第21話~監禁①
十五メートルぐらいの高さの建物――その工場は十年ほど前に使われなくなり、今や立ち入る人間もいなくなった土地だ、と親父に聞いたことがある。
幼心に戦隊ものの基地に憧れたりしていたので、標とよくままごとじみた遊びをしたものだ。水や電気が通っていない為昼でも真っ暗なのだが、兵どもが夢のあと、といった歴史的な渋さが好きで、何度も何度も足茂く通っていた。
その思い出の建物に、今日は遊びで来ているわけではない。標とこの場所で落ち合うよう言われ、すぐ向かうとメールを返し、その足で過ぎし日の記憶を頼りにここまで来たのだ。
時刻は十一時を回っていた。
その廃工場は、周りのビル群と比べても堂々たる大きさだった。見ようによっては悪の秘密結社の基地に見えなくもない。
中に入ると、意外にも整理されてあった。
といっても明かりはないが。
「標! いるのか!?」
俺は大声で叫んだ。
空しく、周囲のくすんだ壁に反響した。
コツ、コツ、ローファーを履いた靴音が聞こえた。俺は緊張しながらも、足音がしたほうを向いた。
待ち人発見だ。
「ようやく会えたな、標」
「兄さん」
嬉しそうに標が口を開いた。
「やっぱり、来てくださったんですね」
「そりゃあな」
「私たちやっぱり、結ばれる運命なんですよ」
「……それは」
「どうして言いよどむんですか?」
「俺……足りない頭を使って考えてみたけど、結局いつも堂々巡りなんだ。そりゃそうだよな。誰も傷つけないように、自分も幸せになりたいなんて無いものねだりもいいとこだ」
「そんなことないですよ」
標は嫣然と笑った。妖艶といってもいいほどだった。
俺はじりじりと後ずさる。周りには民家もない。人気もない。何をされても見つからなければ問題はないということだ。
「どうしたんですか、兄さん……?」
嫌な予感がする。標がこういう表情をするときは決まってよくないことが起きる。携帯をかけて照明に援軍を頼んだほうがいいのか。
「!?」
そのとき、携帯から着信音が工場内に鳴り響いた。
慌てて取り出し通話ボタンを押そうとした。
「させませんよ♪」
瞬く間のことだった。
標の手刀が俺の首筋を打ったのは。
その後の意識はまったくない。
だが倒れ落ちるときにこんな言葉が聞こえたような気がする。
「兄さん、もう離さない……これで、二人きりですよ」




