#04
#04
煮込む
炒めた具材の上にトマト缶を入れる。空になったトマト缶に半分くらい酒かワインを入れ、鍋に加え、切ったフレッシュトマトも入れ、ひたすら煮る。弱火で。
万引きをしたようだ。
私はおこづかいなんか持ってなかったイコール万引き。
当時、クラスの女子の間で流行っていた、ミシン目のついたかわいいメモ帳。持ってないのは私と山本さんくらいだった。
公園のそばにある彼女の家はボロボロのトタンで出来ていた。家の前のみぞにはウジ虫がわいていた。彼女はいつも、うす汚れた格好をして、痩せこけていた。でも、記憶にある彼女の顔は何故か笑顔だ。
「なんで持ってないの?買えばいいのに」
「うん...」
小学校の前にある文房具屋で、友達が私に向かって言う。
「山本さんみたいだね」
そうか。私はメモ帳を持ってないだけで、山本さんと同じなんだな。どういう意味かはわからないけど。山本さんはどうして持ってないんだろう?
帰り道。気がつけば、私の手にはそのメモ帳があった。キラキラの蝶々がいっぱいのメモ帳。友達からもらったのかな?きっとそうだ。私の顔には歪んだ笑みが浮かんでいた。
「あんた、盗んできたの!?」
「返してきなさい!」
「.....」
「おとうさんにバレたら大変だよ!バカ!」
「盗んでない。多分、友達がくれたんだと思う」
「多分?なんでウソつくの!」
「ウソじゃない。...わからない」
ほんとにわからなかった。覚えていなかった。
「万引きなんかしやがって。俺の顔に泥を塗って嬉しいか、この泥棒が!恥さらしが!恩知らずが!」
万引き...?殴られながら、一生懸命思い出そうとしてみたが、記憶は空っぽだった。頭がガンガンして吐き気がした。掴まれてる身体をよじって、急いで階下のトイレに行こうとした。階段を踏み外したのか、飛び込んだのか、追いかけてきた手から逃げたいあまりに。メモ帳を握ったまま、私は下まで落ちた。バイクが私の上に倒れてきた。破れたメモ帳から、キラキラの蝶々が飛んで行ってしまった。
ケガをした私はその夜、ショーケースの上に寝ていた。真っ暗で不気味。ズキズキ痛む身体を冷たいガラスに横たえて。なぜ私はここにいるんだろう。メモ帳なんかいらない。何にもいらない。うちに帰りたい。
ミミズやトカゲのしっぽを切って遊んでた。切っても死なないから。
公園に捨てられた子猫にご飯をあげに行ってた。給食を残してこっそり持って帰って。死んだらかわいそうだから。
死にたくても死ねないミミズやトカゲ。生きたいのに死んでしまう子猫。どっちも生殺し状態。命を交換できたらいいのにね。
母親のお腹ははち切れんばかりになっていた。もうすぐ新しい命が生まれてくる。その命はあの公園に捨てられた子猫のものだったかもしれない。