第12話~親友
「あそこの喫茶店でいいかい? 進」
「別にいいぞ」
「じゃあ、あっちの方にしよう」
俺が頷くと、何故か照明は反対側の通りに歩き出した。
俺も後に続いて店内に入る。
そこは内装は木製を基調としていて、落ち着いた雰囲気の店だった。
端にある丸テーブルに、照明と向かい合って腰を下ろす。何もない平日の午後なだけあって、店内はガラ空きとまでは行かないがそこそこ空いていた。
「なかなか良い雰囲気じゃないか」
照明が嬉しそうに言った。
「ごみごみしてなくて。僕はこういう店、好きだな」
「……俺はもっと賑やかなとこがいいけどな」
「人と交流するのが煩わしい時は、こういう場所にきたくなるのさ」
「お前にもそんな時があるのか」
「ま、たまには一人になりたい時もあるってことだよ」
そこでウエイトレスがやってきた。俺はアイスコーヒーを注文した。
「お前は?」
「僕も同じでいいよ。あとパンナコッタ」
「お前甘いもん好きだっけ?」
ウエイトレスが去った後何気なく聞いてみた。
「こういう店に来たら必ず頼むよ」
「そうなのか。まあ、今まで一緒に来たことなかったしな」
それから少しして、それぞれの前に品が運ばれてきた。
俺の前にはアイスコーヒー。照明の前には、
「へーえ。うまそうじゃん」
いちごソースのたっぷりかかったパンナコッタだった。この店の名物らしい。
「聞いた話なんだがね」
スプーンでパンナコッタをすくいながら、照明は言った。
「四ヵ月前、このあたりの学校で女子高生が一人、自殺したそうだよ」
「すぐ近くか」
「ああ」
「そう、か」
俺はコーヒーに口をつけた。
「どうしてそんな話をするんだ?」
俺は照明のことをよく知っているわけではないが、意味のないことは決してしない奴だって分かっていた。
照明はパンナコッタをいちごソースと共に口に運んだ。
「――うん、甘すぎず、良い味付けだ」
……こうしてると、普通の好青年なんだけどな。
「いかんせん、頭が残念すぎるんだよな」
「ん? 何の話だい?」
「いや、何でも」
答えながらコーヒーを飲む。
「で? その自殺した生徒ってのは?」
「僕も詳しいことは知らないんだけどね」
「んだよ。俺に関係ある話なんじゃないのか?」
「あるかもしれないし、ないかもしれない」
パンナコッタを食べ終えて、照明はお絞りで口元を拭いた。そして、
「自殺した生徒っていうのはね。柊哀華の容姿に似てるそうなんだ」
「何だって? それ確かか?」
俺はテーブルから身を乗り出して聞いた。
「話ではそのようだね。他人の空似。身内。あるいは――」
「哀華……本人……」
「それなんだけどねえ」
照明は頭をかいて苦笑した。
「そんなことあるわけないし、詳しい情報も何も分かってないからねえ」
「そうか……そうだよな」
哀華の顔を思い出す。少し無表情だが、きちんと会話はできる。
まあ、初めは無視されたけど。
「僕はその生徒が通っていた学校を調べてみようと思うよ」
「なんでそこまでするんだ?」
「勘さ。そうした方がいいっていうね」
「そんなことで……」
俺はあきれながら言った。
「それが、哀華と関係あるって思ってるのか?」
あまり期待せず聞いてみたが、照明は思いもかけず真剣な顔で、
「死人の匂いがするんだよ……柊からはね」
「お前らしくもない考え方だな」
「ふふっ。そうかもね」
「まあ、大変だろうけど無理すんなよ。親友に何かあったら居心地が悪いからな」
そこで急に照明は黙り込んだ。俺、何かまずいことを言ったか?
「どうした? 照明」
「……僕が昨日言ったこと、覚えてるかい?」
「昨日?」
「柊はやめておけって」
「ああ、それな」
「その時君は、『自分のことは自分で何とかする』そう言ったね」
「おう」
「僕は大企業の跡取りとして生まれてねえ。中学三年の時まで荒れていたんだ。親からは過度な期待をかけられ、学校の先生は僕の親に頭が上がらない奴らばかりだった。誰も僕を『灯火照明』個人として扱ってくれない。自分がどういう人間なのかが、分からなかった。高校にあがっても、そうなると思ってたよ。だけど」
いつも饒舌な照明が言葉に詰まったようだった。しかし、それも少しのことで、
「今の僕があるのは君たち兄妹のおかげだ。普通に僕を僕としてみてくれる。何も気にせず話ができる。そのうち、体裁や人の目を気にして悩んでた自分が馬鹿らしく思えてきたんだ。本当に感謝してる。だから、とりあえず守らなきゃね……親友ってやつを」
そう言って、照明はグラスのコーヒーを飲み干した。
「そういうことだから、僕は僕で、勝手に調べさせてもらうよ」
「あ、ああ……悪いな」
「なんだい、柄にもなく殊勝な態度じゃないか」
「それは……ああ、いいや何でも。とりあえず頼んだぞ。照明」
俺がそう言うと、照明はフッと笑った。
「ああ、任せておけよ。親友」




