第7話~約束
少し傾きかけた陽を背に受けながら、俺たちは町中を肩を並べ歩く。
といっても、ほのかが俺の後ろを付き従う形だが。
昔から足が遅く、数歩歩いては数歩待つ。でないとずっと一人で先に行ってしまい、置き去りを食わせる形になるからだった。
「ほのかと一緒に帰るのって、久しぶりだよな」
「うん……そうだね」
「昔は、結構一緒にいたのにな」
俺は遠い過去を思い出した。
家がお隣なだけあって、小さい頃は何をするにも一緒だった。一軒家が連立しているので、人は多く住んでいる地域だが、人見知りのほのかには俺しか友達はいなかった。
標が俺の家に来ることになって、三人で遊ぶようになってからは、二人で過ごす時間も減った。小学・中学に上がるようになってからは、たまに登下校中に挨拶する程度の関係になっていた。
「で、でもね、すーくん」
ほのかが急に切り出す。
「あたし、感謝してるんだ」
「感謝?」
「うん。小さい頃から泣き虫だったあたしのそばにいてくれて……」
「んなの、感謝されることじゃないだろ」
「いいのっ。あたしがしたいんだから」
「そうかな」
「うん……そうだよ」
そんな話をしながら帰路へと着く。
真夏の陽は、日中よりはうっすらと和らぎ、心地よい風が全身をくすぐるように吹きかけてくる。学校から家まで歩いて三十分程度だが、我が家に着く頃にはもっと短く感じられた。
「あ、あの……すーくん」
すぐ後ろを歩いてきたほのかに声をかけられる。振り返ると、今にも泣き出しそうな顔で俺を見上げていた。ほのかはいつだって、誰に対してもそわそわと落ち着きなく言う。元々引っ込み思案ということもあるだろうし、幼い頃近所の子供から苛められていたのも原因の一つだろう。その時のほのかはいつも泣いてばかりだったのを覚えている。
「すーくん、あたしね……」
ほのかはただ俺をじっと見つめながら同じ言葉を繰り返した。
「どうしたんだ? 何かあったか?」
「む、昔した約束って、覚えてる……?」
やっと喉から搾り出したようなか細い声で、ほのかが言う。約束……何の約束だ? 意味のあるものから意味のないものまで、思い出せばきりがない。
「ごめん、何だっけ?」
「あたしと……」
おどおどと、そっと俺の前に立つ。息がかかるぐらいまで近づき、互いのことしか視界に入らなくなる。まさか、これって。
俺は思わず言いかけた。
「ほのか――」
言い終わらないうちに、ほのかがパッと離れる。
「じゃ、じゃあねっ。今日はありがとう」
そう言って隣の自分の家へと慌てて駆け込んでいった。
後ろ姿が、何だかとても寂しそうに見えた。
一瞬だけ、昔の俺たちに戻ったような……。
俺には、何だかそう見えた。
今回本当に短いです。というか、1話何ページなら丁度いいとかってありますかね? もっと長い方が読みやすいよーっと言う方は感想ください!