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「それではこちらの書類に記入をお願いいたします」
少年は興奮を隠さずにペンを執った。ギルドの受付で冒険者登録をする少年を周りの人々は様々な面持ちで見ていた。
多少癖のある金髪、瞳に蒼穹の色を宿した少年の身を包む装備はまだ新しい。
「出来た!」
「記入漏れはありませんね?」
受付嬢が営業スマイルを浮かべながら書類を受け取った。
「名前はアストラス・ヴァクストゥーム。十五歳、人族。ライセンスは戦士でよろしいでしょうか?」
「お願いします!」
「かしこまりました。只今ギルド登録をいたしますので、少々お待ちください」
少年、アストラスが書いた書類を手に、受付嬢は奥へと向かっていった。その間少年は受付の隣に設置されているクエストボードに目を向けた。
野草の収穫、きのこの収集、角兎やスネイクの群れの討伐。他にもゴブリンやウルフなどなど。少年が今まで夢見てきた世界だった。
「お待たせいたしました。こちらをご確認のうえ、もう一度署名をお願いいたします」
受付嬢が分厚い本をカウンターに置き、ばらばらと開いていく。目的のページを開くと少年が読みやすいように向きを変えた。
曰く、ギルド家業はランク制。自身のレベルが高くても、ギルドランクがクエストで必要ランクに達していない場合受注は不可。生存率を上げるための処置である。
曰く、クエストでケガを負う、または死亡してもギルドでは責任をおわない。ただし、クエスト内容外の予測不能の事態に陥った場合はその限りではない。
等等。途中で読むことに飽きたアストラスはその後ざっくりと目を向けただけで、一番下に設けられた署名欄に迷わず記入した。
「……では、こちらが登録証です」
受付嬢は魔水晶から作られた首飾りを少年に差し出した。
魔水晶とは、名の通り魔力のこもった水晶だ。多くは、魔水晶に発動前の魔法を組み込み、魔法の使えない者でも使える魔法石に加工されることが多い。魔法使い達はこのように魔法を売ることも多い。
「以前はカードに必要事項を記入しておりましたが、今現在は魔水晶から作られたこちらを使用しております。まずは魔水晶に触れてあなたの登録をお願いいたします。……こちらの再発行は原則的に出来ません。相応の原因でしたら可能ですが、自身の管理不足による紛失等ですと不可能ですのでお気をつけください。登録証の提示を求められた場合、速やかに提示してください」
にこっ、と受付嬢が得意の笑みを浮かべながら続ける。
「ライセンスは戦士、ギルドランク1からです。クエストはランク1の中からお選びください。ランクアップ試験は定期的に行われますので、実力が伴うのでしたらご参加してください。質問はありますか?」
「とりあえず、ランク2にあがるときの試験はどれくらいのレベルを推奨してますか?」
「戦士でしたら、レベル10ほどをオススメします。次の試験は残念ながら明日なので参加は出来ませんが、ここでは一月ごとに試験を行っておりますので、その次の試験を目標にしてみてはどうでしょう? なお、このあたりは比較的穏やかな地域なので、ランク6以上の試験はここでは行えません。その場合は別の地方のギルドに行くことになります。……それでは、検討をお祈りいたします」
受付嬢の説明を受け終えた少年は足取りも軽く、早速クエストボードに向かった。
アストラス・ヴァクストゥーム、通称アスター。人族の戦士。
何処にでも居る、夢と希望を胸にした、運命も宿命も何も与えられなかった少年だった。
性懲りもせず、また新しいものを書き出しちゃいました。なるべく『白の』も考えながらやっていきたいなぁ……。