A:夜のお仕事………
さて、今日の登場人物は………おっと、誰もいねぇ………じゃ、ちょっとしたお願いを………誰か零時たちの絵を描いてくれるような人はいませんかね〜………書いてもいいって人がいましたらご連絡ください。
八、
人間というものは約一ヶ月もあれば大抵の状況に慣れてしまうらしい。その環境が安全でかつそれまでの生活と変わったところといえば寝るところと自分の場所ぐらいなものならばなおさらである。
もっとも、なれない部分も結構ある。いや、どちらかというと困ったことなのだが。この世界には風呂というものがなく、シャワーである。これはまぁ、いい。別にいい。どうせ風呂にはいっても十分ほどで俺はあがってしまう。
困ったこと一つ目、
「零時さん、もう寝ましょうよ?」
これだ。これである。そろそろ寝ようかな?という俺の波長でも感じるのだろうか?気がつけば同じ部屋で机に向かい合うようになってしまっている状態に陥っている。
「・・・ああ、そうだな」
ここは確かに俺に分け与えられた部屋なのだろう。だが、フレアにとってはこの家のどこでもが部屋みたいなようでたまに廊下に転がって寝ていたりもしている。しょうがないので寝る準備を始める俺。
そして、困ったこと二つ目
「ふぁ、そうですね・・・私も睡眠をとることにします」
これだ!何故か・・・そう、何故かここはフレアたちの家なのにフェイル生徒会長が普通に居座っている!なぜだ!?
「・・・・」
「ん?零時補佐官、顔色が優れていませんがどうかしたのですか?」
「・・なぁ、フェイル生徒会長?何故、あなたがこの家にいるのでしょうか?」
「え?一週間前からこの家に住んでますけどいまさらそれを聞くんですか?」
何をそんなに驚いたような顔をしているのだろうか?フレア、お前はお前で一人でねてんじゃないよ。
「家の人とか心配してないか?」
「ええ、実は家族が他の王都に行ってしまったのでここにきたのです・・・・」
ああ、それならしょうがないか。どうやらネリュさんと知り合いのようだったからなぁ・・・・
「ということにしておいてください。あのわからずやなお父様にはいい薬だと思われます」
「ってちがうんかい!」
「まぁ、そんなことより早く寝ましょう。明日も学校ですよ?」
「・・・・そうだな」
がっくりと肩をおろしては俺は眠りに入ったのだった。
「すぴ〜」
「・・・・ぐぅ・・・」
しっかしまぁ・・・・この人たちは本当におかしな人だ。
俺は今日も眠ることが出来なさそうな夜を一人で過ごすのだろうかという夢を見ながら寝てしまうのか?と思ったのだった・・・・が、
「零時、どっちかにもう手、つけちゃったのかい?」
「ネリュさん?」
気がつけば俺の枕元にはネリュさんが立っていたのだった。暗闇なので声でしか判断できていないが間違いないだろう。
「あの、どうかしたんですか?」
「ん〜ちょっと零時に頼みごとをしたくてさぁ〜今、暇かい?」
「ええ、昼間寝ていたのでどうせ眠れないから大丈夫ですけど?」
左右の二人が今日も幸せな夢を見ていると思われるので邪魔をしないように静かに返事をしてとりあえず部屋から出たのだった。
「・・・その服、仕事の服ですか?」
ネリュさんが着ている服は体に張り付くような黒い服だった。
「そうだよ、似合ってるかい?」
「ええ、似合ってます・・・・で、俺に何を頼みたいんですか?」
尋ねると相手も尋ねてきた。
「・・・・今、杖を持ってきてるかい?」
「杖?」
腰にはフレアからもらった教師棒がきちんとつけられている。途中、フェイル生徒会長に改良してもらったこの杖は今ではすっかり相棒となっている。だが、今も、これが杖なのか疑問に思っている。
「・・・一応ありますよ」
「そうかい、それならついてきてくれ」
そういって彼女は長い髪を背中でまとめて廊下の暗闇に向かって歩き出した。少々不思議に感じた俺だったのだが、黙って彼女の後についていくことにした。
「・・・ん〜そこにおくんじゃありませんよ、零時補佐官・・・へっくち・・・」
「零時さん、おいしいお菓子が湖に・・・ぎゃ〜蛇ですぅ・・・むにゃむにゃ・・・・」
二人の幸せ者を残して・・・・
「へぇ、まだまだこの地下にはさまざまな場所があるんですね?」
「どうだい?すごいだろ?」
歩いてやってきた場所にはちょっと変わった場所があった。そこの部屋の中央には紫に点滅している大きな魔方陣が描かれていたのだった。
「ここ、何をするところなんですか?」
「ここはね、世界を旅する者の出発点さ♪この魔法人に乗れば世界の各地に行くことができる。まぁ、基本的には人気のないところにつくように設定されてるし、どこに出るかはわからないけどね・・・・」
そういってネリュさんはすばやく魔方陣の上に乗る。
「さ、行こう」
「・・・・・どこですか?」
「あっちで話す」
腕を掴まれてそのまま俺は彼女と共にミステリーツアーを開始したのだった。
「あっという間についたんですけど、ここはどこですか?」
目の前に広がっているトイレ壁に俺は首をかしげる。
「ん〜さすがに一人用で二人を運ぶのは大変だったか・・・失敗失敗」
個室に二人でぎゅうぎゅうにつめられている状態は色々と危険だったのでさっさと出る。
「ここ、どこです?」
「ここ?ここは世界に広がる王都の一つ・・・・・名前はちょっとわからないけどね・・・」
そういって辺りを油断なく見渡すネリュさん。
「・・・・で、これから何をするんです?」
「ど・ろ・ぼ・う♪きゃは♪」
「ど、泥棒!?」
びっくりして相手に尋ねると
「そうよん♪」と目をぎらぎらさせながら答えてくれている。
「片棒担げっていうんですか?」
「そうだねぇ・・・そうでもしないとこの国の食物連鎖の一番下にいる人たちが困っちゃうからね・・・・」
何やらわけありのようだ。その目には憂いの色が浮かんでいる。
「まぁ、どうしても零時が駄目だっていうのならいいんだけどね・・・今日はちょっと相手が悪そうだから・・・もしかしたらって思って頼んだの」
そういって肩をすくめるネリュさんに俺は頷いた。
「わかりました、何をやればいいんです?」
「とりあえず・・・・ここを護衛している人工物の相手をしていて欲しい。破壊するのなら破壊しても構わないけど、できれば穏便に済ませて欲しいわ」
外に出れば目の前は既に大きな屋敷が約九割の面積を占めている。
「・・・・いくわよ?零時はここで待機しておくように」
「・・・ええ」
彼女は丸い玉を取り出してそれを庭の中に放り込む。その玉は何も音を発したりせずに静かに破裂した。
「・・・・?」
「じゃ、何かあったらさっきのトイレで待っててね」
そういって彼女は闇夜に消えてしまったのだった。俺は手持ち無沙汰に辺りをきょろきょろと見ているとなにやら二つの赤い光を放つものが屋敷内の木からこちらを見ている。
「?」
よく見ようとしてはっとなり、俺はあわてて後ろに飛んだ。
「!?」
先ほどまで俺がいた場所は見事に穴が開いていた。うわ、なんだか過去にもこんなことがあった気がするなぁ・・・いつだったっけ?
「・・・・侵入者、排除します」
煙が上がる穴の近くに人影が立っている。
「・・・・こいつか・・・・」
俺はこの相手が人工物なのだろうと思った。筋骨隆々の男だ。別に目が光っているわけではなく、暗視スコープと思われるものをつけている。
「・・・というより、俺はまだ正確に言うなら侵入してないぞ?」
俺の足はまだ屋敷の門の外側にある。
「・・・・あなたが何故、今ここにいるかは私には理解できないのだが・・・・あなたの言っていることも理解できない。この国はすべて領主様のもの・・・・・」
「え?じゃあ・・・・既にここにいる時点で侵入者!?」
「そうだ。だから、消す!!」
相手は巨体とは思えないほどのスピードで俺に突っ込んでくる。俺も腰から杖を取り出そうとしたのだが・・・
「・・・・」
「くっ!」
教師棒を吹き飛ばされてしまった・・・・だが、俺は基本的に杖を必要としないので相手の懐に魔力のこもった一撃を加えてやった。
「ぐっ!!」
相手はその場に倒れてしまった。
「・・・・こんなものだろうか?」
倒れてしまった相手に吹き飛ばされた教師棒を再び手に取り・・・・さて、これからどうしたものだろうかと思って空を見上げると・・・・
「・・・・・侵入者、発見!」
月をバックに羽を広げた相手がたくさんいる!マジか?全員が同じ顔だ!怖い!
トイレに戻ってこれたのは幸いだった。きっと、トイレの前にはものすごい数の人工物が気絶しているに違いない。
「はぁ、これはしんどい話だな・・・・」
「どうも、ご苦労さん♪」
ネリュさんは小さな窓から入ってきて俺の頭に手を置いたのだった。
「陽動ありがとさん」
「いえ、これでいいんですよね?」
「さ、戻るかぁ・・・・よくがんばってくれたわね〜」
なんだか普段よりも女性的な部分のネリュさんにちょっとどきどきしながらも俺はネリュさんと共にその場を後にしたのだった。
「うわぁぁぁ!!」
目が覚めたら自分がとても情けない声を出していることに気がついた。
「・・・・ん?ああ、零時か・・・くぁ〜・・・」
自分は今、何故かネリュさんを抱きしめるようにして寝ていたのだ。しかも相手は薄いTシャツ一枚だけである。
「ああ、とうとうあたしを選んだのかい?」
「ええっ!!?」
辺りを見渡すが、フレアとフェイル生徒会長の姿は確認できない。
「にしし・・・あの二人がこの光景を見たらどうなるだろうねぇ〜」
「・・・・」
あれ?昨日は・・・・・ネリュさんのお仕事を手伝って、帰ってきて、それから・・・・き、記憶がにゃい!?
「ん〜昨日はよくがんばってくれたねぇ〜さぁて、あたしのお仕事がどうなったか結果を見てこないとねぇ〜あそこの新聞は情報が早いからねぇ〜」
ネリュさんはそういって部屋を出て行き、残された俺は頭の中が何故か真っ白になっていたのだった。
真っ白になっていた俺にすぐに戻ってきたネリュさんは告げた。
「零時、たまにはお前の寝顔が見たいなぁ〜可愛かったからねぇ〜今後は、ネリュ姉さんと呼ぶようにね・・・呼ばなきゃ、ばらしちゃうからねぇ〜」
「・・・・・りょ、了解しました」
俺はぎこちない動きで相手のほうを見て頷くことしかできなかったのだった。
余談だが、隣の領主が村民に倒されたらしい。領主は逃げたそうだ。無血で終わったその争いを聞いてネリュ姉さんは
「これも零時のおかげだねぇ〜」と呟いていた。




