セレネ:私は諦める心を知らないわ!(挫折という言葉は知ってます。)
三十六、
俺はとりあえず目の前の状況に嘆いた。一言言わせてちょっと前に戻ろう。
「やれやれ、一体全体料理を作ろうとしてどうやったらテレビが爆発するんだ?」
さて、その日の朝、俺は小さくなったままの三人に朝食を作らせるのが非常に不安だった。母さんは既に会社に行ってしまったし、あまり料理が得意(目玉焼きは目玉が破けて黄色になってしまったりする。)ではないがとりあえずましだろう。
「零時、任せておいて!私たちはウェイトレスよ!」
「あ、そうだったな。」
俺は包丁を持ったまま下を見て唸った。
「いや、それは知ってるんだが・・・今の状態で大丈夫なのか?」
「任せておいて!この二人もいることだし!」
そういってソーラとノワルを指差す。まぁ、たしかに・・・・・
「それなら大丈夫だな。」
「むぅ、何よそれ!!私一人だったら不安だって言うの?」
「いや、自分から言ったんだろ?それより、二人ともお願いするぜ?」
「まかせておいてください、零時君!」
「まかせといてっ、零ちゃん!!」
俺はそのまま台所を退散し、二階に上がったのだった。そして、それが間違いだったということに気がついたのは俺が二階で機械のねじを磨いていたときだった・・・・・。
どーん!!
「な、なんだ?」
階下からなにやら爆発物が爆発したような音が聞こえ、俺は無様に椅子から滑り落ちて床に頭を打ちつけたのであった。俺は持っていたねじが折れていることに気がついた。
どーん!どーん!!
未だに爆発音が聞こえ、家が揺れているのがわかる。はて、家には武器庫も花火も置かれていないのだが・・・一体全体、この音の正体はなんなのだろうか?
慌てて一階へと転がるように階段を駆け下り、俺は信じられない光景を目にしたのであった。セレネが床に倒れており、残りの二人も近くに倒れていた。痙攣を起こしており、はたからみるとなにやら重苦しい空気が流れている。俺は近くに転がっていたセレネを起こしたのであった・・・・。
そして、話は元に戻る。
「セレネ、一体全体何が起こったんだ?」
セレネは気まずそうに勝気な目を俺からそらしてあらぬ方向を見ている。むぅ、そこにい誰かいるとでも?俺には見えないおばけか?
「・・・・ごほごほ・・・セレネは自分の身長が足りないのに高いところの道具を取ろうとして魔法を使ってさ・・・魔法が暴発・・・・とても強力な何かがテレビに当たり、近くにあった家電製品すべてを撲滅しちゃったんだよ。」
ノワルが真っ黒になって答えている。ソーラは未だにはいつくばって独り言を言っているようだ。どうやら脳にショックを与えられてしまったようだ。
「・・・とりあえず、誰か負傷者は?俺が包帯を巻いてやるぜ?」
「・・・・なし・・かな?危うく包丁が私を三枚ぐらいに卸そうとしたけどセレネの魔法で・・・ほら、あれ見てごらんよ・・・。」
俺は生まれて初めて壁に包丁が半分ほど埋まっている姿を目の当たりにした。
「あれ、ぬいたら勇者になれるかもよ?」
「・・・とりあえずならんでいい。セレネ、お前は今から掃除だ。料理は他の二人に任せろ。」
「え・・・・。」
ぼさっと座っているセレネを押してとりあえず台所からセレネを追いやった。俺は床に落ちているテレビの破片をまじまじと眺めながらため息をついた。部分によっては消滅しており、跡形も無い。ううむ、すさまじいほどの破壊力だ。包帯が必要だな。
「・・・・今更ながら恐ろしい威力だと思う。あんなに強かったっけ?」
「・・・零時君、悪いけど・・・そこのなべ、取ってくれる?」
ソーラが指差す方向にいびつな形をしたなべが姿を見せていた。俺は使えるなべが無いか探し、何とか見つけた。さて、母さんが帰ってきたらどうやって言い訳しよう?
「・・・・テレビ、直らないかな?包帯巻いて直るかな?」
「セレネに頼んでみたら?あのこ、責任感が強いから直せるかもよ?」
「・・・・。」
不安だが・・・・まぁ、既にテレビはテレビではないので(冷蔵庫などは上半身が無い)いいだろう。失敗してももう何も失うものは無いはずだ。
「セレネ、悪いけどこのテレビを魔法で直せないか?」
「ま、まかせといて!!そのくらいなら大丈夫だから!!」
ホウキをおいてセレネはほとんど跡が残っていないテレビの前に立った。そして、右腕を振り上げる。その目は真剣そのもの・・・・これは期待できるかもしれない。
「ええーい!!」
そして右腕を振り落とす。スクラップとなっていたテレビは・・・・
「うん、完璧に消滅しちまったな。」
俺の前から姿を消したのであった。さて、いよいよもってこれはやばいのではなかろうか?失うものが大きすぎた。種火がなければ火はつかない。
「ああ・・・うそ・・・ううん!!零時はそこで見てて!!今すぐテレビを出して見せるから!!私、がんばってみる!!」
両目に炎を宿し、セレネは俺の前に仁王立ち。にらむ視線の先には先程までスクラップのテレビがあった何も無い空間・・・・今度こそ、本当に失うものはないよな?
「今度こそ・・・・ええーい!!」
今度は両腕を振り落とし、まぶしさがあたりに広まっていった。俺はサングラスをとりだし、装着。
まぶしさは去り、俺はサングラスを取り外した。そして、目の前にはテレビが確かにあった。
「・・・白黒?」
「・・・・・。」
「マニアならうれしいだろうな。」
「・・・・で、でも!!もう一回だけチャンス、ちょうだい?」
「ソーラもしくはノワル・・・悪いけどちょっと来てくれないか?」
俺はこれ以上時間をかける気がなくなったのでソーラを呼んだ。セレネは腐れてそこいらへんで地面に“の”の字を書いている。
「セレネ、腐っている場合じゃないぞ?今度は冷蔵庫だ。」
「え、まだチャンスくれるの?」
「当然だ。お前が壊したものはまだまだあるからな。」
半壊している冷蔵庫の前にセレネを連れて行き、俺はセレネの後ろで応援することにした。がんばれ〜セレネ。いや、家を壊すようなことはさすがにやめてほしい。
「今度はがんばってくれよ?消すようなマジックはしなくていいから。」
「任せといて!!」
非常に不安だ・・・・。ため息を一つ吐いて俺は淡い期待と絶大な絶望感に打ちひしがれていたのであった。ソーラが隣を通っていき、耳元でささやいた。
「・・・一応、やっておきました。あの、さすがに今度やったら駄目かと・・・。」
「ん、ありがとう・・・とりあえず朝食を急いで作って食べようか・・・。」
ソーラは静かに去っていき、セレネは既に三回ほど間違えている。もうぐだぐだだ。これも俺がセレネを信じたのが間違いだったのだろうか?
「セレネ、小さいから駄目なのか?」
既にセレネは泣いている。負けず嫌いもここまでくれば見上げた根性だ。
「駄目な奴はどこまでやっても駄目だ。」
「がーん!!そ、そんなぁ・・・・。」
「だからな・・・周りがいるんだろ?駄目な奴を助けるために。お前の失敗はソーラとかがバックアップしてくれる。今日は確かに失敗したが明日は失敗しないかもしれないだろう?(明日も失敗されたら困るがな。)とりあえず、冷蔵庫はあきらめてもうちょっと簡単そうなのをやってみようぜ?」
「うう〜。」
セレネは泣いて俺に抱きついてきた。その目は当然のように悔し涙が覆っている。俺はかわいそうだとは思ったが泣いているセレネにもっとも簡単そうなものを与えた。
それは、先程ゆれたときに俺が折ってしまったねじだった。これなら、安心だ。
さて・・・まぁ、余談ですが短編のある小説は・・・・いや、余計ですね。今回の話はまた今度続きをかきます。次回予告は話的にノワルでいきたいと思います。




