瑠依子 Vol.1
スワンナプーム国際空港は世界一の広さを誇る。日本からは約5時間のフライトで到着する。
蒼太が出迎えてくれるはずなのだが・・。
30分待って来なければ、タクシーでホテルに向かうことにしよう。
15分くらい経って、蒼太の姿を発見した。背の高いモデルのような白人女性と何やら言い争っているようだ。
私は心の中で溜息をつきながら、近づいて行った。
その白人女性は、いきなり蒼太の左頬にビンタをくらわし、私の目の前を風のように去って行った。
大勢の人がいる空港だ。周りは何だ?何だ?と好奇の目を向ける。
私は、腕組みをして声をかけた。
「蒼太」
「瑠依子!いたのか・・。もしかして、ずっと見てた?」
殴られて唖然とした顔が一瞬笑顔になり、すぐに苦痛に歪んだ。
「見てたわよ。あなた、一体何やってるの?」
「いてぇ~!」
みるみる赤く腫れあがる左頬を手で押さえた。
チャオプラヤ川沿いにはいくつかの高級ホテルが建ち並んでいる。
シャングリラホテルもその一つ。5つ星のホテルだ。
ハワイで泊まったホテルよりも2段階はランクが上だ。
チェックインをすませ、川沿いのアウトサイドのレストランで食事することにした。
ボーイに頼んで、氷とタオルを用意してもらい、蒼太に手渡す。
「サンキュ」
見事なまでに指の形そのまんまに赤く腫れあがっている左頬に、ビニール袋に入れた氷をタオルに巻きつけてあてる。
「さっきの人は彼女?」
「いや、違うね。空港まで追いかけてくるなんて驚きさ。」
「何話してたの?」
「私と寄生虫とどっちが大事なの?って聞かれたわけさ。だから”寄生虫”って答えた。」
吹き出してしまった。しばらく笑いが止まらなかった。
いかにも蒼太らしい。
「笑い事じゃないんだけどなぁ。」
「自業自得よ。」
蒼太はチェラーローンコーン大学で寄生虫の研究をしている。
きっと脳みそまで寄生虫なのだろう。
この男は、今まで何人の女性を怒らせてきたのだろう。
さっきの怒った白人女性を思い出す。