ルート零その一 隠れキャラ的扱いの零時の許婚
始まってしまいました、ルートシリーズ第一弾!詳しくは後書きのほうで色々と書きますんで、よろしければ見てくださいね!
ルート 零
季節は夏、一人しかいない教室で俺はやれやれとため息をずっと吐いていたのであった。無論、こんな暇なことをしているほど受験生は暇ではないのだが・・・・待ち合わせ場所はここだったのでしょうがない。こんなことになったのもとある手紙が俺の机の中にはいっていたからであった。
その日、夏休み前最後の日だったのだが、どうせこの学校は受験生とかほとんど課外で夏休みの午前中がつぶれてしまうし、午後からだって体育祭の練習などでつぶれてしまうのだ。まぁ、それはいいとして、俺の机の中に白い手紙が入っていた。他にクラスメートなどいない俺の教室を探してみてもごみは出て来るんだが犯人は出てこなかった。
「・・・・?」
宛名はきちんと俺だし、『時柱 零時様へ』と達筆な文字で書かれている。
ラブレターではないのは感じ的にわかるし、別に危険物が入っている気配も無い。
どうやらただの手紙のようなのでそれを開けてみることにしたのだった。そこには、『夏休み初日、午後一時にてこの場所で待つ。』と達筆に文字が書かれていたのだった。しかし、それを完璧に理解したのはその日の夜だった。なんせ、達筆すぎて兄貴以外の家の連中は理解不能だったのだ。その点はあの兄貴に感謝しなければならない。
そんなこんなで俺は暑い中、ここにいるのだ。魔法で涼しくしてもいいのだが・・・・それでは夏ではないような気がしてそれをやめていた。
コンコン・・・・
きっかり一時・・・教室の後ろのほうのドアを誰かがノックしている。
「・・・開いてますよ?」
どうやら待ち人が来たようで俺は立ち上がった。もしかしたら危ないような人かもしれないので身構えておくことにした。
スライド式の扉が開き、そこに立っていたのは黒い服を着た執事だった。別にこの学校では執事がいたって問題は無い。金持ちのお嬢様が通っていたりもするし、この屋敷を管理している学園長もこういうお手伝いさんを仰山抱え込んでいたりもする。たまに、この学校の壊れた部分を直していたりもするのだが・・・三年間、この学校にいたのだがはじめて見る顔だった。
「・・・時柱 零時様ですね?」
慇懃な態度でそう尋ねてくる執事に対して俺は頷く。
「・・・どうぞ、ご主人様がお待ちでございます。」
廊下の先にでもいるのかと思ったのだが・・・そこには誰もおらず、変わりに黒塗りの縦長の車が廊下を占領していた。
「・・・・。」
唖然としている俺に執事は黒塗りの車の一つのドアを静かに開ける。
「・・・どうぞ、別に誘拐でもありませんし、実験材料にしようとしているわけでもありません。どうか、我々を信じていただけると嬉しいのですが・・・。」
「・・・わかりました。」
そういって俺はその車に乗り込んだ。
どこをどう通って学校内から出たのか知らないが、気がついたら山道を走っているようだ。外は緑と茶色の景色が後ろに流れていっている。他に乗っている人もおらず、どうやらどこかの屋敷に行くようだったので身なりを整えていると・・・・・とてつもなく馬鹿でかい純和風のお家が姿を現したのだった。
執事の顔はただただ、事務的であり、話しかけたらいろいろと答えてくれそうなのだが・・・・とりあえず、黙っておくことにしよう。下手に話しかけて厄介なことになってしまったら大変である。口は災いの門っていうからな。
「・・・・つきました、ただいま扉を開けますのでそのままにしておいてください。」
執事がわざわざ俺の扉を開けてくれるのでそんな経験の無い(どちらかというと母さんが降りるときに俺があけていたりしていた気がする。)俺は恐縮しまくりで頭をさげまくっていた。
「・・・どうぞ、屋敷の中へ・・。」
ここで鬼ごっこかかくれんぼをしたら楽しいかもしれないな・・・って、そういうことをする歳でもないかな?
「あのう、俺は何でここにいるんですか?」
「・・・そのご質問はご主人様にお願いします。」
そういって俺を屋敷へと連れて行く。
だが、これはちょっとおかしいのではないのだろうか?だって、学校に黒塗りの車を送り込んでくるようなやからがまともな奴だと断言できるのだろうか?いや、出来ないはずである。執事を使うような奴は要注意だ。とてもまともとは思えない。メイドを見て喜んでいる連中の脳みそを見てみたいと思った俺なのだが、やはり・・・ここもそういう奴が住んでいる奴なのではないのだろうか?ううむ、絶対にここにいてはいけないと俺の中の心の俺がそう叫んでいる!
「・・・どうかなさいましたか?」
「・・・すみません、俺、用事を思い出しました。送ってくれなくて結構ですから失礼させてもらいます。」
返答を聞かずに俺は回れ右して走りだした。そこまで体力に自信は無いのだが、今から帰れば夜になるまでに帰ることが出来そうである。俺は一生懸命走ることにしたのだが・・・どこからかとんできた何かが頭を直撃し、俺の意識は夜空のかなた?に吹き飛んでしまったのであった。く、無念・・・・。
水の落ちる音が聞こえ、俺の意識は覚醒。
奇妙な浮遊感を感じながら目を覚ますとそこにあったのは石の壁・・・体を動かそうとすれば動かずにじゃらりとした鎖の縄が俺をがっちりキープ。
ぐるぐる巻きにされているので首を動かすことぐらいしか出来ない。辺りを見渡してみても、映るものは石の壁だけ・・・いや、唯一とても重そうな扉が一つだけある。・・・つまり、今俺は監禁されているようだ。このまま、更に臓器を換金されちゃったりしてな?・・・冗談を言っている場合でもないな。
「・・・・おーい、誰かいないのかぁ!助けてくれ!」
動けない状況で大声を出してみるのだが、誰にも聞こえていないし、自然現象でこんなことにはなるまい。困ったものだな。
ガチャリ・・・
とても重そうな扉があっさりと開き、そこから意外というかなんというか・・・・鬼面を付けたカグヤ姫みたいな人が出てきた・・・いや、入ってきた。
「・・・・。」
とりあえず、危なそうな人には話しかけてはいけません。目を付けられればずっと付いてきますし、幽霊ならばきっと憑いてくるでしょう。
「・・・おお、愛しの零時よ・・・わらわはおぬしにとても会いたかったぞ。」
鬼面が何を言おうが・・・俺は別に会いたくなかった。いや、むしろ係わり合いにもなりたくなかった。
「・・・・。」
「ん?どうかしたのか?」
そういって俺に近づいてくる鬼面。こいつは危険だ・・・ただモンじゃないと俺の中の俺が心の中で叫んでいる。この叫びは近年まれに見る手ごたえである。
彼女はその透き通るような白い手を伸ばして俺の顎を掴む。
「・・・・わらわが怖いのか?以前、あったことがあるだろう?」
それはもう・・・とてつもなく、怖いです。それに、鬼面の人にあったことなんてこれまで一度だって無いぞ?
「・・・・顔が見えない相手に対して、恐怖を感じるのは当然だと俺は思うけど?」
「それは悪かった。」
そういって彼女は仮面をとった。そこには、ちょっとたれ気味でとても可愛い女の子の顔があったのだが・・・・角が生えていた。
「・・・・わらわのことをこれで思い出したか?」
「ううん?ちょっと・・・・待って欲しいんだけど・・・とりあえず、鎖をとってくれない?」
そういって俺は鬼の角が生えた少女に頼んだ。だが、彼女は首を横に振って俺のお願い事を退けたのだった。
「だめじゃ。そうしたらおぬしが逃げてしまうだろう?先ほど、竜山が逃げ出したといっておったぞ。」
竜山って言うのは間違いなくあの執事に違いない。く、やっぱり誘拐目的だったんじゃねぇのか?
「絶対に逃げないと約束するから鎖、といてくれないか?」
もう一度だけ、俺はお願い事をしてみた。
「ううむ、確かに鎖をしたままでは話し辛いのう。しょうがない、はずしてやろう。」
彼女は指を鳴らし、俺を拘束から開放してくれたのだった。
「・・・これで話ができるのう。」
嬉しそうに言ってくる女の子だったのだが・・・どうにも、俺の記憶の中には覚えが無い。とても特徴的だし、話し方だって独特だ。
「・・・悪いけど、思い出せない。」
そういうとかなり悲しそうな顔をしてしまった。涙までためていたりもする。
「・・・そうか・・・やはり、二歳のころの記憶は人間の中では消えてしまうのだのう。」
「に、二歳?それなら覚えているわけないと思うけどな。」
ううむと唸って彼女はうんと頷いた。
「・・・うむ、それならわらわのことを聞いたことは無いか?おぬしの母親、もしくは父親が知っていたと思うがの?」
「・・・俺の両親、小さいころに死んでいるから・・・」
やっぱりとても悲しそうな顔をして俺を見たのだった。
「・・・そうか・・・あの二人は死んでしまったのか・・・それならば、わらわのことをわらわ自身が詳しく話そうか?」
どうせ、ここから逃げるのは今のところ不可能だとわかっているし、約束まで破ってしまうのだろうからやめておこう。どうやら着物を着ている点でこの人はどこぞのお姫様だ。気をつけないと月が無い夜は外を出歩けなくなるかもしれない。
「うん、教えてくれると嬉しい。」
「そうか・・・実はな、わらわはおぬしの両親・・そうだな、母親のほうに拾われた魔獣なのじゃ。そうじゃな、年齢的にはおぬしの二歳上ってところだろう。今、おぬしの成長した顔が見れて嬉しいものじゃ。」
「ふぅん?でも何でこんなところにいるんだ?」
そういうとちょっとばかり悲しそうな顔をして俺に告げた。
「・・本当の両親が見つかったんじゃ。だから、わらわを保護してくれていたというおぬしの両親のところからは退いてこんな人里はなれた場所に住居を構えておる。これもまた、わらわの運命と言ったところじゃろう。わらわ一人ではここから出ることが出来ないのじゃよ。それで、おぬしをここに呼んだ事情はのう、実はのう・・・・」
そこまで言って歯切れが悪く、頬を朱に染める。
「・・・わらわはおぬしの許婚と決められておるのじゃ。」
「許婚・・・って何だっけ?」
「むぅ、許婚も知らんのか?」
がっかりしたような表情を俺に見せたのだが、こほんと咳をして教えてくれた。
「・・・・簡単に言うなら既に決められている婚約者のことじゃ。」
「・・・・婚約者?」
婚約者って・・・婚約者って・・・婚約者って・・・け、結婚?
「・・・・そんな、まだ・・・」
「大丈夫、法律上は何も問題もないし、両親の許可の下、清く正しく交際をわらわはしたいと思っている。ま、まぁ・・我が伴侶となる零時が望むのなら・・・その、そういう関係に今すぐなっても構わないと思っている。」
もじもじといっているその姿を俺は考え深げに見ながらどうしたものだろうかと悩む。まぁ、このまま生活していたって彼女なんて出来ないのだろうが・・・
「・・・俺がここにずっと生活するってわけにもいかないと思うぞ?学校だってまだあるし、お金だって俺はまだ多く稼げてない。」
「大丈夫じゃ、今回、ここに来てもらった理由はおぬしの魔法でこの幻想の館を消し去ってもらうためじゃ。」
何も問題はいらんといった感じで俺を見る鬼姫さん。
「・・・そういえば、名前を教えてくれないか?俺の名前を知られているのにあなたの名前を知らないのは礼儀上に問題があると思うし・・・」
「おっと、それはすまなかったのう。わらわの名前は“ヨシキ”じゃ。よろしく頼むぞ?」
そういって俺にあたまを下げてきたのであった。
「あ、ああ・・・ところでヨシキ、俺はどうすればいいんだ?どうすればここを壊せるんじゃ?」
「それは・・・愛じゃ!」
高らかに拳を突き上げてそう呟く。
「・・・愛?」
「そう、わらわのことを愛している!この牢屋から解き放って見せる!という愛を持てばわらわは開放されるのじゃ。久しぶりの娑婆の風をこの身に一身に浴びたいのじゃ!」
俺から見ればはじめてみたといっても過言ではない人を愛せるのかどうか・・・これまで誰とも付き合ってきたことの無い俺がそんなことをできるのかわからないが・・・がんばってみることにしてみた。ま、なんとかなるでしょ。
「わかった、やってみる。」
愛とは何か?新型AIのことではないのだろうか?というくだらないことを考えながら俺はこの場所が崩れるようにと心の中で祈る。目を瞑って祈ってみる。
「・・・おお!さすが零時じゃ!あっさりとこわしてしもうたわい。」
目を開ければそこには山の木々が広がっており、俺たち二人は広場のようなところに座っていたのであった。
俺の体にしがみつきながらヨシキは嬉しそうだった。
「最高じゃぞ、零時!これからわらわのことをよろしく頼む!」
俺はというと・・・これが夢であったらよかったかもしれないとひそかに考えていた。
どうも、雨月です!とうとう、始まってしまいました・・ルートシリーズ。いやぁ、これは書くのが大変だ!なんて思いながら書いていますが・・・これはちょっとつらいですね。なかなか時間が足りていませんし、てんやわんや状態です。さて、今回はこの程度にして、次は・・・ルートRと言った所でしょうか?ルートRではルナを主題として物語を書いていきたいと思っています。それでは、皆さん・・・また今度!




