ゲーム開始③
◇紫苑視点
――――別室モニタールーム
別室で特別観戦席をモニタリングしていた生徒会書記西園寺紫苑は動き出した会長を見てインカムに話かける。
「こちら、紫苑」
「はい、こちら山田」
インカムの向こうからは楽しげな彼女の声が聞こえてくる。
「会長、気づいた。今、そっち向かった」
「おお、ついに感づいたか。報告ありがとう!」
「……楽しい、の?」
最初紫苑は今回のゲームに協力する気などまったくなく、いつもの如くサボる気でいた。
しかし玲那と聖治にどうしても人でが必要と言われ仕方がなく会長達の動向を監視する役を引き受けた。
圧倒的不利な状況で、策を巡らしたギリギリの立ち位置にいるはずなのに何故そんなに明るく楽しげにしているのか紫苑には理解できなかった。
「すっごく楽しいわよ! ああ自分青春してるなーって実感してる。こんなに熱くなれるのは学生の醍醐味だからね、めいっぱい堪能しなくちゃ!」
彼女は心の底からゲームを楽しんでいるようだった。
でも……
「もし、失敗、なったら、わかってる?」
このままゲームに負けて、ゲームで玲那たちが細工したことが公けになったらタダではすまない。
この学園のトップに君臨する朱雀門焔に刃向うということは、この学園の朱雀門傘下にいるすべての学生を敵にするということ。
如月家は朱雀門家に簡単に取り潰されるような軟な財閥ではないが、それでも表だって対立してしまえば政財界に大きな混乱を生むことになるだろう。
この学園のパワーバランスも崩れどうなるかわからない。
そのことを理解していて楽しんでいると?
「できるだけのことはした。これで失敗したら計画を立てた私の責任になる。協力してくれた皆には迷惑かけないよう責任を取るわよ」
急に彼女の声音が変わった。
そう、彼女はすべてわかった上で楽しんでいる。
「まあ見ててよ、もうすぐあのバ会長をぎゃふんと言わせてみせるから!」
「……(ぎゃふん?)」
こんなゲームのどこが楽しいのかはよくわからないが、楽しそうにしている彼女を見ていると心が揺さぶられる。
ワクワク?
ドキドキ?
ムズムズする期待感。
彼女の計画通りにいけば見ることができるであろうぎゃふんと言わされた会長の姿を想像する。
そして誰もいないモニタールームで口角を上げプルプル全身を振るわせる紫苑であった。
◇◇◇
「さてと、もうすぐここに会長達が来るそうだけど準備はできてる?」
「大丈夫だ」
「「「いつでもOKッス!」」」
玲那達は第1図書室にいた。
図書館は本棚によって迷路のように入り組んでいる。
その本棚の影に風紀委員がペイント銃を構え配置されている。
標的の生徒は開けた読書スペースにまとまっていて、その通路の前を玲那と堂本が塞いでいた。
玲那のインカムにはクラスメイト達から様々な声が流れる。
「頑張ってください!」
「どうか無理はせずに!」
「何かあったときは近くのヤツを弾除けにして下さい!」
それが可笑しくて玲那は笑ってしまった。
「あはは、堂本先輩いざって時は弾除けになれって言ってますよ」
先輩にクラスメイトの言葉をそのまま伝える。
「勿論だ、お前にペイント弾など当たらせるものか。俺がお前を守る」
なんで俺が弾除けになるんじゃいボケぇ! 自分でなんとかしろや(笑)
そんな感じで笑って返して欲しかった。
でも、そうだよね。
堂本先輩に笑いを求める方が間違ってました。
しかし、もう少し肩の力を抜いた発言はできないものかしら。
「姉御と堂本さんは俺たちが守るッスよ!」
「そうですよ! あ、合体技で壁つくるとか良くないですか?」
「あの組体操のピラミットってヤツで壁作ってみるか!」
「ちょっ、お前……天才か!?」
「いや馬鹿だろ、ピラミット作ってどうやって銃で反撃するんだよ」
「ピラミットのまま撃てばいいじゃん」
「ピラミットの下になってるヤツは両手ついて上のヤツ支えてるのに?」
「あ、そうか」
「ぎゃははははっ」
風紀委員の諸君。
君らのお馬鹿らしさが今は愛おしく感じるよ。
◇◇◇
◇困惑するモブ視点
連れてこられた標的の生徒は困惑していた。
突然現れ、自分たちを討ち取るわけでもなく強制的にこの場所まで連れてきたあとなんの説明もないまま時間が経過。
自分たちを取り囲んでいるのは恐らく風紀委員。
普段は風紀らしい活動など何もしておらず、逆に取り締まられるべきは風紀の方だった。
しかし最近は真面目に活動していた。
その彼らが何故こんなことをしているのか?
そして一番の疑問はメガネの小柄な少年。
標的である1年の山田君。
何故彼が風紀に指示をだし、何故それを大人しく風紀が聞き入れている?
風紀のリーダーは風紀委員長の堂本だろう?
堂本は自ら指示を出すわけでもなく、テキパキ指示を出す山田少年の傍を離れず忠犬の如くあとをついて回っている。
そしてこんな状況なのに笑っている山田少年。
何がなんだかわからない。
わからない……が。
もしかしたら、もしかするかもしれない。
この状況で笑っていられる彼にしたがっていれば、自分たちはもしかしてこのゲームを生き残れるのではないか。
これまで抱いたことのない淡い期待が生まれる。
◇◇◇
◇山田視点
目の前の巨大スクリーンには、会長達が如月さんたちのいる図書室に向かう姿が映し出されている。
残り30人くらいだったスナイパーは道中の風紀委員の狙撃で今は会長含め15人にまでなった。
人数的にはもうそれほどの脅威ではないかもしれない。
ただ、あの会長が自ら出向いて標的の生徒を一掃しようとしていることが不安でたまらない。
ついつい思っていることが口から声に出てしまう。
「如月さん大丈夫かな?」
「ちょっと! 今はあなたが如月さんでしょう? 発言には注意しなさいよ」
隣にいた柏木さんに窘められる。
「ご、ごめんなさい」
そう。
僕は今、如月さんの制服を着て観戦席で柏木さんとモニターをみている。
如月さんが僕の制服を着て僕に成り変わり、僕が如月さんの制服を着て如月さんに成り変わっている。
特殊メイクで顔もつくり、声もボイスチェンジしている。
別に僕まで変装する必要はないと思うのだが、「如月玲那はちゃんと体育館で観戦していた」というアリバイはきちんとしていないと後々困るのだと言われた。
「うう、足がスースーするよ」
「もう黙ってなさいよ。ああ、本当なら私もお姉様の一番近くでお姉様と一緒に活躍する予定だったのに……あんたなんかのお守りをするなんて。お姉様のお願いじゃなかったら……」
僕を睨みながら不満を口にする柏木さん。
本当にごめんなさい。
「でも、あなた体格が小柄だから? 妙に女装似合うわよね」
「そんなこと言われても嬉しくないです……」
ああ、早くゲーム終わって欲しい!
ゲーム終了まで残り…………




