02.大人の階段落ちる時
こんばんは。
腰がひん曲げそうです。((殴
それではどうぞ。
「あのさ麻奈」
「なに急に」
「俺やっぱ麻奈のこと好きだわ」
「……最低」
きっぱりと返事するあたしに彼はまたか、とでも言いたげな顔をした。
陽はあたしの幼なじみでしかない。幼なじみでいることに定着してしまっている。
だからあたしは幼い頃から陽を幼なじみとして見てきた。
「ったく冗談だっつーの」
「だよね、あたしたちそんなのあり得ないし」
「……だよな」
「うん、そうだよ」
ほんとはずっとずっと前から知ってた。
陽が呟く“ 好き ”はいつもずっと、本気の意味だってこと。
いつもはぐらかすのはきっと、あたしの気持ちを知ってるから。
桐を好きだなんて――…叶わない気持ちを。
でもやっぱりあたしたちは無邪気だ。
後先なにも考えずに恋してる。
「陽、おんぶ」
「ったく仕方ねえな、麻奈様様」
「うるさーぃばか陽」
「馬鹿は麻奈だけでじゅーぶんだ」
「何だとー?」
彼の背中に掴まった。
幼ない頃とは違うその背中から陽も男なんだって気づくあたしは阿呆か。
たぶん気づかないふりしてただけ。
この背がもう男の子のものじゃなくて、男の人のものなんだってこと。
「陽だっしゅ!」
「うっせ」
「はやくー、もう5時じゃん」
「5時……やべッ」
「だっしゅだっしゅ」
道路に佇む一つの大きな陽炎見つめながら坂を駆け上がってゆく。
この坂を登りきればあの人が待ってるんだ。
あたしたちが何度も求めて届かなかった大切な存在。
きっと桐はあたしたちのこと忘れてなんかない。前みたいに戻れるんだよね、あたしたち。
「そいえばアイツなんで帰ってくんだ?」
「さー、知らない」
「あのさ――…」
「ん?」
「俺やっぱアイツのこと許せねぇわ」
「……そっか」
冷静ぶってみる、だけどどこかで泣きそうな自分がいた。
こうなっちゃったのは全部ぜんぶあたしが悪いんだ。
あたしが桐を好きになりさえしなければ、二人の仲悪くなることなかったのに。
……ああ、どこからずれたんだろ、あたしたちの友情。
あたしは桐を奪いたい訳じゃないんだ。
ただ伝えられなかった思いを伝えたかっただけなのに。
「だから前みたいには接せねぇ、ごめんな」
「なんで謝るの?」
「辛くねぇの?」
辛いに決まってる、だけど言えない。
こんな臆病な自分に腹が立つんだ。
いつだってそうだった。
あの日結局桐に何も伝えられないまま終わってしまった。
あたしは逃げてばかりだ。
*
「久しぶりだな、麻奈、陽」
「桐……」
「おっきくなったな」
「桐こそ」
「ハハ、変わってねーな」
一方通行の会話は虚しく夏の暑さと蝉の鳴き声にかき消された。
坂の上、後ろを振り向いたらあの人がポケットに手突っ込んで立っていた。
なんら変わってなんかなかったよ、桐は。
もしかしたら、変わったのはあたしたちか?
「麻奈、きれいになったな」
ポケットから出た手が私の髪をなでる。
どれくらいこのぬくもりを求めたことだろう、思い出す余裕もない。
ただ疑問に残るのは、なでられる度に感じるこの無脱感。
いやだな、あたしたちは変わってるはずなのに、戻りたいって気持ちが強く波を寄せる。
「陽は、元気だったか?」
「……まぁな」
「彼女できたか?」
「……まぁな」
「さっきからそればっかだなオイ」
ハハ、とあきれたように桐は笑った。
あの頃なら三人で笑い合ったのに、笑っているのは桐一人だ。
やっぱり、変わったのは桐じゃない。
知らないうちにあたしたちが変わってたんだ。
ねぇ陽……、あたしたちやっぱり戻れないんだね。
「っまいーや、俺麻奈と話すし」
すねた桐はあたしの方に向き直る。
こういうとこ、大好きだったのにな……。
今感じるのは気まずさだけだ。
桐は知らない。
あたしたちの悲しみも、涙も、何にも知らないんだ。
「人の女口説いてんじゃねぇぞ」
「え?何言って――…」
「桐には言ってなかったけど俺ら付き合ってんだわ、だからやめてくんね」
「桐?あたし陽とは何も――…」
あたし言ったよね?陽とはそんなのあり得ないって。
陽は、あたしに嘘ついたの?
「陽の馬鹿っ最低」
あたしは逃げた。
……ちがう、また逃げたんだ。
誤字脱字がありましたら指摘おねがいします。




