少女は生まれ変わる
私の両親は2人とも類い稀なる美形だ。
そしてそんな2人の良いところを凝縮して生まれてきたのがこの私。
子供のころは天使だ、妖精だと持て囃され、女性的な二次性徴を迎えた頃にはマドンナだ女神だと崇め奉られた。
美形に生まれたらさぞ勝ち組の人生だろうと人はいう。
確かに、就職難なこのご時世、見た目が良いというのは大きなセールスポイントだ。どんな企業の面接だってこの顔のおかげで楽に通る可能性の方が高い。
だが、引きこもりのオタクな私にとってこんな張りぼての外観などクソくらえだった。
この見た目で得したことなんてない。むしろ損したことばかりだ。
小学生の頃はよく周りのものがなくなった。
リコーダーなんて何度買い直したか数えきれない。
体操着だってそうだ。我が家が裕福でなかったら盗まれたものの買い直しで破産していたに違いない。資産家な両親に感謝感謝。
嫌なことばかりだったけれど、まだ純粋な子供だった頃の私は愛想よくして人間関係を大事にしていた。
中学生の時、親切にしてくれた先輩に笑顔で接した。親切にしてもらったら親切にして返す。人として常識だと思っていた。
たった数回話しただけ。それだけなのにいつの間にか彼氏面され「君は俺のものだろ!」「俺だけに微笑んでくれたじゃないかああ!」と、よくわからないことを喚かれた。
そういったことは何度もあった。しかし、いつの間にかしつこく付きまとっていた彼らは消えいくのだ。
度重なる自称彼氏出現により、私は顔に喜怒哀楽を表現するのをやめた。
表情に出さず内心で喚き散らかすことにした。
高校生になって目立たず騒がずを心がけていたのに、周囲の反応はエスカレートしていった。
ファンクラブ、親衛隊、ストーカー、信者。
呼び方は様々だがいろんな人が私を取りまいていた。
どこに行こうと周囲の視線に晒され、ヒソヒソと陰口を言われる。
どんなに地味な格好をしようと声をかけられ街中を50メートル歩くだけで30分もかかり友人との待ち合わせには必ず遅刻する。
自由になる時間が欲しかった。
人間関係に問題を抱え周囲とうまく接することができなくなっていた私。このまま社会人になるのは怖くて大学進学を希望した。
そして大学には必要最低限の単位をとるためだけに出席しほとんどを家の自室に引きこもって怠惰に生活している。
本当はこんな不健康な生活はダメだと思っているが、両親は私に甘くてずっと家で好きに暮らしていいと言っている。
わかってるんだ。このままじゃダメなんだって。
これまで私は周囲に目をむけることなく楽な道を選んで生きて来た。
私物が盗まれても私は何も言わなかった。
そんな態度がダメだったんだ。
怒ればよかったのだ。
人のものを盗むなんて泥棒だって、警察に突き出すぞこの野郎ってさ。
勝手に彼氏面する勘違い男に言ってやればよかった。
「好みじゃねーんだよ、ベタベタ触れんな。どうしても私と付き合いたかったら顔を○○戦士の××様にでも整形して来い!」
……本当に整形してきたらきたでドン引きするんだろうけどさ。
言いたいこといって、周りの目なんか気にせず自分らしく生きていたらきっと違った人生だったのろう。
これまでの経験上、一度も口を聞いたことがない男のことで知らない女が絡んでくるなんてよくあることだった。
しかし、そんなことがあっても私の周囲が大事になる前になかったことにしていた。
だから女の人に声をかけられても、なんだまたかと気を抜いていた。
だが、たまたま今回は周囲の監視を掻い潜ってしまったみたいだ。
「あんたのせいよ、あんたのせいで彼は私を見てくれない! あんたさえいなければ!!」
気がついたら刃物を振り上げた女性の姿。
振り上げた手が下され体を衝撃が襲う。
痛いとか、苦しいとか感じる間もなかった。
気がつけば暗闇のなか。
ゆっくり目を開けるもちゃんと見えない。
靄がかかった視界。
あれ、私死んだの?
とりあえず力強く叫んでみる。
「おぎゃあああああああああ(ここどこだああああああ)」
「奥様、おめでとうございます! 元気な女児でございますよ!」
「ああ、なんて可愛らしいのでしょう」
(なんだ! 周りで女の人の声がするぞ?)
「私の可愛い赤ちゃん、生まれてきてくれてありがとう」
「奥様、お嬢様のお名前はもうお決まりになってらっしゃるんですか?」
「ええ、女の子なら玲那、玲那って決めていたの。あなたの名前は如月玲那よ」
(どういう状況? あれ、私持ち上げられてない?)
「早く旦那様にお嬢様の誕生をお知らせしに行ってまいりますね!」
「ええ、あの人にも待望の女の子を抱かせてあげなきゃね、ふふふ」
(なんかこういうのって小説で流行りの転生ってやつじゃない? はは、まさかね……取りあえず一回寝て落ち着こう。全部夢で、寝落ちということもありえる)
そして私は目を閉じ、意識が遠のいていくのを感じた。
――ふぁ、寝た寝た。うん、やっぱりこれはあれだ。転生したみたい。
(少女は生まれ変わる)