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第20話~呼び出し

 洋服屋を出た途端、俺は肩を落としため息をついた。

 標がよく買い物をする店なので聞き込みをしてみたが、店員は見てないという。期待をしたわけでもないが、それでも落胆をしてしまう。


 昨日、標の様子は尋常ではなかった。そして今日学校に来てないとすると、何か早まったことをしようとしてるんじゃないか。今俺にできることは、標の安否を気遣うことだけだった。

 宛てもないのにしばらく街を歩き続けた。道行く人の歩度がやけに遅く感じるのは、焦燥しているからだ。早く標の顔を見て安心したい。その為ならどんな労力も惜しまないつもりだった。


 だから携帯の着信音が鳴ったとき、心臓が止まるほど驚いた。

 ディスプレイを確認すると、相手は非通知だ。

 まさか――?

 俺は上ずった声で電話に出た。


「もしもし! 標! 標か!?」

 

 ――やっほー。進かい? 世紀の天才頭脳派高校生、灯火照明だよっ。あっはっは。そんなに僕からの電話が嬉しかったのかい? いやあ照れるねえ。


「…………」


 言葉が出なかった。


 ――どうしたんだい? 絶句するほど僕の声が聞きたかったのかな?


 照明はからかうような口調を続けた。この件が終わったら簀巻きにして東京湾に投げ捨て、海の藻屑にしてやろうと、本気で考える。もはや口を利くのも面倒だが俺はとりあえず「それで」と言った。


「何の用だ。俺は今忙しいんだが」


 ――わかってるよ。しかし君もピュアだねえ。まさか彼女の為にあんな派手にボイコットするとは思わなかったよ。流石は僕の見込んだ男だ。


「ち、ちげーよ。標のやつが心配かけやがるからだな……」


 ――おやあ? 僕は妹君のこととは一言も言ってないんだけどねえ。


 くっくっとくぐもったような声で照明は笑う。なんだこいつ、まさかこんな下らないことで電話してきたのか。簀巻きからドラム缶に変えて、コンクリート詰めして鉄アレイ百個追加して沈めてやろうか。


「そんなことの為にわざわざ電話してきたんなら、切るぞ」


 照明は愉快そうに言った。


 ――いや、用はないことはない。妹君捜索大作戦に、協力してあげようと思ってね。


 照明の口調が変わった。


「本当か? でもお前学校は……」


 ――気にしなくていいよ。僕らは親友じゃないか。


 くだけた調子だが、実直な誠意は伝わってきた。


「照明……お前ってやつは」


 好感度アップ、てやつだ。


 ――ところで今どこにいる?


「今は……」


 俺は現在位置を告げた。

 正直、この申し出は嬉しかった。味方になってくれる人間は少しでも多いほうがいい。この広い街で人を見つけ出すなんて、我ながら無謀だ。


――そうか。じゃあこれから散策に繰り出すとするよ。君は君でそっちでがんばってくれ。


「すまない……、いや」


 ここは謝るところじゃない。


 ――ん?


「ありがとうな、照明」


 短く俺は礼を言った。そうだ、俺たちの関係は難しいものじゃない。

 簡単なものでいい。


 ――ああ。何かあったらすぐ連絡するよ。


 一瞬、照明の声がくすぐったそうに聞こえた気がする。


「頼む」


 電話を切った直後だった。新着メールを受信したのは。

 俺は食い入るように画面を確認した。

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