取り巻きゲットしました
突然上から降ってきた玲那。
それに驚き、何を言われたのか頭の回転がついていけない女生徒たち。
「貴方、叩かれた所は大丈夫? 腫れてない?」
「え、あの、えっと、その」
玲那は囲まれていた女生徒に声をかける。
「頬は少し赤くなってるし、唇も切れてるわね。腫れてくる前に冷やした方がいいわ。これ、濡らして使って」
玲那は持っていたハンカチを彼女に手渡す。
「あ、ありがとうございます。 あの貴方は……」
彼女は戸惑いながらもハンカチを受け取った。
「ちょっと、あなた誰よ! いきなり何なのよ!」
「おやめなさい、この人、あの如月玲那さんよ」
「嘘、この方が? え、でも今上から降ってきましたわよ? あの如月様がこんな行動……」
3人のうち1人は玲那のことを知っていたようだ。いや残り2人も玲那の名前は知っているようだ。
「貴方達、こんな人目につかないところで、こんなことをなさるなんて淑女としていかがなものかしら」
「「「そ、それは」」」
3人を責める玲那だが、そんな玲那にも3階から飛び降りるのは淑女としてどうなのかとツッコミを入れたいところだ。
だがそんなことをできる人はいなかったようだ。
「少し聞こえてしまったのだけれど、香城繭理様のことで揉めてらしたのよね? だったら本人に直接聞けばいいわ、ほら、あそこにいるわよ」
玲那が3階の窓を指すとそこには唖然とした表情でこちらを見ていた香城がいた。
「え、そんな香城様?!」
「どうしましょう!」
「と、とりあえず今日は引きますわ、柏木さん覚えておいてね!」
3人組はそそくさと去っていった。
「繭理様! あの、彼女達が私に」
香城の姿を見て彼女は嬉しそうに顔を輝かせ話しかけた。しかし――――
「えっと、君は誰だったかな? ごめんねー、君のこと覚えてないや」
「えっ、そんな」
どうやら香城は本気で彼女のことを覚えていないらしい。
それにショックを受けている女生徒。
「玲那ちゃんすごいね! 俺びっくりしたよ。まさか窓から飛び降りるなんて、スゲースゲー!」
子供のように瞳を輝かせ、窓から身を乗り出し叫ぶ香城を無視し、私はショックで座りこんでしまっている彼女を無理やり立たせその場をあとにした。
2人は外に設置された運動部用の手洗い場に腰かけた。
「数日前までは、私のこと、菜奈ちゃんって、一緒にご飯食べようって、放課後お茶しようって話しかけてくださったのに!」
泣きながら香城とのことを語る彼女――柏木菜奈。
「いや、別に貴方と香城について詳しく聞きたいわけじゃないのよ? ほら、顔冷やしなさい」
「うっ、そんなこと言わずに聞いてよ! 繭理様はいつだって優しかった! たとえ周りからどんな因縁つけられても気にならないくらい、彼と一緒にいるのはまるで夢のようで、毎日が本当に幸せだった!」
「でも、彼は貴方のこと覚えてないって言ってたけど。もしかして夢でも見ていたんじゃなくて?」
興奮して話す彼女を落ち着かせようとするも、さらにヒートアップしていく。
「違うわよ! 繭理様は気に入った子に声をかけて可愛がってもそれが長続きしないことは知ってたわ! でも、こんな私にでも優しくしてくれて、もしかして私だけは違うんじゃないかって、私は特別なんだって! そう、思って初めてだったけど私……」
「ふーん、はじめても捧げちゃったわけか」
「うん」
こくりと彼女は頷いた。
別に彼女らの男女関係について知りたいわけじゃない。
彼女を助けたのはあのままでは暴行事件にまで発展しそうだったから止めただけだ。
それに、その、なんだ、香城繭理に言い寄られてぷっつんしてしまったせいであんな行動にでてしまったということもあるが。
「あのね、男女間のことに第三者が口だすのはナンセンスだと思うのよ。相手がはじめから駄目男だって分かってて付き合う人もいる。傍からみたら世間には胸はれるような関係じゃなくても本人たちは幸せだってこともある。不倫、三角関係、秘めなければならない立場同士の恋。そんな関係にのめりこんでる相手に周りが何か言ったって耳にははいらないの。だから、私があなた達の関係について言うのは意味がないことだと思うけど」
「え」
彼女は驚いた顔をしていた。
「彼との馴れ初めを私に話してどうしたかったの? 慰めてほしかった? なんてひどい男だって。それとも、騙されて舞い上がって馬鹿ねって叱って欲しかった? 甘えないで。彼が初めからそういう人だって分かってたのよね。私は別に香城繭理の肩もつわけじゃないのよ。だってああいう男、虫唾が走るくらい嫌いだもの。でも、そんなヤツに騙されてる人も嫌いなの。人を騙すような男だってわかっていたのなら割り切って遊びなさいよ。いいように遊ばれるなんて馬鹿みたいじゃない。本当に彼が好きっていうならそんな悪い部分すべてひっくるめて好きになればいいでしょう。それができていないってことは、恋に恋してただけってことよ。自分に都合のいい部分だけ信じて、嫌なものは目を背けて、そんなんじゃいつか理想と現実の違いに亀裂ができるもの。嫌なこともちゃんと見なさい、って、そうか、私たち今中学生なのよね……、もっと人生経験つまなきゃわかんないよね。ごめん、熱く語りすぎたわ」
熱く語ってしまってから、ふと気づいた。
そういえば自分は今中学生だったと。
恋愛感情について語るには中学生じゃまだ玲那のような割り切った考えには理解が及ばないだろうと話を切り上げようとした。
「恋に恋してただけ、そうなのかも。皆が憧れる王子様みたいな見た目の人に声かけられて、舞い上がって、相手がどんな性格とか関係なくて……ただ極上の人の傍にいられることに酔ってただけなのかも」
恋に舞い上がっている時はいろいろな状況判断能力が著しく低下する。
お互いしか見えなくなったり、普段では考えられないような行動に移ったり、周りの声が聞こえなくなったりする。
静かに寄り添うような成熟した恋もあるけれど、思春期青春まっただ中な中学生の恋とはエネルギッシュで燃え上がるような、活力で溢れていながらも不安定で未熟な恋が多い。
だから、自分の言葉はきっと彼女には届かないだろうと思っていた。
しかし、意外にも彼女は玲那の言葉を聞き、素直にそれを受け止めてくれたみたいだ。
「あの、如月様の話を聞いて目が覚めました。なんだが視界が切り替わったかのように世界が違って見えるようです! ああ、今までの自分はなんて馬鹿で愚かで間抜けだったの! なんであんな中身がない男に夢中になっていたのかしら! 如月様、いいえ、お姉様と呼ばせてください! 私、お姉様のお言葉もっと聞きたいわ、お姉様の考えを知りたい! お姉様のすべてを知りたい!」
「え」
窓を眺めていました。
偶々呼び出し現場を見てしまいました。
突然現れたチャラ男に蹴りをいれました。
窓から飛び降りました。
取り囲まれていた子に説教しました。
気づけばその子が妹になっていました。
何故?
取り巻きゲットしました