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ゲームを思いっきり楽しみましょう

 サバイバルゲームの内容が告知されクラスが異様な盛り上がりを見せるなか、玲那はひとり考えていた。



 え? どうやってこのゲームをやめさせようかって?


 ノーノ―!


 どうやって標的の生徒を救いだそうかって?


 ノーノ―!


 如何にこのゲームを楽しむか! どうやって勝利するか!!


 イエス! イエス!



 はっきり言ってしまえば標的にされた生徒が生き残る確率なんて限りなくゼロに近い。


 ゲームの状況はリアルタイムで中継され、標的が何処へ逃げようが隠れようがその様子をカメラがとらえ観戦する生徒がモニタリングしている巨大スクリーンに映し出されるのだ。


 ゲームに参加しているスナイパーだけが敵ではない。


 参加していない観戦している生徒でさえ敵と成りうる。


 モニタリングする生徒がスナイパー役にその様子を携帯などを使って情報を流せば標的に逃げ場はない。


 最初から標的が生き残ることなんて考えてもいないこのゲームのシナリオ。


 だからこそ、生き残った標的のご褒美は生徒会に望みを叶えてもらえるという非現実的なもの。


 私がゲーム主催者側だったら何を言われるかわからないそんな危険なご褒美なんて絶対言えない。


 例えば賞金1億円くれっていわれたらあげなくてはいけないのに……まあ、ヤツならポンと1億ぐらいだしそうだけど。

 

 お金じゃ片付かないことだって要求されるかもしれないのに、負ける可能性を全く考えていないのだろう。



 だが、のぞみを叶えてもらえる側としては最高の舞台。もし私が勝ったらあの

バ会長に言いたいことがたくさんあるのだ。


 スナイパー役で参加するのは何の問題もないけれどそれではつまらない。


 やっぱりやるとしたら標的役でしょ!



 しかし、残念ながら私は標的には選んでもらえなかった。


 ええ、残念ながら。


 

 だって楽しそうじゃない。


 絶対的不利な条件。


 誰もが勝てないと考えている標的。


 生き残れば叶えられる自分の願い。


 めちゃめちゃワクワクする。




 しかし、標的役は指名された生徒。


 私は指名されなかったからスナイパーとしてしか参加できない。


 たとえスナイパー役で参加したとしても、自分が狙撃して脱落させたせいでその標的の子が懲罰受けるとか後味悪い。


 ああ、標的役やりたい。


 誰か代わってくれないかな。


 なんとなくクラスを見渡し、ひとりの男子生徒に目がいった。



 彼は山田君。


 このクラスの奨学生だ。ゲーム告知のプリントを握りしめ、ぶるぶる震えている。


 そう、彼は標的役として選ばれている。



 ……あ、閃いたかも。



 玲那は山田君に近づき身体のサイズを調べる。



「山田君、ちょっと失礼」


「え、ちょな、なにするの?!」


 突然のことに驚く山田君。


 それはそうだろう。誰だっていきなりクラスメイトに体を弄られたら驚く。


 突然のセクハラすいません。でも、ちょっと確認させてね?



「うわ、ウエストほっそい。負けたかも? ふむ、身長も同じくらいだしイケるか。あ、メガネとるよ……何よ、漫画でよくあるお決まりの設定か」



 がり勉メガネをとってみたらその下にあったのは少女のような童顔のお顔。


 ダサいメガネと野暮ったい髪形で隠れているのがもったいない。


 BLの世界にいったら総受けできそうなキャラの顔だ。


 この顔でもしかしたら苦労してきてわざと隠しているのかもしれない。


 色んな想像が掻き立てられるが今は一度おいといて。


 見なかったことにしてメガネをもとに戻す。




 だが、これならいける。あとは協力者を募るだけ。



「よし、みんなちょっと作戦会議しましょうか!」


 玲那はクラスメイトに向き合った。


 突然のことであったが、ざわついていたクラスは静かになり、皆急いで自分の席についた。うん、なかなかに統率は取れている。


「みんなこのゲームの告知は読んだよね? これについてどう思う?」

 

 玲那はクラスメイトに問う。


 これは大事な質問だ。クラスの皆があちら側につくのか、それともこっち側についてくれるのか。


 ここ最近のクラスの雰囲気を見れば心配するようなことではないのかもしれない。


 それでも、玲那はもう一度問う。



「みんなはこのゲームに賛成? 反対?」



 玲那の視線を受け、ポツポツと声を上げるクラスメイトたち。



「私は、あまりこういう野蛮なもの好きではありませんわ」


「私も。この標的にされた方のことを思うと気の毒で……」


「俺は楽しそうだと思うけど、標的は絶望的だよな……」



 皆ちらちら山田君の方をうかがう。


 それもそうだろう。


 最近は奨学生である山田君の存在もクラスに馴染みいい関係が築けていただけにその関係を壊す強制イベントが告げられたのだ。


 おそらく入学初期のクラスだったなら喜んで山田君を吊し上げ、彼の心情を気遣う人なんていなかっただろう。


 もしかしたら、やっぱり庶民なんてどんな扱いを受けようとかまわないと嬉々としてイベントに参加する人もいるのかな、なんて思ってしまったけれど、そうではなかった。


 山田君を気遣うことのできるクラスメイトの様子に、嬉しくなる。



「そうね、こんなルールじゃ皆面白くないわよね。そこで、皆にちょっと手伝ってほしいの」


 玲那のワクワクと輝く表情につられ、教室の熱気が向上していくのをクラスメイトみんなが感じた。


「まあ、いったい何をなさるのですか?」


 さっきまでこの告知に戸惑っていた生徒は、徐々に玲那と同じいい表情になっていた。


「取りあえず大雑把にだけど、クラスの3分の1はモニターから情報を伝える伝達班。残りは武器調達のためスナイパーとして参加してほしい。もちろん本当にスナイパーの仕事をするわけじゃないわ。いろいろやってもらいたいことがあるから実動班として。このサバイバルゲーム、私たちは私たちで勝つためにゲームを楽しまない?」


 クラス一丸となってひとつのことに取り組む高揚感が場を支配する。


 クラスの大半が玲那のやる気に飲み込まれていたが、一人困惑し続ける人がいた。


「あの、如月さん僕はどうすれば……」


 山田君は不安げに玲那の顔をみる。


「大丈夫! 君はただ見てるだけでいいの。あ、もしかしてどうしてもこのゲームに参加したかった? 戦う気満々だったかしら?」


 玲那の言葉に高速で首を横に振る山田君。


「いやいやいや! 僕運動神経ないからすぐに脱落してしまうだろうし」


「山田君、あなたは大人しくゲームを観戦してくれるだけでいいのよ」


 玲那はニヤリと悪い顔で笑った。


「へ?」



 作戦は思いついた。


 あとはゲーム本番まであれこれ裏で手を回さなくちゃいけないことがたくさんある。


 聖治にも、風紀のみんなにも動いてもらわなきゃ。


 あードキドキしてきた。


「よーしみんな! ゲームを思いっきり楽しみましょう!」


 玲那が思いきり腕を振り上げると釣られてクラスメイト皆も振り上げた。


「「「「おー!」」」」


 山田君ひとり、弱弱しく腕を上げたのであった。


「お、おー(え、僕いったいどうなるの?)」

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