうだからねぇ、自分の計画通りいかないと我慢ならんのですね。 


「そうですか。で、どうします? あと少しで制限時間。こっちは君たちを撃退できるだけの武器はまだある。最悪、相打ちになっても標的の子たちは撃たせないよ」


 玲那と残りのメンバーは武器を持ち変える。


 まだペイント弾の蓄えもある。この状況で不利なのは会長たちのほうだ。


「言ったろう? 俺様がルールだと。残り3分ある。ここで最後の追加ルールを加えてやろう」


「もうすぐ終了なのにいまさらルールの追加?」


「ああ。標的の生徒は生き残った最後の1名のみ褒美の条件を叶える。もし最後の1名が決まらない場合は全員失格とする。残り時間せいぜい標的同士で潰しあうがいい!」


 焔は愉快に嘲笑う。





 このまま時間が経過すれば生き残った標的の生徒皆助かるはずだった。

 

 しかし追加ルールで生き残るのは1名のみとなった。


 全滅か1人生き残るか。


 会長の言葉を聞いた標的の生徒は絶望を味わう。


 最後のルールで生き残れるという希望が消えてしまった。


 生き残りたい。


 これ以上厳しい懲罰なんて受けたくない。


 例え他の人を蹴落としてでも……





 しばらくは誰も動かなかった。


 時間だけが過ぎる。


 このままでは自分が失格になると焦った標的の生徒が、近くの武器に手をかけようとした時だった。



「先輩」


 玲那が堂本の方を見ずに声をかける。


「ああ、わかった」


 堂本は銃を構える。そして背後で守っていた標的の生徒たちの方を向いた。


 その銃口は玲那を除く標的の生徒の頭を寸分の狂いなく撃ちぬいた。







◇◇◇








「……え?」




 撃たれた生徒はわけが分からなかった。


 顔に張り付くペイントに困惑する。


 風紀委員長に撃たれた。


 何故? 彼らは僕たちを助けてくれたんじゃないのか?



 彼は山田君の指示に従っていた。山田君は標的の生徒だ。そうか。彼が生き残るには今度は僕たちが邪魔ってことか。


 なんだ、単純なことじゃないか。


 はは、はじめからこんなゲーム生き残れるなんて思ってもなかったじゃないか。それなのに期待なんかして。


 誰だって自分が一番。


 つまりはそういう事だろ。


 もしかしたらなんて、馬鹿な考えだったんだ。










◇◇◇







「ピンポンパンポーン! 終了時間だよー! 皆お疲れ様ぁ、持ち場に戻ってねー」


 香城がゲーム終了のアナウンスを流す。


 


 静まり返っていた場の雰囲気は壊れ、重たい空気だけが残る。




「なんだ、つまらん。あっさり決まってしまったか」


 おそらく想像通りの結末だったのだろう。


 心底つまらなそうに焔はつぶやいた。


「ねえ、会長がルール。会長が言ったことは絶対。これは間違いないんだよね」


 玲那は朱雀門焔をまっすぐに見つめ確認の質問をする。


「無論、俺様が絶対だ。それで? 唯一生き残ったお前、望みはなんだ? 貧乏人にはありがちな金か? それとも女か? 言ってみろ」


「僕の望みは、奨学生が学生としての本分を全うすること。将来のために、より良い学びを得るためにこの学園に入学した。それなのに学びの時間さえもまともに受けることが出来ない生徒もいる。だから学ぶということを邪魔しないで欲しい」


 一般人と玲那達のような財閥の子息や令嬢たちとでは価値観が大きく異なる。家の格で人の優劣をつけるなんておかしいことだが、それがここのルールだ。それを根底からなくすことは恐らく無理だろう。


 それでもみんな学ぶために学園にやってきたのだから、学ぶ権利だけは絶対に冒してはならないと玲那は思う。だから現状を変えるために、至極まっとうで、本来ならあたりまえのことを彼に望む。



「いかなることにおいても僕らの学業を邪魔するような行為をしてはならない。そう約束して会長」



「……いいだろう」



 会長の了承の言葉に、標的役だった奨学生の皆は喜んだ。


 これで授業中はまともに授業を受けれるようになる。それだけでこれまでとは比にならないくらい学生生活に希望が持てる、そう思った。



「だが、失格になった生徒には罰則がある。よって罰則により生き残った貴様以外はこの約束を無効とする!」


「「ええ!? そんなぁ!」」


 希望を見出しては絶望に突き落とされる奨学生の生徒たち。


「残念だったな。だが、俺様を楽しませてくれた礼に貴様だけは希望通り学業を全うに受けさせてやろう」


 高笑いし始めた会長。


 結局はすべて会長の思うがままということかと周囲が諦めムードになった時、それまで黙っていた堂本が口を開いた。



「おい、待て」


 撤収しようとしていた会長は堂本の声に振り向いた。


「ああ? なんだよ。文句あんのか堂本?」


「俺はまだ望みを言ってないぞ」


「はあ? なんで俺様がお前の望みを聞かなきゃなんねーんだよ」


「俺はルール上の一番多くの標的を討ち取ったスナイパーだ。生徒会に1つ望みを叶えてもらう権利がある」


「なに言って……!?」


 終了間際、ここに集まった玲那以外の15人の標的を片っ端から撃ち抜いたのは堂本である。


 標的の半数である15人。他の標的はそれぞれ別の生徒が打ち抜いていたため堂本が最も多く標的を討ち取ったスナイパーなのである。


 これまで朱雀門家の焔に逆らった者はいない。


 たとえスナイパーのご褒美を望まれても、それは焔にとって都合の悪いことなど望む生徒はいないという考えのもと付け加えられたもの。


 だからこそ、堂本の発言に焔は焦った。


 敵対している風紀のトップ堂本龍兒が焔に望むことなど碌なことではないと想像がつくからだ。



「俺の望みはこいつの望みを叶えること。だからこいつの約束を無効にするお前の発言の無効を希望する」


 堂本は玲那を玲那を引き寄せしっかり腰に手を回す。


「ふざけるな! そんなこと許すわけが「会長!」


 会長の言いかけたことを玲那の声が切る。


「会長は言いましたね、会長が言ったことは絶対だと。では自分の言葉に責任を持って下さい。自分の言葉は絶対、自分がルールだといったその内容に逆らいますか? しかし、そんな自分の言葉に責任の持てないような人がトップの地位にいて誰がついていこうと思うのでしょうね」


「んなっ!? や、っくそ!!」


 言葉にならない感情で顔を真っ赤にした会長。


「ちゃんと俺様なルールを会長自身も守ってくださいね?」



 そして会長を放置し、その場を後にする玲那と風紀メンバーであった。






◇◇◇






「では、皆お疲れさま! 風紀の皆は今回大活躍してくれたから特別報酬をだしましょう!」


「やったー! 俺この前差し入れしてくれたコンソメ味のポテチ欲しい」


「んじゃー俺うまか棒! 納豆味がいいな!!」


「俺はねー何にしようかなー」


「あんたたち安上がりで涙がでそうだわ(笑)」



 風紀の間ではひそかに玲那が差し入れたスナック菓子が大流行中であった。


 皆この歳まで食べたことがなかったそうだ。


 派手な成りしてチャラチャラしているが皆お金持ちのお坊ちゃま。


 初めての味に衝撃をうけたらしい。


 ちなみに堂本は協力した見返りに後日堂本家に出向き、堂本の家族に挨拶しにきて欲しいと言われた。よくわからんが面倒だし。スルーするつもりである。





 こうして結果的に焔をぎゃふんとさせることに成功した玲那たち。


 ゲームは玲那たちの勝利で幕を降ろした。

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