A:信頼は見えないもの
今回の登場人物紹介:教頭先生:とても皮肉めいた人なのだが、いい人である。現実主義者でお化けの存在を否定している人物である。
九、
さて、この世界での学校の仕事は
「生徒会長補佐官」なのだが、今のところきちんとした仕事は図書館の管理だけだ。めったに人が来ないそこは非常に静かで、たまに気配を感じて振り返ってもそこには誰もいなかったりする。お化けでもいるのだろうか?そのためか、肝試しコースの一つとなっているらしく、夜な夜な生徒たちがそこに忍び込んで叫び声をあげるそうだ。そして、俺たちがしなければならない仕事は基本的には夜な夜なやってくる生徒を捕まえて指導することらしい。お化けのほうではなく、生徒のほうを罰するのは当然だが・・・・別にお化けがいることを否定しなかったところがやけに怖かった。
そして、これはフェイル生徒会長から聞いた話である。
「だから、私たちで解決します!」
「ああ、そうっすか・・・・」
と俺は答えた。いや、答えるしかなかった。頭が動かなかったからだ。場所は男子トイレ、俺は用を足している真っ最中・・・何故、このようなことになったかというと・・・・
学校に慣れてきた俺はようやくどこに何があるのか覚えることが出来始めていた。今日もこの学校では毎日行っている生徒会に行く前に俺は男子トイレに向かったのである。そこでは生徒たちがたむろしていて話をしている。俺はそれを避けて用を足し始めたら・・・
「零時補佐官!」
そういってフェイル生徒会長が普通に入ってきたのである。男子トイレにたむろしていた生徒たち(勿論、男子)はぎょっとしていたのだが、一番ぎょっとしたのは俺だ。
そして、今に至るのである。
「今日、早速調べましょう!」
「・・・・はぁ、わかりました」
「本当にわかっているんですか?」
何に興奮しているかわからないが、この学校の生徒会長に俺は冷静に告げる。
「・・・・・フェイル生徒会長こそ、自分がどこにいるかわかっているんでしょうか?」
「あ・・・・これは、失礼しました・・・」
顔を真っ赤にして彼女は去っていったのだった。
やれやれ、あの生徒会長にも困ったものだなぁと思いながら、俺はやるべきことをやって外に出る。
「お待たせしました」
「・・・・さ、先ほどは失礼しました・・・・その、いいです」
「・・・・」
ぽっと顔を朱に染めているのだが、何がいいのかさっぱりだ。微妙に視線が危ないところを見ているような気もする・・・・っと、馬鹿なことを言っている場合じゃないな。
「それより、話がまだ終わってないんでしょう?」
「ああっ!!そうでした!今日からはじめますよ!まずは校長室に行きましょう!」
俺はフェイル生徒会長と共にとりあえず、屋上にいるであろう、校長先生に会いに行くことにしたのだった。勿論、夜に生徒をぼこぼこに………もとい、指導するためにである。
校長室に行く途中、やはり黙っていくというのもおかしいので二人で話しながらいくことになる。それは当然だろう。
「そういえば、フェイル生徒会長って変な部分があるよなぁ・・・・」
「・・・変ですか?どこが?全部?」
「全体的ではなくて、一生懸命なところがあるというか・・・他のものが見えなくなるというところですな♪」
「むぅ、いけないことなのでしょうか?」
軽く言ったつもりなのに、彼女は相当気にしているようだった。
「ほら、そういうところだよ」
「・・・私のことをからかってません?」
「いやいや、別に・・・・そういう真剣に悩むところはいいよなぁ・・・俺もそうやって真剣に悩めることがあればいいのになぁ・・・・」
「・・・・あの、零時補佐官、やっぱり私をからかっていますか?」
「いやいや、本当にからかってないが?」
「それならいいのですが・・・・」
校長室の扉の前に二人で立ち、フェイル生徒会長が扉を叩く。
「すいません、フェイルと零時です」
「どうぞ、お入り」
まるでサンタのような姿(遂に来た!赤い服を着ている!)で俺たちを出迎えてくれた校長先生は始めてあったときと変わらず隙を見せることはなかった。
中に入れてもらうと教頭先生(俺は初めて顔を見る)が先客としていたのか眉をしかめて俺たち二人を見てくる。
「何事かね?」
実に仕事が出来そうな人でまだ若そうだった。しかし、その目つきの鋭い視線はどちらかというと先生になるような人ではなく、やり手の社長だといわれたほうがしっくり来ると思われる。生徒には人気がないと思われる。
「・・・・え、ええと・・・・夜に生徒会の仕事がありますから・・・その許可をもらいにき、来たんです・・・」
かなり緊張しているのか、はたまた目の前の教頭先生が怖いのか知らないがフェイル生徒会長は非常に答えに窮しているようだった。
「ほっほっほ、いいでしょう」
「校長、理由も聞かずして許可を与えるなどと・・・気がつけば生徒会長補佐としてどこの馬の骨ともわからない者に任せたのですか?」
それは俺のことをさしているのだろう。
「・・・お、お言葉ですが、教頭先生・・・零時補佐官は私をきちんと補佐してくれています!」
「・・・・ふん、私はあなたに答えを求めているわけではありません、ちょっと黙っていなさい・・いえ、その前に一つ・・その様子だと、本名までこの馬の骨に教えたようですね・・・・」
「・・・も、勿論です!上に立つものが下のものを信頼もせずにいられますか!」
「・・・まぁ、そうやって騙されてしまうのでしょうがね・・・・決めたのは間違いだったということだと私は思いますけどね・・・・」
ちなみにだが、生徒会長の本名は全校生徒が知っているのだが、全員がそれを偽名だと思っている。その事実を知っているのは俺だけだろう。
「教頭先生、決定は軽々しく覆せません。彼女たちがここにきた理由もわかっていますし、教師側の意見としても生徒の自立を促し、正しい道を進まなくてはいけないのです・・・・生徒が正しい道だと思って間違った道を進んだときは私たちが責任を見ないといけないのですよ」
「・・・・わかりました」
校長がそういうとあっさりと教頭先生は引き下がった。その顔には何も浮かんでおらず、俺たちのことをどう思っているのかさえ、わからない。誰も何も言わない状態で、俺はすぐにでもこの部屋から立ち去りたかった。
「校長先生、では俺たち・・・いや、僕たちは今日の晩から校内を巡回します。無論、他の生徒会員にも協力を仰ぎたいと思っています・・・・では、失礼します」
フェイル生徒会長を引きずって俺たちは校長室を後にしたのだった。
「零時補佐官、ああいわれて悔しくないんですか?」
校長室を出てきて図書館へと向かった後に突然、彼女は俺に噛み付いてきた。
「いや、悔しいも何も、事実だろ?実際、俺は馬の骨だし・・・・俺が死んだらその骨できっと馬頭琴だって作れるぞ?たぶん。」
そういってため息をつく。
「今はそんなことよりも仕事のほうが優先に決まってるさ」
「け、けど!」
なおも食い下がってくるフェイル生徒会長。成る程、人の上に立つ人はこのくらいしつこくないといけないのか・・・・いい勉強になった。
俺のことを見てくるフェイル生徒会長に俺はこの話にけりをつけるためにまとめにかかる。
「いいって、俺がどこぞの馬の骨じゃないってフェイル生徒会長がわかっているのなら・・・・まぁ、一人でも俺のことを信じてくれている人がいるのならめっけもんだろう?フェイル生徒会長が俺のことを信じてくれているんだろ?」
「も、勿論です!あなたのようないい人が面倒を起こすとは思いません!」
それも事実だろう。厄介ごとを起こすのはフレアとフェイル生徒会長。厄介ごとを持ってくるのはネリュ姉さんの所業だろうな。
俺はポケットに何かないか探して思い当たったものを隣を歩くフェイル生徒会長に渡す。
「これは?」
「螺子っていうもんだ。お守りとして持っててくれ」
「・・・・わかりました」
「失くさないでくれよ、大切なものだから・・・・」
「なら、何故こんなものを私に?」
「俺もフェイル生徒会長のことを信じているからな。失くさないって思うから・・・・」
そういって俺は小走りで走り出す。
「さ、急ごう、フェイル生徒会長様?」
「も、勿論です!」
螺子を急いでしまって彼女は俺の隣を一緒に走り出した。
図書館にやってきた俺たち二人はどうするべきか話し合った。図書館には他の生徒会員がおり、厳しい顔をしてテーブルを囲んでいた。
「案としては二つあります」
フェイル生徒会長はそう言って他の会員を見渡す。俺はなぜだか、フェイル生徒会長の右斜め後方に控えている。
「え?見回りするんじゃないのですか?」
早計な一人の生徒会役員が手をあげて質問をする。
「それは最後の切り札です・・・・そんなことをして生徒会役員に被害が出ては意味ありませんからね・・・まず、立ち入り禁止の札を掲げて一週間ほど様子をみてみましょう」
これは普通に一般常識なのだが・・・・
「それで通用するのか?」
「まずは、試しです」
俺が質問をした後に他の生徒会役員が手をあげる。
「・・・・その案には賛成なのですが、規律を破って入ったものがいるかどうかはわからないのではないでしょうか?」
「そうですね〜確かに〜札をかけておくだけではいけないのかと〜おもいます〜」
一時、がやがやとうるさくなる図書館にとても聡明そうな顔で生徒会長は告げた。
「私たちは何ですか?魔法使いですよ?侵入者撃退用の魔法を仕掛けておけばいいでしょう?」
とても簡単なことなのだが・・・・このくらい、楽な考えだろう。
「これより、侵入者撃退用の魔法を皆で考えます!!」
フェイル生徒会長はそういって辺りを見渡したのだった。なぜだか、俺はいやな予感がしたのだった。
「現時点で最高の魔法使いの影をつくってそこにおいておきます!」
後日、俺が自室で教師棒の手入れをしているところにフレアがやってきた。いつものことである。
「零時さん、学校での噂聞きました?」
「何を?」
「図書館に無断で入ろうとした生徒が影の魔法使いにぼこぼこにされたそうなんですって!今度一緒に倒しに行きませんか?」
その目がきらきらしていてとても面白そうにしている。今日はフェイル生徒会長がこの家にいない。ちょっと用事で出ているそうである。彼女が聞いたらどうなるだろうか?
「あ〜フレアが行っても怪我して戻ってくるだけだろ?」
「そうでもありませんよ!零時さんならきっとその影を倒せます!」
「いやだぞ、俺は」
「え〜なんでですか?」
今日は珍しく食い下がってくるフレアに俺は告げた。
「・・・・どんな相手だ?それで決めるから」
「えっとですね・・・・私たちが通っている学校の先生だという噂があります。教師棒を持っていて非常に強いそうです」
「ああ、それなら却下だ。教師棒を持っている時点で既に先生が相手だろうからな。俺は先生に顔を見られるようなまねはしたくないんだからな〜」
そういって俺は教師棒をそそくさと戻したのだった。
「それより、今度おいしい店にでも何か食べに行こうぜ?」
「そうですね〜たまにはいいかもしれないですからね・・・ああ、それならいい店がありますよ!!」
ころっと忘れてしまったのを俺は感謝するしかないだろう。今頃も不埒な学生が図書館に侵入しようとして俺の影に撃退されている時間帯なのだろう。
「まったく、何かあの図書館にあるのかね?来るなら昼間こいっての!」
「え、何か言いましたか?」
俺は首をひねってしらばっくれたのだった。
さて、今回は九話めですね。これからの予定としては、ちょっとした仕掛けをまた取り入れたいと思っています。




