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お断りします

 最近、玲那は周囲の生徒から今まで以上に話しかけられるようになった。


 これまではほぼ挨拶だけで、あとは家のことや奨学生に対する陰湿な陰口だったり話していて気分がいい内容ではなかった。


 しかし今は友人としての他愛無いことや恋愛相談、授業でわからなかった勉強の話など普通のクラスメイトとするような会話をしている。


「如月様、実はご相談がありまして……」


 ふんふん。ああ、それはね、こうすればいいのよ。


「如月様、僕好きな人がいるのですがどうやって話しかけていいのか相談にのってもらえませんか?」


 え、恋愛音痴な私に相談するの? ま、まあいいわ。これまで数多の恋愛バイブル(少女漫画)を読破した玲那さんにお任せあれ!


「あの、授業でやったこの範囲の応用がわからないのです。教えて頂けないでしょうか!」


 ああ、ここか。私も昔やったときに躓いたのよね。一度理解しちゃうと簡単なんだよ。



 ……。



 って、おい! どうした皆!? 何故いきなりフレンドリーに話しかけてくるようになったの?!


 今までそんな親しく話しかけて来たことなどなかっただろう!


 突然のことで驚いていたが、一人ひとり話を聞き相談に乗っていった。


 そして、そのうちの一人が言った。


「柏木さんの仰った通りですね。如月様にお話しを聞いていただけて、自分が今までどれだけ狭い視野で物事を見ていたのか、思い知らされましたわ」


「え、それはどうゆうことかしら?」


 あの柏木さんが何を言ったというのだ。


 詳しく話を聞こうとすると、教室のドアが開いた。


「お姉様、一緒に帰りましょう! あら、皆さん。お姉様を囲んでどうしたんですの? お姉様は私と放課後デートですのでお誘いはご遠慮してくださいませ」


 教室に入ってきたのは柏木さんだった。


 そして私の周りに集まっていた人をかき分け私の腕に抱きつき牽制する。


「柏木さん、最近よく皆さんが私に相談事をするようになったんだけど、あなた何かした?」


「ええ。私、お姉様と話をしていかに自分が愚かで小さい人間だったのかと目が覚めたのです。そしてお姉様の素晴らしさを知り、お姉様に対する尊敬、憧れ、愛しさ、なんだかよくわからない感情が溢れてしまいまして、それを自分ひとりの胸にしまっておくことができず周りの人にもお姉様の魅力を伝えなければと、私の言葉ごときではその魅力の100分の1も伝えきれないだろう思いましたができる限りの思いを拡散してみました!」


 柏木さんは瞳をキラキラさせながら語った。如月玲那という人物がどういう人間であるのかを。


 えっと、え? 


 それで結局どういうこと?


「柏木さんの話を聞くまで、如月様はあえて人と壁を作ってるような印象しかなくて……容姿端麗で、成績も優秀。だけど、いつもお淑やかで。どこにも隙がない完璧な人間で私たちとは違う次元の人なんだって思ってました」


 クラスメイトも語りだす。


 完璧な人間? 私が? ないわー。欠陥だらけなんだけどな。


「とても冷めた目をしておいでだったので、勝手にクールな人なんだと思ってましたが、柏木さんがそんなことないと。如月様は温かい人なんだと、内に秘めている心は温かく、優しい。少し話をしたらわかると言っていたので是非話をしてみたくて」


 他の人からみた私の印象ってそんな感じだったのか、知らなかったぜ。


 たぶん冷めた目をしてたのはこの学校のセレブ思考に呆れてたからだと思うが。


「ふふ、皆さんもやっとお姉様の魅力に気が付きましたのね! でもお姉様の一番は私ですの! 私がお姉様の一番の妹分なんですから、お姉様の横は誰にも渡さないわ! さあ、お姉様一緒に新しくオープンしたホテルのデザートビュッフェに行きましょう」


 まだ話を聞いて欲しそうにしているクラスメイトを放置し柏木さんに誘導され教室を出る。 



 待て待て待て。そもそも、お姉様ってなんなのだ。 


 私たち同級生でしょ? 同い年でしょ?


 突っ込むべきなのに時期を逃してしまい突っ込めないでいる玲那であった。




 柏木さんは学校にいる間、気が付くと隣に現れるようになった。


 家の方角が違うため登校は別々なのだが、学校に来るとどこからともなく現れる。


 ホームルームが始まるまで私に話かけ、クラスは別のため授業開始1分前になると消え、休み時間になるとまた現れ、昼ごはんも一緒に食べ、トイレにも毎回必ず付いてきて、放課後風紀委員の活動を見にいく時も傍を離れなかった。


 彼女に私がこの学園を変えたいということ話した。それに対して彼女は言った。


「お姉様のなさろうとすることに間違いはございません! 私も全力でサポート致します!」


「う、うん。ありがとう」


 学園の生徒の意識改革に賛同してくれたのは嬉しいが、その盲目なまでの崇拝はやめて欲しい。





 これは、おそらく普通の神経をしていたらノイローゼになっていたかもしれない。ほぼ片時も離れず付きまとわれる。もはやストーカーの域を超えた彼女の存在。


 考えてみて欲しい。絶えず他者の視線にさらされる自分というのを。


 だが、玲那は前世ではヤンデレに溺愛され、絶世の美貌は周囲の視線を釘づけにしていた。見られることに慣れていた。常にそばに人がいるということに慣れえいたのだ。


 だから彼女のことも付きまとわれて「うぜー」とは思ったがその行為自体はまだ許容範囲のことであった。


 彼女をみて少し前の聖治を思い出した。


 桜坂学園に入学前、玲那の家で勉強合宿を行った。2人とも桜坂学園の入学は必死に勉強せずとも家の力で楽に入学できたのだが、入学試験は自分の力でちゃんとした点数をとるため、現状に慢心することなく真面目に受験勉強していた。


 普段は離れ離れの2人がほぼ一緒にいる。たぶん一緒じゃなかったのはトイレと風呂の時間くらいだった。あのときはとにかく聖治は玲那にべったりひっついていた。聖治が女なら風呂にも一緒に入っていただろう。


 そんなことを思い出して、柏木さんに言った。


「柏木さんが男だったらね……(せめてトイレではゆっくり用が足せたのに)」


「まあ、お姉様! 私だってお姉様と出会ってからは何故自分は女に生まれてきたのかと後悔することもありました。でも、女の子同士なんで今時めずらしくもないですのよ? いえ、女の子どうしだからこそ人目も憚らずイチャイチャできるという利点もございますし、あえて私は女の子でよかったと思いますの。そのほうがお姉様のより近くにいることができると思いますし。それよりお姉様、柏木さんなんて他人行儀ですわ。菜奈と呼んでください!」


「うん(なんか別の意味でとられたみたい、どうしよう)……菜奈ちゃん。私とあなた他人よね」


「いいえ、他人ではありません! 姉妹なのです! ソウルシスターなのです!」


 もうこの子が何いってるのか理解できないわ。






 そんな私にべったりの菜奈ちゃんは未だ聖治とエンカウントしていない。


  なんでも聖治は今、生徒会の仕事が忙しくて生徒会室に缶詰状態らしい。毎晩電話で愚痴を聞かされる。聖治以外がまともに仕事しないのだとか。


 俺様、何様、焔様。生徒会長の焔は仕事を任せてもまともな書類を作れない。予算の計算もできず非現実的な計画しか立てられない。困ったときは全部朱雀門家の権力でどうにか片づけようとする。


 チャラ男、クズ男、繭理様。彼は会計の仕事を放り投げ遊び歩いているらしい。忙しいから仕事無理ーと言って女の子と放課後さっさと消えてしまうのだとか。その尻拭いを繭理のファンクラブの子達が率先して行っているらしく繭理のために書類作成をしハンコを押せばよい状態に仕上げてるのにそのハンコすら滅多に押しに来ない。


 そして一度も姿を見せない書記。生徒会室に姿をみせたことがないため書記の仕事は溜まり仕方がなくそれを聖治が片づけている。


 その愚痴を聞き「へー」「ふーん」「大変だねー」と繰り返す。


 このままでは聖治がストレスで円形脱毛症にでもなるかもしれないと思ったが、菜奈ちゃんのストーキングにあっている現在、聖治と菜奈ちゃんの遭遇を避けられているのはありがたいことである。


 あの2人、出会ったらどんな化学反応を起こすかわからない。


 だが、2人が出会うのはそう遅くはないだろう。









 その後、玲那はクラスメイトと少しずつ打ち解け、彼女たちの凝り固まったセレブ思考に庶民感覚を馴染ませていった。

 

 その効果もありクラス内で庶民出身である奨学生に対する風あたりは徐々に和らいでいった。





◇◇◇





 今日は玲那のクラスで家庭科実習が行われた。


 有名パティシエご教授のもと、チーズケーキを作った。皆料理をしたことがなくて手つきが覚束ず悪戦苦闘しながら作っていた。


 玲那は家で自分でもお菓子を作ったりしていたため何の問題もなく手早くケーキを作ってしまった。


 他の子は卵を割るのでさえうまくいかず卵の殻が入ったまま次々ボールに材料を投入していた。あれでは出来上がりは絶対ジャリジャリするであろう。なかには生地が真っ赤になっていたり、紫色になっていたりと、明らかにチーズケーキの色ではない仕上がりの人もいた。


 玲那は出来たケーキをラッピングし、先生の許可を取り実習室を抜け出して中庭に行った。ケーキができたものは校内の好きなところでティータイムを楽しんでケーキを試食してよいことになっている。


 あのまま実習室にいたらダークマターのようなケーキの試食につき合わされかねないと早々に戦場を離脱した玲那の判断は間違っていなかった。


 中庭にいた玲那の耳に実習室がある方角から微かに断末魔の悲鳴が聞こえた。


「南無南無」


 玲那は自分で作った完璧な仕上がりのケーキを食べようと中庭のベンチに腰掛けラッピングを解いた。


「いただきます!」


 手を合わせ食べようとしていた時だった。




「それ、俺にも、くれ」



 長身のイケメンに手をつかまれた。



 ……もうこれ以上新しい人物との遭遇とかいりませんの。


 玲那ちゃんもういっぱいいっぱいですの。


 チーズケーキ食べる分の容量しか空いてませんの。



 だから。





「お断りします」

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