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ミートソースの作り方(仮)  作者: 鈴木 アイリス
2/6

#02

#02


下ごしらえ


ニンニクは細かく

玉ねぎは荒めにみじん切り。

トマトは賽の目に。


トントントントン


トントントントン


見えるのは母親の丸っこい背中。

トントントントン、と何かを切っている。

トントントントン。

晩ごはんは何かな。おつかいに行って、八百屋さんで玉ねぎと玉子とじゃがいもとキュウリ(おばさんがお菓子くれた)、お肉屋さんでミンチとソーセージ(おじさんがホカホカのコロッケくれた)を買った。早く宿題終わらせて、弟たちを保育園に迎えに行かないと。お風呂屋さんに連れて行かないと。ヤバい。また殴られる。


いや。殴られるのはもう慣れていた。

暴言暴力日常茶飯事。好きにすればいい。我慢すればいいだけのこと。何もなくても殴られる。目付きが悪いとか、顔を見たくないとか。


「お父さんに謝りなさい」

何にも悪いことしてないよ、と母親に目で訴えたところで意味がないのはわかっている。こんな時は人形になってしまえばいいのだ。頭の中で楽しい妄想の世界にひたる。そうすれば何にも感じない。痛くない、悲しくない、辛くなんかない。


人形の口は勝手に動いてくれる。

「ごめんなさい」

「謝り方が悪い」

「ごめんなさい」

「ごめんなさい」

「ごめんなさい」

何に対して謝っているのかわからないまま、ただ、ごめんなさいを繰り返すだけ。

気がすむまで殴り続けたら、そのうち、どこかに行けと言われるんだ。

「俺の視界に入らない所へ行け」

ほらね。いつものようにアパートに帰ろう。

「夜は暗室で寝ろ」

今夜は臭い暗室でどぶねずみにビビりながら寝るのか。ガラスのショーケースの上よりはマシか。


夜中に母親が様子を見に来る。手にはおにぎり二つ。また晩ごはん食べさせてもらえなかった。

暗室から出て、黙って冷たいおにぎりをかじる。


「あんたが悪いのよ」

ヒステリックに母親が言う。

「あんたが悪い」

私が悪いのか。存在してることが悪いんだろう。私の頭の中で声がする。産んでくれと頼んだ覚えはない。


バシッバシッバシッ


言葉になってしまったのかもしれない。

唇が切れて血が流れる。


「あんたの前にできた子はおろした。二回目だから産んだのよ」


は?えげつないことを。それ、言ってはいけないヤツだって、わからないのかな、この人は。


手ににぎったまんまのおにぎりをかじる。涙と血の味がした。


母親が帰ったらあいつが来る。

いつものように。


涙と血の味がする冷たいおにぎりは、襲ってくる吐き気とともにトイレに流そう。


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