ゲーム開始①
「こちら伝達班、応答願いますわ」
耳に当てた小型のインカムから情報が伝えられる。感度問題なし。
「こちら山田です、どーぞ」
手元のペイント銃をいじりながら陽気に応答する。
「えっと、今そちらに西側の階段の方からスナイパーの生徒が3名向かいましたわ」
「了解」
「お気を付け下さい、きさらッ、間違えました、山田さん」
「ふふ、大丈夫だよ。ありがとう」
インカムでのやり取りを終えた少年はペイント銃を持ち直し息を殺す。
近づく足音を確認しながら死角から手鏡を使い廊下の様子を窺う。
そして、彼らが階段を登り切り3人全員の姿を視界に捉えた瞬間、一気に彼らの前へと距離をつめペイント銃で彼らの武器を正確に打ち落とす。
「うわっ?!」
突然のことに撃たれた彼らは騒ぎ出す。
「なッいったい何が起きたんだ!」
撃ち落とした武器を拾いあげ少年は言う。
「この武器は僕がもらうね。君たちは大人しく体育館に戻ってゲーム観戦を楽しんでおくれ」
少年の言葉に彼らは逆上する。
「は? ふざけんな、こんな簡単に終わってたまるかよ。おい、こいつ俺らでやっちまおうぜ」
彼らは少年の腕に標的の腕章が付けられているのを目にし、その顔に悪い笑みを浮かべた。
「こんなもやしみてーなヤツ銃なんか使わなくても素手で十分ボコれるだろ」
「おいもやし、俺らの武器返しやがれ」
3人は武器を取られたことなどお構いなしに少年を囲む。
「君たち、ルールは守らないとダメだよ」
囲まれても冷静な態度で少年は言う。
「なんだよ、副会長が言ってた追加ルールのことか? スナイパーは武器を手放すか弾が切れたらその時点でゲーム参加権を失うってヤツ? そんなもん関係ねーよ。俺らはお前ら庶民を痛めつけるが楽しくてこのゲーム参加してんだぜ?」
「お前ボコって武器取り返してお前をゲームから脱落させる、それがルールだろ」
「ははは、そういうこと。大人しく殴らせろや」
少年は彼らの言葉を聞き、はあーっとため息ついたあと肩をすくめる。
「堂本先輩、こんなこと言ってる人いるんですけどー」
「「「は? 堂本先輩?」」」
「ルール違反者は即失格だ……俺の前でこいつを殴るなど、二度とそんな口聞けない様にしてやろう」
少年の背後から現れたのは風紀委員長の堂本龍兒。
彼は人を殺せるのではと思えるような殺気のこもった視線で彼らを威圧した。
「「「う、うわあああああああ」」」
突然現れた恐怖の風紀委員長に睨まれ彼らは一目散に走り去っていった。
「あ、逃げちゃった。ま、武器は置いて行ってくれたし、いいか」
「玲那、無事か、怪我はないか」
堂本は少年を後ろからぎゅうぎゅうに抱きしめ安否を確認する。
「先輩、離して下さい。怪我なんてあるわけないじゃないですか。それと、玲那じゃなくて、山田って呼んで下さい! いくらここのカメラに細工して中継の回線切ってるからって気を付けてもらわなくちゃ困ります!」
「……すまん」
実はこの堂本に抱きしめられている男子用の学生服をきた少年――――少年ではなくクラスメイトの山田の制服を着た玲那である。
皆さん、こんにちは、こんばんは、御機嫌よう。如月玲那です。
現在私は山田君に変装し標的役としてゲームに参加中です。
ええ、イベントに向けいろいろ根回ししていたのですが、あっという間に始まってしまいました。
さて、今回のサバイバルゲーム。
ルールは標的が生き残る可能性を全く考えていないスナイパーの完全優位。
少しでも標的側の勝率を上げるために生徒会副会長である聖治に頼み、追加として「スナイパーは武器を手放すか弾が切れたらその時点でゲーム参加権を失う」というルールを追加してもらった。
これで少しはスナイパーの数を削ることができる。
標的30名vsスナイパー約420名。観戦に徹している生徒もいるためスナイパー役はおそらく300名弱程度だろう。
それでもまだスナイパー優位は揺るがない。
標的は武器や防具を支給されることなく丸腰で逃げ回っているのだ。
集中射撃されたらひとたまりもない。
標的には生き残るために反撃が許されている。
だが、普段から周りに酷い仕打ちをされゴミのような扱いをうけている者が反撃にでるなど相当の覚悟がなければできないだろう。
みんな仕返しを恐れ反撃はせず、ひたすら息を殺し隠れ、居場所を変え、制限時間終了まで生き延びるしかない。
でもその様子は校内に設置された監視カメラに捉えられている。
観戦している生徒がスナイパーにその情報を流したら居場所はすぐに押さえられてしまう。
「ピンポンパンポーン! 只今5人目の標的1年3組伊藤君がスナイパーに討ち取られましたー! 残り25名! 張り切っていきましょー!」
校内に生徒会会計の香城による不快なアナウンスが流れた。
「5人やられたか……そろそろ動こうかな。武器はだいぶ集まったし」
山田少年に成り替わった玲那は背中に2丁の武器をクロスさせ背負い、両手にも銃を持ち潜伏に使っていた空き部屋を見渡した。
そこには風紀委員、クラスメイトの協力により集まったもの、スナイパーの生徒から奪い取ったペイント銃と弾が並べられていた。
「標的が過半数を割る前に助けにいかなきゃね」
「ああ、すべてはお前が望むままに」
堂本が膝をついて傅きながら玲那の手をとった。
「ぷぷっ、何その台詞、どこぞの騎士ですか! 普通の人がいったら笑えるネタみたいになるけど先輩だと容姿がイケメン過ぎてマジに聞こえる!」
堂本は本心から真面目に答えただけで、マジだった。解せぬ。
「……」
「さ、先輩も武器もってください。私ひとりじゃ倒すのに限度があるしたくさん手伝ってもらいますからね!」
無言で銃を装備する堂本先輩。
実家が実家だけにその様は一般人とは迫力が違う。
近寄りたくないオーラ全開であった。
「さて、どこからいくかなー?」
玲那は耳に装着しているインカムに触れた。
「こちら山田です」
「はい、こちら伝達班です」
「ここから一番近い標的の生徒ってどこにいる?」
「えっと……そこからですと近くの階段を下りて保健室に向かって真っすぐいった途中にある倉庫の中に2名ほど隠れているようです。ただ、そこには既に10名ほどスナイパーが向かっていて早くしないと先に討ち取られてしまいそうな状況です」
「了解! 急ぐよ、ありがとう!」
「いえ、お気をつけて!」
武装した玲那と堂本は潜んでいた空き部屋を後にし目的地に急いだ。
◇◇◇
その頃体育館では―――――――――
「なあ鬼龍院、退屈だ」
特別観戦席の豪華な椅子に足を組み踏ん反り返って座っていた赤毛が特徴の美少年生徒会長朱雀門焔はモニターを睨めつけながら近くにいた生徒会副会長鬼龍院聖治に話かける。
「何が退屈ですか、貴方の望み通りこんなバカげたゲームを開催しておきながら。呆れてものも言えませんよ」
聖治はその美貌の顔に軽蔑の色をのせ焔をみる。
「いや、もっと見ごたえのある奴がいると期待してたんだが……ルールが甘かったか? もっと標的増やしておいた方が楽しめたか。次は奨学生だけでなく他の家の格が低いヤツも標的に参加させよう。そうすればもう少し楽しめるだろう?」
「こんなシステムのゲームで面白い展開なんてあるわけないでしょうが。いい加減その子供っぽい発想の頭をどうにかしてまともに生徒会の仕事してくだ「あっ! おい! そこ、12番のカメラをアップにしろ!」
「えーこれぇ?」
監視システムをいじっていた生徒会会計香城繭理は言われた通り12番のカメラ映像をアップにした。
映像には銀髪の長身な生徒とメガネの小柄な生徒が10名程いたスナイパーを瞬殺する姿がとらえられていた。
「あーこの銀髪クン風紀委員長の堂本じゃん。えーあいつこのゲームに参加してるの? そんなタイプじゃないのにウケるー」
「あいつが俺様の企画したものに参加したことなどこれまでなかったはずだ……いったい何を企んでやがる」
「さーねぇ。でも、あいつ最近は真面目に風紀活動なんかしちゃってどっかおかしいんだよね」
「一緒にいるチビは何者だ? 動きが普通じゃないぞ……っておい、このチビ標的の腕章つけてるぞ!」
「えーと……彼は1年5組の山田三郎太クン。学業奨学生だって」
「何故標的と堂本は一緒にいる……俺様のこのゲームを掻き乱す気か? ふん、まあいいだろう。ちょうど退屈していた所だ。精々足掻きまくって俺様の目を楽しませてもらおうか」
身を乗り出しモニターを食い入る焔。
その近くで焔をみたあとモニターに視線を向ける聖治。
(玲那、とうとう動いたか。玲那に限ってやられることはないとは思うけど、うまく堂本を弾除けにでもして生き残ってくれ。もし玲那に手を出した奴は僕が肉体的に精神的に社会的に叩き潰すから)
動き出した玲那と堂本
その姿をカメラが捉える
会場は思ってもみなかったその映像に驚き、一方的だった展開に飽きていた者たちの目を惹きつける
果たして迎えられる結末は朱雀門焔が書き上げたシナリオか
それとも……




