風紀委員とは、校内の風紀、及び治安を守る委員会である
翌日学園のいたるところで噂が囁かれていた。
如月家の玲那に面と向かってヒソヒソ呟くものはいないが、どこからともなく聞こえてしまうのが噂というもの。
クラスに行くと、クラスメイトの女生徒が近寄ってきて、玲那に直接噂の真偽を聞いてきた。
「如月様、あの、お噂はお耳に為さりましたか? 如月様が風紀委員長の堂本様と、その……」
まさか直接その話題に触れられるとは思っていなかったが、これはいい機会である。
とりあえず不名誉な噂を払拭しておかなければ。
「ええ、まさかこんなことになっているなんて。私、この学園の方の品位を疑ってしまうわ。本当は大きな声で言いたくないし、誰にも話したくなのだけれど」
ここで女優バリの演技力を発揮。
目にはうっすら涙を浮かべ、話したくはない、けれど話さなければと、思いつめた表情をつくる。
「実は私、柄のよろしくない方々に乱暴されそうになって、それを風紀委員長の堂本様に助けていただいたの。堂本様は私の名誉のためにそのことを秘密裏にして下さったのに、心ない方のせいでこんな噂になってしまって私大変残念に思いますわ。このことで如月家だけではなく、婚約者の聖治さんにもご心配をおかけしてしまい本当に申し訳なくって……」
その話を聞いていたクラスメイト達は一斉に同情の念を感じた。
「まあ、そうでしたの。私たち、噂は間違っていると皆さんにお伝えいたしますわ」
「ええ、如月様安心なさってください!」
「如月様、お体は大丈夫なのですか? お怪我はありませんの?」
よし、みんな信じたようだ。ちょろいぜ。
「皆さん、ありがとう」
玲那は会心の笑みを浮かべた。
まったく、噂のおかげで悪女になりかけてしまったわ。
なんだよ籠絡って、風紀を支配って。
あら、でも風紀の支配ってのはあってるのかしら? え、じゃあ私って悪女なの?
そんなことを思いながら玲那は風紀室に来ていた。
風紀室の扉を開くと中で騒いでいた連中が玲那の顔をみて一斉に整列しだした。
「「「「姐さん! お勤めご苦労様です!」」」」
その一糸乱れぬ統率のとれた動きに思わず突っ込みを入れてしまう。
「私はどっかの極妻?」
生前は極妻シリーズが好きで見ていたけど、極妻になりたいとは一回も思ったことはない。強い女性には憧れるが、日常が色事、魂の取り合いとか勘弁して欲しい。
「玲那が堂本家に嫁にくれば極妻になる」
真面目な顔して言ってくる堂本先輩には何と突っ込めばよいのだろうか。
私の左手の薬指を意味深に指で弄り出す堂本先輩。
うん、とりあえず無視しておこう。
「皆、今日は今後の風紀の活動について話たいからとりあえず一回座ってくれる?」
いつまでもそばを離れない堂本先輩を引きはがし、風紀委員の皆に座るよう促す。
すると何故か床に座り始める皆。
何故? 机と椅子があるだろう。そっちに座れや。
しかし、体育座りし目をキラキラさせこちらを向いている彼らに何ともいえずこのまま話すことにした。
え?! 堂本先輩も体育座り! その格好、絶望的に似合わない!!
取り合えず、このまま彼らに話をする。
「そうね、まずは……皆この学園についてどう思うかしら? はい、そこの君!」
髪を金髪に染め、ワックスで緩く遊ばせているヤツに当てる。
「え、俺っすか。別になんとも思わないですが、まあ、学生皆が自由にしてていいんじゃないんですかね」
「学生が自由に、ね。言葉だけ聞けばとても伸び伸びしていていい校風に聞こえるわ。でもこの学園は権力が物を言うだけの狭い世界。力ないものは虐げられ、自由などない、それが現実。一部の生徒だけが自由に、何の枷をはめられることなく傍若無人に振る舞っている。だから学生皆が自由なわけではないわ」
「それはそうなんですけど、それが当たり前っていうか」
「そんなのこの学園だけの当たり前です。社会にでたらそんなの通用しない。いつまでも親が子の尻拭いしてあげるわけじゃない。お金で不祥事をなかったことにできても、人の思いを踏みにじったことは消えない。踏みにじられた人の傷は消えることはないのだから」
「そうっすね……」
皆私の話をちゃんと聞いている。
良かった。彼らが話を聞く耳さえ持たなければどうしようもないのだ。
「私たちはまだ子供だからたくさん間違いを犯してしまう。無茶をやって周りに迷惑をかけることだってたくさんある。でも、間違ったり迷惑をかけたらそれを叱ってくれる人がいて初めて自分の行いを振り返れると思うの。間違いを間違いと気づかないまま成長して大人になっちゃダメ。駄目な大人は取り返しがつかないから。そこで、ここの生徒が間違った大人にならない為にあなた達の力をかして欲しいの」
「えっと、俺たちは何をするんですか」
「皆は風紀委員です! 風紀を乱す人を取り締まる権限をもっている! その役割を果たすだけのこと。 それで、皆は普段はどんな活動してるのかしら?」
私の質問に一人、手をピンと上げて応える。
「気に入らない奴がいたらぶん殴る!」
「天誅!」
アホな事を自身満々に言い放ったヤツに拳骨を食らわせる。
「姐さん、痛いっすよ~」
頭を押さえながら涙目になってるヤツは無視、次!
「他には?」
彼らは拳骨を恐れながらも次々とその活動内容を上げていく。
「校内パトロールという名のもと授業をさぼったりですかね、へへへ」
「俺らの縄張りに入ってきたヤツをボコったりとか?」
「生徒会が出してきた資料にいちゃもんつけたりとかッス」
彼らの話を聞き玲那は何かがプッツンする音を聞いた。
「ふ、ふふふ……何なの貴方達! 風紀委員の仕事全然してないじゃないの!」
叫んだ玲那とは対照に彼らは戸惑っていた。
「でも今までの先輩方も同じ感じだったしなあ」
「そうだよな、他にやることないしなあ」
悪びれる様子もない彼らに呆れながらも玲那は口を開く。
「いい? 風紀委員って言うのはね――――」
そうして玲那は風紀委員について約1時間、彼らに説教を説くのであった。
風紀委員とは、校内の風紀、及び治安を守る委員会である