なんてことない日常会話。2
「おはようロッキー」
「おう、おはよう。つか、誰がロッキーだよ。エイドリアーン! とか叫べば良いのか?」
「ふむ。つまり生卵を飲む、と?」
「いやいやいや、何でそーなんのよ」
「だってロバート・バルボアの想い人の名前を叫んだ以上、それっくらいの事はやってのける心積もりかと」
「誰だよロバートなんちゃらって」
「ロッキーの本名」
「マニアックだな」
「いやいや、ロッキーシリーズのファンなら知ってるって」
「いやいやいや、えんちゃんがロッキーシリーズのファンだなんて、俺今初めて知ったからね?」
「え、違うけど」
「違うんかい。つか、きょとんとした顔で小首を傾げるでない。その仕草やって似合う男子高校生とか、もう恐怖以外の何者でもないわ」
「きょとんとした顔で小首を傾げるのが似合うとか男子高校生にさらりと言えちゃうロッキーの方が怖いでしょ、この場合」
「似合ってんだからしゃーねーだろ。つか、えんちゃんの場合はクラスどころか学園中の人間に訊いても、たった一人の例外すら出す事なく残らず俺の意見に賛同してくれるに違いないと自負している」
「ロッキー、まわりくどい。学園中の人間って、それつまり先生とか事務員さんとかひょっとしたら出入り業者の人までカウントしてる?」
「当然」
「生徒だけでも千人を軽く超える人数の意見がそう簡単に一致する訳ないでしょーが」
「いやいやいや、これに関しては一致すると確信している。何だったらアンケートを取っても良い。俺が。足で」
「新聞部を出し抜く男、とどろっきーの本領をそんなトコで発揮しようとしないでよ」
「ミス学園本命馬のえんちゃんには言われたくない」
「ちょい待ち」
「どした?」
「心の底から聞き違いである事を願いつつ訊くけど。何、ミス学園本命馬って」
「安心しろ、一文字たりとも聞き違ってないから。何もなにも言葉通りの意味だよ。ミス学園コンテスト的なものを開催したら大賞を取るだろう最有力候補として有名なんだよ、えんちゃんは」
「何で僕がミス学園コンテスト的なもので審査される側にカウントされてるのさ」
「そりゃあ可愛いからだろ」
「うわ、言い切った。男に可愛いとか言い切れる轟木キモイ」
「俺だって男に可愛いとか言い切りたくはなかったよ。でも事実なんだからしゃーねーだろ」
「妹はやらん!」
「いきなり何」
「僕が可愛いと言い切るその裏に、あわよくば僕の妹を籠絡してやろうと云う悪意を感じ取れなくもなかった気がしないでもない」
「えんちゃん、まわりくどい。しかし、なーる。えんちゃんが可愛い、イコールえんちゃんと双子のさっちゃんが可愛いと俺が言いたいんだと捉えた訳か。まー確かに、さっちゃん可愛いけどな。俺的には無いから安心しろ」
「何でだよ、可愛いだろ。悟の何が不満だよ」
「落ち着けえんちゃん。さっちゃんに不満とかじゃないからとりあえず落ち着け」
「なんか今腹立つルビを振られた気がする」
「はいはいはい、言葉に仮名とかある訳ないから。俺がさっちゃんは無いってのは簡単だ。お前と同じ顔だからだよ」
「どう云う事?」
「いくら可愛かろーと、親友と同じ顔を彼女にしたいとは思わんでしょーよ、フツー」
「……ロッキー、良い奴だなぁ」
「それ、今更しみじみ言われると、これまで一体どんな奴だと思われてたのかちょっと気になるんだけど」
「えっ?」
「えって、何そのリアクション」
「聞きたいの?」
「聞いちゃまずい評価なの?」
「知らない方が良い事ってあるよね」
「おいおいおい」
「そう云やロッキー、良いの?」
「うわ流すの? さらりと流しちゃいますか。つか、良いって何が?」
「いや、こんなのんびり歩いてて」
「うん? 予鈴までまだまだヨユーだろ?」
「そりゃそうだけど」
「それにえんちゃんだってのんびり歩いてんじゃん」
「だって僕は問題無いし」
「え、何それ。俺は何か問題あるみたいなその言い回し」
「え?」
「え?」
「ロッキー……」
「何よ。つか、ヒトを残念なモノを見る目で見つめるんじゃありません」
「今日の一時間目」
「今日の一時間目?」
「小テストがある」
「………………へっ?」
「先週、ロッキー自身が騒いでた情報でしょーが。結果が期末に反映されるらしい、とかって」
「え、あれ? それって今日だっけ?」
「今日だよ。火曜日の一時間目なんだから」
「え、今日って月曜日じゃなかったっけ?」
「昨日も学校で会ったでしょ」
「まじでか」
「まじだよ」
「うわ、やべー。明日だとばかり思ってたわー。今晩一夜漬けする気満々だったわー」
「まぁ、テストを配られる段階で気付くよりはマシだよ。多分」
「ん、そうだな。まだ時間あるから俺ちょっと先行くわ」
「うん、がんばれ」
「おう、悪あがきはちょっと得意だ」
「ビミョーな特技だな」
「ほっとけ。じゃーな」
「うん、教室でね」
「おー」