婚約者の心境※
◇聖治視点
最近玲那が僕にかまってくれない。
せっかく同じ学校に通えるようになったのに、昔の方が一緒にいる時間がとれていたと思う。
これもすべては僕が生徒会なんかに入らされたせいだ。
玲那と一緒にいれないなら生徒会副会長の座なんかいらないのに、教師が、親が、親戚が桜坂学園の生徒会に所属できるなんて栄誉なことだと騒ぎ強制的に所属させられることになった。
皆何にもわかってない。
本来、人の上に立つべきは玲那のような人なんだ。
玲那が生徒会会長になっていたら僕は喜んで副会長をやっただろう。いや、玲那が会長なら僕は誰にも副会長の座を譲るわけにはいかない。どんな手を使ってでもその隣にいただろう。
幼少の時、周囲のプレッシャーで押しつぶされそうになっていた。
それをいとも簡単に救ってくれたのが玲那だった。
ただ、言われるがままに目の前に出された課題を片づけていた自分。
他人に押し付けられたものを片づけることは苦痛でしかなく、楽しみなんてなかった。
それなのに、玲那に出会って勉強を楽しむということを知った。
指定された学校の教本。テストの範囲はその本から出るのだから、その本さえ暗記しておけば問題などないはずだった。
「ねえ、聖治。知ってる? ここ、教科書ではこう書いてるけど、見方を変えると反対の意味でもとれるんだよ」
1つの教本を盲信していた僕には信じられない発言だった。
「学校の授業ではここまで細かく教えたりしないけどね」
そういって玲那は授業じゃ教えてくれない様々なことを語った。
「歴史って面白いわよね。真実は一つでも、人の見方でいくつもの説が生まれるの。どれが本当の真実が想像するのって楽しいわ」
笑顔で楽しそうにいくつもの本を読む玲那。
自分で気になったことは何処までも突き詰めて学ぶ玲那。
彼女は小さな気づき、疑問を大事にしていた。
僕は何も考えずただひたすら暗記するのみで彼女のように1つの疑問を足掛かりに全体を学んでいくことをしたことがなかった。
だが、楽しそうに勉強する彼女のように、思考、考察を交え1つの出来事を多角的に捉えるようにした。
すると、一気に視野が広がって、まるで世界が変わったかのように思えた。
勉強し、新しい知識が増えることが楽しくてたまらなくなった。
もっと玲那みたいにいろんな分野を勉強したい。
玲那と同じように、もっと、もっと!
そして玲那の話の内容についていけるまでになった。すると、
「聖治私より成績いいじゃない、もう教えることなんかないわよ」
玲那はそう言う。
確かに、成績はトップになり、家庭教師にも教えることはもうないといわれた。だが、僕には玲那がいなくてはダメなんだ。
だって玲那が話してくれる事にしか興味がわかないのだ。
どんな面白い内容の本を読んだとしても、あまり感情が湧いてこない。
しかし、同じ内容の本を玲那の口から、
「第2章の敵陣に乗り込む主人公の行動。あそこは痺れるのよねぇ。ただ、空気読めない味方の言動に笑っちゃったけれど!」
そういっていた彼女の言動を思い出しながら読み返すと、はじめはなんとも思わなかったシーンがすごく面白く思えた。
もう周囲のプレッシャーなんて感じない。世界を広い目でみると、鬼龍院家の縛りなんてちっぽけに思えてくる。
ただ、玲那の婚約者に選ばれたことに感謝する。
この桜坂学園には僕と似たような境遇のヤツが大勢いる。
昔の僕みたいに家に囚われ狭い世界で生きているような人たち。
たぶん玲那が先頭きってその人達に関わっていったら僕みたいに大半が救われるのだろう。でも、そんなの嫌だ。
玲那は僕のものだ。
他のヤツなんか救われなくたっていい。
僕の傍にいつもいて欲しい。
他の奴なんかに見向きもしてほしくない。
でも、そうも言ってられないようだ。
玲那が最近風紀の奴らと何やらいろいろしているらしい。
婚約者の僕がいながら、風紀委員長の堂本を誘惑したとか。
くだらない噂が立ったので噂の元凶を突き止め厳重注意した。
うん、厳・重・注・意だ。
そのうち噂も沈静化するだろう。
玲那がしたいことは何となく分かる。
この学園の現状を変えたいのだろう。
僕に出来ることなら何でも手伝ってあげたい。
でも、これ以上玲那が僕から離れていくのは我慢できない。
これからも僕と距離ができるようなら……
僕は君にどんなことをするか分からないよ玲那?
婚約者の心境