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第3話~転校生

 学校に着き自分の席に座ると、見知った顔が挨拶してきた。

「おはよー進。今日も朝から三人仲良く登校かい?」

「んだよ、別にいいだろうが」

 机に肘を乗せ、窓を見ながら答える。

 こいつは灯火照明(ともしび てるあき)

 いつも訳の分からん事を言ってくる変わった奴だ。

 

「あれー? どうしたの進ー?」

 あえてそっぽを向けてるのに下から顔を覗きこんでくる。

「あっちいけ。しっし」

 そう言って手で払おうとするが、生憎こいつは蝿より厄介だ。


「ひどいねー、親友に向かってその態度。涙が滝のように出てくるよ」

 ハンカチを取り出して噛むフリをしている。いつの世代だよ。

「お前がそんなタマかっての」

「あっはっは。言うね進。器もタマタマも大きくなったじゃないか」


 さり気なく下ネタを挟んでくる。ウザいことこの上なしだ。

「はあ……」

 俺はため息をつき、また窓の外に視線を移した。

 重なった積乱雲が巨大な雪だるまのように浮いている。


「俺も空へ飛んでいきてえなあ……」

 目を細めしみじみ言う。それを聞くと照明は俺の肩をがしっとつかんだ。

「わが友よ。さあ行こう!」真剣な表情で照明が言う。

「あ? どこにだよ」


 ついに暑さで頭がイカれてしまったのか。

 そう思っていると照明は窓を開け両手を広げ叫んだ。

「さあ、常識という名の重石を捨て、いざ伝説の地へと羽ばたかん!」


「…………」


 クラスメートから突き刺さってくる俺らへの視線が痛い。

 当の照明は拍手喝采を受けたスターの如く余韻に浸っている。

 いや、きまってない。なんにもきまってない。むしろキマってるけど。


「どうだい? 僕の自由への咆哮は。見惚れて声も出なかったかい?」

「……るっせ。一人で勝手に飛んでいけ」びっと窓を指差して言う。

 はあ……何で俺の周りはこんな奴らばかりなんだ? 

 あきれながら目の前のアホを見る。


 切れ長の二重にすっと通った鼻筋の整った容貌は、黙っていればイケメンなのだが、頭のネジが全部ふっ飛んでいるかのような言動もあって、女子からの人気は皆無だ。


 聞くところによるとどこぞの御曹司らしいが、お坊ちゃまどころかただの変態にしか見えない。

 そして悲しいことに俺はこいつの親友とクラスメイトからは思われているらしい。


 遺憾だ……まっこと遺憾だ……。


「そういえば聞いたかい進? 今日転校生がくるらしいよ」

 ふと思い出したように照明が突然話題を変える。

「転校生? この時期にか?」

「うん。どうやら家庭のゴタゴタらしいね。その筋の情報だとかなりの美少女らしいよ。どうだい、なにやらミステリアスな感じがしないか?」


 照明は顎に手を乗せ『考える人』みたいなポーズをとっている。

 俺はそれを横目に見ながら答えた。


「別に。ていうか何でそんな情報知ってるんだよ」

「ソースは進にも明かせないなあ。でも信用できる所からの話だよ」

 チッチと照明が舌を鳴らす。


 たく、キメすぎなんだよこいつは。

 にしても転校生、それにしても美少女か……。

 俺は抜群のプロポーションの美女を想像をし妄想に浸った。


「ぐへへ……」

「兄さん♪ 何鼻の下伸ばしてデレデレしてらっしゃるんでしょうか?」

「うわあ!」


 いきなり耳元で声をかけられ、驚いてイスから転げ落ちる。

「標ちゃんおはよう。いつも可愛いね」

「おはようございます灯火さん。相変わらずご冗談がお上手で」

 爽やかに挨拶する照明に、標がオーラの漂う笑みを返す。


 標は基本的にクラスメイトには猫を被っているので、学園のアイドルとして君臨しているが、照明はその本性を知ってる数少ない一人だ。

 ちなみにあと一人はほのかね。

 

「転校生……ですか……」

 機嫌悪そうに標が眉をひそめる。

 俺に近づく女を全て敵視する標にとっては地雷のような話だからな。

「そう、しかもとびきりの美少女らしいよ。標ちゃんピンチなんじゃない?」

 照明が挑発するように笑って言う。標もニッコリと返す。


「なにがピンチなんでしょうか。兄さんのことなら心配ありませんよ。入り込む隙がないくらい毎日ラブラブですから♪ 照明さんこそご自分のおバカさ加減を気にした方がよろしいですよ☆」


 優雅な微笑に似合わない毒舌を繰り出す標。照明も負けじと言い返す。

「そうなんだよ。僕はふと最近自分の完璧さ加減が怖くなってねえ」

「誰がそんなこと言いました? ふふ、耳までお悪くなられたのですか?」

「はは、天才の言うことは凡人には受け入れがたいものだからね」

「受け入れたくもないですけどね☆」


「お、おい標」

 少し言いすぎだ、と言おうとしたが、標に途中で遮られた。

「兄さんには後でゆっくり話を聞くから、少し黙ってらして?」

「そうだよ進。君は口を出さないでいたまえ」

「……はい」


 お互い笑ってはいるが、二人の後ろにメラメラと炎が見えた……気がした。

 なんだかんだでこいつら仲良しなんじゃないか……?

 

「おーいお前ら席につけー」 

 そうこうしていると担任の工藤が教卓に着き、俺らは慌てて自分の席に座る。

 すると工藤の続いてもう一人扉を開け教室の中に入ってきた。

 

 ガヤガヤとクラス中の皆がざわつく。それぐらいその娘は美少女だった。

小学生と言ってもおかしくないほど身長は小柄で、腰まで降りた艶やかな髪の毛に綺麗な顔立ちは精巧な日本人形を思い出させる。

 ……ん?


「…………」

 その転校生はガラス玉のような目で俺の姿をじっと見つめていた。

 なんだ? どこかで会ったような気がするが気のせいか。

 あれこれ記憶を巡っている内に工藤が転校生に挨拶をするように促す。



「今日は転校生を紹介しよう。さあ、自己紹介して」

 そいつは感情のなさそうな声でゆっくりと頭を下げた。

柊哀華(ひいらぎ あいか)……よろしく……」

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