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第6話~友達

「え、今何て?」俺は哀華に向かって言った。

 他に誰もいない屋上の真ん中で、彼女はゆっくりと口を開いた。

「私じゃ、嫌?」

「いや、そういうわけじゃないけど。てか、何で俺なの?」

 俺は髪を軽くかき上げ、なるべく平静を装いながら聞いた。

 哀華は真っ直ぐ俺を見据えている。何故か俺にはその小さな体が、消えてしまいそうなほど不安定に見えた。この感じ、やっぱりどこかで見た気がする。こういうのって何だ。ド忘れ? それともデジャブか。


 哀華は僅かな距離を保ちつつ俺に視線を注いでいる。静寂があたりを包み、実にいたたまれない気持ちになっていた。断ったらどうなるんだ? まさか刺されたりなんてしないよな?

「お願い、進」

 哀華は言った。

「あなたしか、いないの」

「お、おう……でもよ」

「お願い」


 哀華は確認するように言葉を告げた。どうやら勘違いではなく本当に告白されていたらしい。だが、だからといってそうすぐ受け入れられる話ではなかった。


「どうして俺なんだ? 今日会ったばかりだよな?」

「あなたが、新道進だから」

「い、いや、そりゃそうだけど、だからってさあ」

「だから、それだけでいいの」

「そんなん無茶苦茶じゃねえかよ……」

 どうしたらいいもんかな、この人。


「私はずっと前からあなたを見ていたの。だからあなたのいる高校に転校してきた。それとも好きって気持ち以外に何か理由が必要?」

「違う、違う。そうじゃない」

 俺は首を横に振りながら言った。

「別にそういう理由もなくはないと思うよ。俺も嬉しくないわけじゃない。でも、急に言われて『はい、そうですか』とはならないだろ」

「なら、どうすればいい? どうすれば、私を受け入れてくれる?」

「い、いや、そんなこと言われても……もっとお互いに話をしたり、とにかくお互いのことを知らないことには駄目だろ」

「知りたい? 私のこと」

「ま、まあな」

「じゃあ教えてあげる……少しづつね」

 哀華はふと笑みを浮かべた。少しだけ、泣いてるようにも見える。

 

「哀華……」

 一瞬脳裏を横切る、悲しみに歪んだ表情。

「お前、やっぱりどこかで会ったことないか? どうしても思い出せないんだ。しかも、なんかすげえ悲しいことがあったような気がするんだ」

「合ってるわ。それで」

「合ってんのかよ」

 嫌な予感はしてたが、やっぱそうか。俺はため息をついた。

「いつだ? いつからそんなことに」

「そんなに昔じゃない。思い出せば、すぐかもよ」


 遊ばれてるような、じらされてるような、どちらにしろあまり面白くない。大体、小学、中学校の頃は標にほぼ一日中まとわりつかれ、こんな美少女の相手している余裕なんてなかったはずだ。いや、決して俺自体がモテないとかそんなんじゃないからな。本当だからな。


「……俺はお前が思ってるようないい奴じゃないよ。付き合ったって損するだけさ。どうせ幻滅するくらいなら、もっと良い相手を探した方がいいぞ」 

 少し切ないが、俺はキッパリと言った。

 が、哀華は俺の前に立ったまま動かない。

「だ、だから……な?」

 逃げたしくなるような視線に耐えかね、俺は逃げ腰に告げた。

「付き合えねえよ。悪い」

 哀華の顔から表情が消え、凍えるような眼で見つめてくる。や、やべえ。殺られる。こりゃ完璧にイッちゃってる人の目だよ。

 

 入り口は哀華の後ろにある。俺の後ろはすぐフェンスだ。位置取りを間違えたか。このまま突き落とされ……いや、何考えてんだ。こんな小柄な女にビビッってんなよ!

 心の中で葛藤と戦っていると、哀華の体がフッと消えた。

 ――チュ。

 見ると哀華の顔がすぐ近くにあって、唇にやわらかい感触がした。

 なんだか良い匂いが、風に乗って鼻をくすぐった。

 次の瞬間には、パッと唇を離していた。そして俺をじっと見つめ、

「今すぐとは言わない。でも、考えておいて」

 その時、俺は何という感情を抱いていたんだろうか。


「こ、ここここ」

 ニワトリかよ、と突っ込みたくなるが、そんな余裕はなかった。

「こんなことして、どうすんだよ」

 哀華は微動だにしない。ただ真っ直ぐ俺を見つめいてる。

「困るって、俺、そういうの」

 自分でもはっきり分かるくらい慌てながら、何とか言葉を紡ぐ。

 

 哀華は俺を見つめ続けている。うんと言わない限り、ずっと居座る気かもしれない。刺されるよりはずっとマシだが、嫌なことには変わりなかった。


「わーった、わーったよ。考えとくから、睨むのやめてくれ」

 俺は頭を書きながら言った。

「とにかく、まずは友達としてやっていこうぜ。そんで気が合えば付き合えばいいし、じゃなけりゃそのままでいいし。それでいいだろ?」

「いつになったら答えは出る?」

 いつって……分かんねえけど、そんなに時間はかけないからさ」

「じゃあ、可能性がないわけじゃないのね?」

「ああ」

「そう……なら、待ってるから」

 哀華はやっと表情を緩めた。

「いつまででも、待ってるから。私……」

「ああ。出来るだけ早く答えだすよ」

「ええ。また明日会いましょう」

 一礼して哀華は扉を開け屋上から去っていった。後姿が見えなくなったのを確認してから俺は深く息をついた。生まれて初めての告白。それもあんな美少女に。情けないことに手汗はたっぷりかいていた。

 

「なんだったんだよ、一体……」

 その瞬間、後ろの扉がガラッと開けられた。

「うお!」

 驚いて不覚にも叫んでしまった。

「……すーくん?」

 哀華が戻ってきたのかと思ったが、そこに立っていたのは、見慣れた顔だった。

「ほ、ほのかか。驚かせんなよ」

「ご、ごめんね。たまたますーくんが屋上にいるの、グラウンドから見えたから」

 ほのかはオドオドしながらも俺の前まで来た。

「柊さんと、何の話してたの?」

「あん? 別になんでもねーよ? ちょっと相談受けててさ」

「相談って何? ……すーくんじゃないと駄目なの?」

「い、いや、そうじゃねーけど。ほら、席も隣だし、何となく、みたいな?」

 なんで告白されたことを言わないで嘘をつく? 俺は自身に問いかけたが、答えは見つからなかった。

「ていうか、ほのかこそどうしたんだ? わざわざ屋上まで」

「あああああのね、違うの。別にすーくんのことが気になったわけじゃなくて……あれ、私何言ってるんだろ。今何て言ってた?」

 

「いや、とりあえず落ち着け。別に大したことじゃなかったから」

 とはいうが、俺自身告白を受けた時から、心臓がバクバクしていたことを考えると、何の格好もついていない。

「う、うん……そうだね。じゃあ、一緒に帰ろ?」

「ああ、そうだな」

 二人で屋上を去り、学校を後にした。

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