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兄には兄のわけがある?

今回はかなり存在感が薄い零時、雅のお兄さんの話しです。

兄貴の秘密!?

 俺としては非常に納得いかないことが起きた。家に帰ってきたら以下の状況になっていたのだ。

「・・・・兄貴、何でこんなところで寝ているんだ?」

「・・・・偶々だ」

 いや、俺としては非常に納得いかない奴が起きた。

「なぁ、説明して欲しいんだが・・・俺の布団が見事に避けているのはなぜだ?」

「・・・・いつものことだ」

 そういって寡黙な兄貴は立ち上がる。

「・・・何が起きたんだよ?」

「・・・俺が起きただけだ・・・・」

「違う、俺が聞きたいのは事象のほうだよ!なんで布団が見事に裂けてんだよ?子供二人がぬいぐるみを取り合って見事に真っ二つ!みたいな状況じゃねぇか!」

「・・・・みればわかる。ちょっと寝相が悪かったみたいだな・・・」

 寝相が悪い・・・ただ、それだけの理由で布団は見事にここまで綿をぶちまけるという状態になるのだろうか?どういった寝相で?

「・・・ほら、俺の頭もすごいことになっているだろう・・・」

 そういって自らの髪の毛を指差す。兄貴は長髪で、普段はさらさらとした髪の毛をしているのだが、今日は何かを頭につけたのか知らないが、すべてそれが逆立っている。それはもう、天井に当たりそうなほどだ。

「・・・ま、まぁ・・・さすがにその髪形を見れば俺もこの布団が裂けたほうが普通に見える」

「・・・・そうか、わかってくれたのならそれでいい・・・」

 のっそりと起き上がって兄貴は去っていった。そして、残されたのは裂けた布団とほうけたような俺の姿だったのだが・・・・

「ちょ、ちょっとまてーい!」

あわてて部屋を飛び出したのだが、既に兄貴の姿はない。くそ、どこに逃げたんだ?

「あ、兄さん・・・どうしたの?ものすごく怖い顔してるけど・・・?」

 そこへ、階段を上がってきた雅の姿を見つけた。

「なぁ、兄貴見なかったか?」

「・・大兄さん?それならいつもと同じようにさっき窓から飛び降りたけど?」

 いつもと?あの兄貴、いつも飛び降りて出てっていってのかよ・・・

「珍しくあせってるようだったけど・・・何かあったの?」

「俺の布団が奴に殺られた・・・」

 雅に事のしだいを告げると

「ああ、なるほど・・」となにやら普通の態度を見せたのだった。

「兄さんもやられたんだね?」

「・・・雅もか?」

「うん。見事に布団がまっぱつに裂けてたなぁ・・・・」

 しみじみとしたような表情でそんなことを言っている。

「とりあえず、いいんじゃない?まだ予備の布団はあるんだし・・・・」

「そうだなぁ・・・そうだ、そういや今日は瑞樹の家に行くって言ってたんだ・・・俺、行ってくるわ」

 今はそんなことより瑞樹の家に行くことを先決にしたのだが・・・

「いやぁ、零時・・・今日はすごいことがあったんだ!」

「ど、どうした?」

 まるで何か面白いものを見たような表情を見せる瑞樹。

「この布団を見てくれよ!」

「・・・・げ!?」

 干してあった布団を引っ張ってくるとそれを俺に見せる。それをみて俺は固まった。


見事に布団が真っ二つに引き裂かれていたからである。


「・・・・あれ?なんだかぜんぜん驚いてないようだけど・・・?」

「いや、そんなことはないと・・・うん、一体全体、これはどうしたんだ?」

 まさかとは思うのだが、我が家の長男の仕業だろうか?

「えっとね・・・母さんの話によると髪を逆立てた仮面ひょっとこをつけている男がまるでサルのように僕の家から飛び降りてきたんだって。そのまま走り抜けていったから二階に強盗が入ったのかと思ってあわてて男が出てきたと思われるベランダにいったんだけど・・・そこには真っ二つに裂かれている僕の布団があったんだって・・・どうしたの?なんだか顔が青いけど?」

 俺は瑞樹のそんな不思議そうな表情をぼさっと見ている場合ではなかった。

「・・・すまん、ちょっと用事が出来たわ・・・俺、ちょっと会ってこないといけない人がいるんだ・・・すぐ帰ってくる」

「ん、そうなのか・・・彼女が出来たのか・・・・しょうがない、それなら雅ちゃんを呼んでヒーロービデオでも見ているからゆるりとしてきても可能だよ」

 瑞樹に片手を上げてさよならを告げると俺は急いで兄貴が勤めている先のファミレスに走って向かったのだった。


「いらっしゃいませ〜って、零時君じゃない?どうしたの?」

「あの、兄貴もう来てますか?」

 乱れた呼吸を整えながら俺は知り合いのウェイトレスさんに話しかける。相手は俺の表情から見てただ事ではないことが起きたと思ったのだろうか・・・?

「・・・ええと、裏側の扉から入ってくれれば誰かが対応してくれると思うわ。ここの店長をしていてたまにバイトしに来る零時君のこと、皆知ってるからね・・・」

 そういって俺は裏方のほうに向かったのだった。



「・・ああ、店長ね・・・店長、弟さんが血相変えて来てますよ!」

 裏方のほうから店の中に入るとやはり、知り合いのコックさんが掃除をしているところだった。そして、事情を伝えぬまま俺は兄貴を呼んでもらったのだが・・・・

「あれ?店長いないのかな?悪いけど、ここで待っててね?」

 コックさんは奥のほうへ歩いていくと、数分で戻ってきた。

「・・・なんだか、さっき来て一品客の品を作ったら窓のほうを見ていて急に血相変えて逃げ出したんだって・・・・しかも、着替えたのはいいけど・・・帽子は被ったままだったそうだよ?何かあったのかい?」

「この事情はおいおい・・・ありがとうございました!」

 窓のほうを見た・・・つまり、俺の存在に気がついたのだろう。

我が家に住んでいながらも俺たちとは起きている時間帯が逆の兄貴だ・・・何を考え、どのような行動をしているのかさっぱりである。髪の毛を茶髪に染めることもなく、ピアスをつけることもなく、タバコをすうことさえない謎の兄貴・・・酒を飲めばすぐさまいびきをかくといわれている兄貴は何を考えているのだろうか?


 街角で一つの白い帽子が見えた。どうやらそこに隠れているようだったのっで捕まえてやろうと慎重に近づいていくと・・・

「・・・おとなしく鞄の中に入ってろ・・・」

「嫌だぁ!私もてんちょ〜と一緒の景色をみたいの〜」

 何やら誰かと言い争っているようで・・・俺はこっそりと覗き込んだ。

「あ、てんちょ〜弟さんがいるよ!」

「・・・・また、そうやって嘘をつく・・・」

「む、嘘じゃないもん!そういえば誰かに見つかったら結婚してくれるって約束したよねぇ?」

「・・・ああ、したぞ。だが、それは俺がお前と一緒にいるところを見られたときの場合だ。零時はここにはいない・・・」

 鞄に黒い羽根を生やした手のひらサイズの女の子をどのようにして入れようか考えている様子の兄貴には俺が見えていないようだ・・・

「あそこにいるもん〜」

「・・・何度、それで騙されたことか・・・・」

 いや、俺は本当にいるんですけどね・・・・

「本当は私と結婚する気がないんだぁ〜!うぇ〜ん、泣いちゃうぞ〜!」

 俺はどうするべきかと悩みながらその様子を見ていると、兄貴がふと、少女を詰め込む手を止めた。

「・・・・何を言っているんだ・・・とりあえず、俺がもうちょっと稼げるようになったらきちんと結婚してやると約束しただろう?お前がどんなにいたずらしても家族にはばらしてないぞ?今日の布団だってお前がやったんだろ?隣の家にも迷惑を掛けて・・・俺だってなぁ、お前から呪いを掛けられていなかったら今頃短髪だったんだぞ?今日の朝だってお前が魔法を使って髪の毛を逆立てたろ?」

 すいません、兄貴・・・俺、あなたのことを誤解していました。

「うっぐ、ごめんなさ〜い・・・」

「はいはい、嘘はもういい・・・」

「でも、弟がいるのは本当だよぉ〜」

 俺はやばいと思ってそこから逃げ出したのだった。魔法を使って歩を早めて姿を消した。


「?いないじゃないか・・・また嘘かよ・・・」

「本当だよぉ〜いたんだよぉ〜」

「はいはい、さぁ、家に帰るぞ・・・」



 夜、俺の部屋に兄貴が急にやってきた。

「!?」

「・・・今日は迷惑を掛けた・・・」

「布団のこと?それなら・・・」

「違う、よくあそこから静かに出て行ってくれたことだ。ああ、安心していいが、今あの小悪魔はいない・・・」

 そういって床に胡坐をかいて兄貴はため息をついた。

「・・・あいつと会ったのは俺が働き始めてすぐだった。当時、色々と問題を抱えていた俺はいじめられていた悪魔を助けたんだ。まぁ、そのときは助ける気なんてなかったんだがな・・・・こいつがまた、助けたら助けたで『一回助けたならこれからも助けてよぉ〜』なんてふざけたことをぬかしてな・・・嫌だと答えたら魔法を俺に掛けようとしてきたんだよ。そんで、その魔法は見事避けれたんだが・・・それが一人の女の子に当たってなぁ・・・その子、可哀想に異性にもてないようになっちまったんだ」

 どっかで聞いたような話である。

「・・・それで、あの小悪魔が言うには『今回はわざとはずしてあげたけど、次はお前の家族に当てるからなぁ〜どうだぁ?』っていってきたんで・・・」

「いってきたから・・・それで承諾したの?」

「・・・いや、そいつをぶん殴った・・・・」

 普段は糸目で瞳を見ることができない兄貴の目を見たのだが、その目はマジだった。

「・・・それで?」

「ああ、そうしたら・・・『え〜ん、いたーい!私を傷物にしたぁ!』って大声で騒ぎやがって・・・近くを通った警察官にまで近づかれてよ・・・・・俺はもう、アドリブで何とか切り抜けたね・・・」

「なんて?」

「・・・ほら、さっさと家に帰るぞ!ってね・・・そしたら、まぁ・・・現金な野郎だ・・・さっきまで泣いてたくせに笑って『うん♪』って言いやがったんだ・・・そんで、気がつけば奇妙な間柄になっちまったってわけだ・・・」

 その話を終えると兄貴は立ち上がった。

「ねぇ、兄貴は今、その悪魔といて楽しい?」

「・・・・さぁなぁ、小さい頃からお前たちの成長する姿を見てきただけだったが・・・・まぁ、俺はみているだけでも楽しかった。既に一緒にいるやつがいなくなったら寂しくなるから、俺は今、楽しいんだろうよ・・・」

 そういって兄貴は部屋を出たのだった。


 その後、いつものように無口に戻った兄貴だったのだが、最近は俺の部屋に小さな変な奴が現れるようになった。主に、兄貴が疲れて眠ってしまっているときである。

「ねぇ、弟さん〜」

「・・・・何?」

「あの時一緒にいるの見たんでしょ〜?」

「みてない」

「むぅ〜うそだぁ〜」

「嘘じゃない、嘘ついたって何も利益ないだろ?」

「確かに・・・・」

 主に話すことは彼女が知らない兄貴のことなのだが・・・俺もまぁ、兄貴のことを知らないので意味がない。

「結婚式のときは仲人さん役やってねぇ〜」

「・・・まぁ、頼まれたらね・・・」

 俺としてはこんな人が姉さんになるのか・・・まぁ、それもいいかとあきらめていたのだった。


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