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1 遭遇

「……うーん、何で誰もパーティ組んでくれないんだろ?」

 アストラス・ヴァクストゥーム、通称アスターはギルドの片隅で酒を手にして悩んでいた。

 アスターがギルドに登録してから一年がたち、彼は十六歳になっていた。ほぼ毎日のようにソロでクエストを受け、レベルを上げる生活をしている。今、アスターのレベルは29になり、ギルドランクは2になった。

 アスターは、自分が『ソロ』の戦士ということに悩んでいた。

「あぁ、もう。剣士のおじさんからはばっさり切って捨てられたし、白魔道士のお姉さんからは引きつった笑顔で断られるし、黒魔道士のお兄さんは無言で立ち去るし。……どうしよう、さすがに戦士のソロは辛いって。俺は魔法なんてからっきしだし、毎回毎回、回復薬なんて買ってたら経済的にも問題だし……。まずい、これはまずいぞ、アストラス。何とかして、せめて白魔法の使える人とパーティを組まねば!」

「おー、アスター、てめぇまだソロで活動してるのかよ」

 すぐ隣からアスターを小馬鹿にした声が届き、勢いよく反論した。

「うるせー! すぐに最低でも一人とパーティ組んでやるさ! 酔っ払いは酔っ払い同士で駄弁ってろ!」

「最低一人かよ!」

 アスターに声をかけた男と組んでいる面々も笑い出す。うぎぎぎと、歯を食いしばってアスターは耐えた。

「ところでさ、アスター。お前、何で自分とパーティ組んでくれる奴いないのか分かるか?」

 一人の男に指摘され、アスターは首をかしげて口を開いた。

「……俺のランクが低いからか?」

「違う。……それがわかんないのなら、お前は当分ソロだろうな」

 残念、と赤くなった顔で楽しげに笑う男に一度悪態を吐く。

 その瞬間だった。

 ギルドの扉が開き、その付近に居る人々がその人物を目にし、口を閉ざした。それは波のように少しずつ広がっていき、アスターが座るテーブルまであっという間にやってきた。

 周りの空気に影響されアスターの口も自然と閉じる。原因となった人物を見れば、その人はすでにカウンターの前に移動しており、拠点ギルド移動の登録を行っているようだった。拠点を移す時はギルドカウンター脇に置かれている魔水晶に、自分の登録証をかざせばそれで登録手続きは終了する。

 フードを目深に被っているため、顔は見えなかったが、体格からすると女性のようだった。左手に嵌めた指輪を魔水晶にかざしているところを見ると、その女性は登録証をペンダントから指輪に変えているらしい。重要なのは魔水晶の欠片であるため、ペンダントという形状に特に意味はないらしい。

 女性は移動手続きを終わらせると、カウンターで二言三言ほど受付嬢と言葉を交わし、あいている席を見つけて座った。

「……今の何なんだ?」

「わかんなかったのか?」

 一番初めにアスターに絡んだ男が酒を一気に飲み干してから、答えを口にした。

「あの女は魔族だぞ」

「……え、まじで!?」

 一瞬の沈黙の後、驚きながら隣のテーブルに座る男に振り返った。

「おう。さっき一瞬ちらっと見たが、俺達人族じゃあ、まずあり得ない真っ赤な目してたぞ。お前、魔族を見るのは初めてか?」

「……ああ。俺、ここから西に三日くらい歩いたとこにある村の出身なんだよ。で、その村とこの町、ここのクエスト圏内の狩場しかまだ行った事無いんだよ」

 この大陸はヴァストーク大陸と呼ばれており、アスターら多くの人族が暮らしている。

 そのヴァストーク大陸の西に存在する大陸がある。そこでは魔族と呼ばれる、姿かたちは人族の人々となんら変わりは無い人間が暮らしているが、決定的な違いが存在している。

 彼の大陸はザーバトと呼ばれており、その地に住む魔族の民は皆魔力量が人族と比べて多いのだ。

 人族にも魔力は存在しているが、魔族と比べてみればその差は歴然としている。故に、ザーバト大陸では魔法がヴァストーク大陸よりも盛んである。そして、魔族は寿命も人族と比べて圧倒的に長い。

 一般的な魔族でも百五十年から二百年は生きる。だが、魔力の量によってはさらに長く生きる者も存在する。中でも代表的なのは魔王だ。

 魔王は魔力量が圧倒的に多いものが高確率で襲名する。魔王にとって三百年以上生きているのは軽く当たり前というほどだ。

 なお、人族と魔族の仲は大陸が分かれているのも手伝っており、致命的に悪い。

 魔族は人族を見下している者が大半で、人族はその魔力量から同じ人間とは到底思えないという人々が多い。故に、ヴァストーク大陸に魔族の人間は居づらいのだ。逆も然り。

「あれは魔道士だろうな。剣は一応持っているらしいが、軽装過ぎる」

 距離も人もあって、アスターはその装備を確認することは出来なかったが、魔族ならば当然の選択だろう。それに、先ほど男が言っていた通り、目が赤いのならば魔力の量も相当なもののはずだ。

「……俺、今日は寝る」

「そうか。じゃあな。さっさとパーティメンバー見つけろよ? 俺は断るが」

「誰も期待してねーよ!」

 男のパーティに笑われながアスターはこの日一日の疲れを取るべく、ギルドを出た。

 その翌朝のことだった。

 アスターは心を奪われる、という現象を実際に体験した。

 真っ赤な、紅蓮の目と真っ正面から目が合った瞬間、引き込まれる、そう感じた。

 直ぐにその視線はアスターを気にもせずに外されたが、彼は慌てて赤目の女性に声をかけた。

「なあ、魔族のお姉さん! ……俺とパーティ組んでくんない!?」

 まだ人の少ないギルド内が更に静まりかえった。


 いつも通りに朝早くにギルドにやってきたアスターは、直ぐ様クエストボードの前に直行した。朝一番な為、ギルド内にはアスターの他に、数人の冒険者とギルド職員しか見られなかった。

 アスター以外の冒険者達は大半がパーティを組んでいる人々で、中にはソロの冒険者もいるが、そういった人間は何度かパーティを組んだ結果、自らソロで活動することを選んだベテラン達だ。

 アスターは一度組むと周りから断られるというパターンであり、彼本人はパーティを組みたいと必死になっているが、いつも断られてばかりである。

 ソロで戦士をやっていると、回復薬は必須だ。だがその回復薬代も馬鹿には出来ない。アスターとしてはなるべく回復薬代を押さえ、武器などを新調したいと考えているが、なかなかそうは上手くいかないでいる。故に、アスターが必死に探すせめてもの一人が回復魔法を使える人だ。あちこちに声を駆け回ったが、結果は今の状態だ。

「……採取クエストだと稼ぎ少ないしなぁ。かといって、今の状態だと討伐クエストも回復薬で金使うな……」

「悪いが、右にずれてくれ」

 背後から声をかけられ、アスターはとっさに右に動きながら背後を振り返った。

 振り返ったアスターは、フードの奥の紅蓮の双眼と一瞬だけ視線が絡んだ。女からしてみればそれは偶然の産物で、ほんの一瞬の、直ぐに忘れてしまう様な事だった。

 だがアスターにとって、その一瞬は長すぎた。

 初めて見る紅蓮の瞳に、意識が持って行かれる感覚がした。これまで散々聞かされ、積み重なった魔族への偏見も吹き飛んだ。

 ただ目が合っただけなのにそう感じる理由を今のアスターは知らないが、少なくとも目の前の赤い目が原因であることだけは何とか理解できた。

 女にとっては一瞬、アスターにとっては一瞬以上の時間の視線の交わりも、女が何事も無かったかの様に視線をクエストボードに戻した事によって終わった。

 ボードに張り出されているクエストをざっと眺め、その内の数枚を手にしてカウンターに歩き出した。

 ほんの少し距離が開いた瞬間、アスターは思わず声をかけていた。

「なあ、魔族のお姉さん! ……俺とパーティ組んでくんない!?」

 人もまばらなギルド内が静かになった。そんな中、数歩前で足を止めた女は綺麗な眉間に皺を寄せて口を開いた。

「は?」

 文字通り、一文字だけ。

 あんまりにも冷たい声で発せられたため、若干挫けかけながらも言葉を続けた。

「俺、ソロで活動してる戦士なんだけど、出来れば魔法使える人とパーティ組みたいんだ。 ……というわけなんですけど、どう?」

 そろぉと、アスターは女を伺う。その表情は何も変わっていなかった。

「却下」

「単語のみで拒否された!」

 再び足を動かし始めた女を追いかけながらなおもアスターは言いつのった。

「お姉さん強そうだけどさ、やっぱ前衛欲しくない!?」

「剣も心得ている。そもそも、このあたりの魔物ならばほぼ魔法の一撃で事が済む」

「うう」

 自分のセールスポイントも無いに等しく、アスターはあっさりと売り込みに失敗した。

「このクエストを受ける」

「承りました。……あの」

「何」

 受付嬢がちらりとアスターに目を向け、秘密話になってもいないが魔族の女に向かって身を乗り出した。

「登録証からも確認しましたが、ドルチェさんは凄腕の冒険者ですね」

「……で?」

「じつはそんなあなたにお願いしたいことが」

 ニコーっと受付嬢が笑みを深めた。

「あそこであなたに撃沈した彼、一年前に冒険者になったばかりなんですけどね、レベルは29、ギルドランクがつい先日ようやく2になった所です」

「……低いな」

「ええ、戦士にしては低いです」

「うぐ」

 アスターが短く呻く。

「彼と上手くやっていける方が居らず、パーティメンバーを募っていますが毎度毎度振られているんです。魔法がからっきしなので魔法も使えず、回復は薬に頼るせいでなかなかもうけられない。装備も新調できない、ないないづくし!」

「止めて! そんな哀れむ様な目で俺を見ないで!」

 捨て犬を見やる以上に哀れな者として女が目を向けたが、ただでさえ引き込まれるような錯覚を覚える目に、そんな風に見られると自分自身でも己が哀れな者と思い込んでしまいそうになる。

「で、私にコレをどうしろと?」

 もはやアスターもコレ扱いだった。

「あなたがこの町に滞在する間、少しでもまともになるよう育成してください」

 受付嬢が極上の営業スマイルで言った内容にアスターは落ち込んだ。

「……コレを?」

「ほら、アスターも組んで欲しいのならお願いしないと」

「うっ」

 経緯はどうあれ、期間限定でもパーティメンバーになってくれるかも知れないのだ。アスターはその場で迷わず土下座した。

「お願いします」

「…………馬鹿か。名乗りもしない奴と組む気も無い」

「アストラス! アストラス・ヴァクストゥームです! 戦士やってます! アスターって呼んでください!!」

 がばぁと勢いよく顔を上げながら名乗る。そんなアスターにあきれながら女も名乗った。

「……ドルチェ。ライセンスは魔道士、召喚士。魔道士ライセンスはマスター済み。ギルドランク950、レベルは9966。お前と組んでいる間は基本、サポートだけするからそのつもりでいろ」

「……へ?」


 念願叶ってアスターが組んだのは、とんでもなく桁外れな人だった。


後々、タイトル変えるかも。でも、なんか思いつかないんだよねぇ……。

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