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零時:ローザは字が雑な機械だな。

三十三、

 機嫌の直ったローザとこれからどうするべきかと話し合っているとネイがやってきた。


「おはよう、いい夢は見られたかしら?当然のように書類は盗まれていないわよね?」


「ああ、このとおりここにあるぞ?」


 俺は書類をネイに渡した。それでとても申し訳ないのだが・・・・黙っていた。


「あの、この書類が使えなくなっちゃえばいいんですよね?」


「そうね、そうなれば一番いいんだけどね・・・。燃えない紙だし・・・。」


「それならマスターがもう使ったから大丈夫です。あの、ここに書かれていることを読んでくれませんか?」


 ローザがネイに指摘してその間俺は黙っていた。犯人は俺だ!!


「・・・ふぅむ、そうだったのね・・・それなら適当に何かに使ってしまえばよかったのかもしれないわ。まさかとは思うけどよからぬ魔法をつかったんじゃない?」


「大丈夫だ・・・ええとだな、失敗した魔法の効果を消すために使わせてもらった。」


「これで金庫の中にある書類も意味がなくなったようね。でも、本当にこの書類に書かれている魔法は使用できないのかしら?」


 書かれている呪文を呟いてネイは右腕を振った。だが、何もおきない。


「・・・どうやら書類のとおりになったみたいね。感謝するわ、剣山 零時。」


「ははっ、俺としても無条件で治ったんだからよかったぜ。」


「でも、どうやって帰るつもりなんですか?任務、失敗したことになりません?」


「そ、そうか?ううむ、それならどうしたほうがいいんだろうか?」


「それに関して大丈夫じゃないかしら?その書類を渡せばそれで終わり。大体あなたたちは書類を持っていった容疑者を探しに来ただけだったのでしょ?それなら書類の内容もしらないってことにしておいて無視を決めこんでおけば大丈夫。何かあったら私の所にきなさい。相談を聞くことぐらいなら出来ると思うからね。」


「でも、あの二人はどうするんだ?ええと、それに今あの二人はどこにいるんだ?」


「そうね、適当に嘘をついておくわ。あの二人は今頃病院じゃないかしら?黄金の門が壊れたときに気絶してしまったから書類についての記憶、消しておいたわ。」


 微笑むネイを見て俺はため息をついた。はぁ、よかった。


「あ、最後に聞きたいんだが・・・お手伝い長さんの美奈さんって一体、何者なんだ?」


 俺が尋ねるとネイは不思議そうな顔をした。首をかしげて考えているようだ。


「・・・・?それは誰のことかしら?そのような人、いないと思うわよ?」


「ええと、それは・・・・」


 どんな人なのかをローザと一緒に身振り手振りで教えたり絵に描いて見せたりといろいろとやって見せたのだがネイは知らないようだった。


「・・・そんな人はいないわ。私が資産を管理しているからそういうことにもきちんとしているし、どんなお手伝いさんががんばっているかとか・・・とりあえずお手伝い長さんの顔ぐらいは覚えているつもりだけど?私の記憶の中にはいないわね。」


 ということはどういうことなのだろうか?俺とローザは首をひねるだけだった。

 そして、俺とローザは地下室を壊してしまったので今回得たものは書類だけだった。その書類も見かけ上すごいものだが中身は使用不可の要らない物だ。俺としてはさらに思い出のドライバーもローザに渡してしまったのだ。疲れた体を動かすのもつらい。


「マスターなんで沈んでるんですか?」


「・・・・人っていうのは失ったものが多ければ多いほど沈むものなんだ。ローザ、今回の俺はかなり損をしている。得たものは何も・・・・ドライバーもローザにやったし・・・。」


 そこまでいって思い出したのだが俺はポケットに入っているコイン。なにやらあの重さは他のコインとは一味違っていた。あれを売れば・・・・そう思って右手を突っ込んだのだがそこには紙が入っているだけだった。なにやら電話番号が書かれている。


『このコイン、貴方が見つけてくれたのね?感謝するわ・・・たまに連絡してくれると嬉しいわね。初めての友達としてお屋敷に招待して差し上げる。』


 俺の悲しみは再び重くなったのであった。く、いつの間に盗られたのだろう・・・・ああ、俺の心は深海まで止まらないぜ?そのまま地球の中心へ・・・・。


「で、でも・・・・・。」


 俺の手をとってローザは笑ったのであった。く、そこまで人の不幸がおいしいか?

「人の不幸はローヤルゼリー」ってやつか?全く、ふざけてやがる!!


「・・・・今回の出来事でマスターは私の心を得ましたよ?」


「・・・・そんなのいらない。」


「ひ、ひどーい!!」


 ローザがうなりをあげて振り落としてくる腕をすんでのところで交わしながら俺は走り出したのであった。


 そして、それから数時間後・・・・俺は店長に書類を渡した。


「ご苦労、この書類を誰が持っていた?やはりあの三人組だったかい?」


「いえ、三人組ではありませんでした。三人のうち二人は病院にいるそうです。」


「その情報は本当かい?」


 事実だ。持っていたのはネイ。他の二人はもってもいなかった。


「ええ、本当です。」


「そうか・・・それはよかった。まだ信憑性不明の書類だからな本物かどうかはわからんが・・・調べてみることにしよう。あ、ローザ君はお迎えが来ていたぞ?店内で待たせているから行って構わない。零時君も行ってきたまえ。」


 俺とローザは店内に座ってひとりでチョコパフェを食べているおっさんに話しかけた。


「・・・・よぉ、久しぶりだな零時。元気そうで何よりだ。じゃ、ローザ、帰るぞ。」


「・・・わかりました。」


 悲しそうに呟くローザ。俺はあえて何も言わない。言うべきことも無いからな。


「・・・ローザ、きちんと零時に連絡先ぐらい渡してやっておかないとさすがのこいつでもわからないと思うぞ?ほら、紙とペンをやるからさっさと渡せ。俺は先に外で待ってるからな?」


 そういってあっという間にチョコパフェを食べ終えると親父は外に出て行った。ローザは急いで渡された紙に番号を記すと俺に渡したのであった。顔が嬉しそうだった。


「・・・・マスター、いつでも・・・いえ、毎日呼んでください!私、どんなときでもマスターを助けます!!それじゃあ・・・お元気で!!」


「ああ、またな・・・・。」


 会おうと思えば俺はいつでもローザに会えるのだろう・・・・俺はローザが渡してくれた電話番号を見てうなってしまった。


「・・何を書いているのかあんまりわかんねぇな。」


 ローザは非常に字が雑だったのだ・・・・しょうがないな、とりあえず家に帰っていろいろとかけてみるか・・・・間違い電話になったときは素直に謝っておこう。

 俺がひそかな決意をしていると後ろから声をかけられた。


「零時。」


「久しぶりだな、セレネ、ソーラ、ノワル。」


 俺の後ろには微妙に顔色が悪い三人が姿を現していた。俺は口ごもってしまった。


「・・・・今日は非常に具合が悪いので先に家に帰らせてもらいますね?皿洗いがずっと続いていたので・・・・。」


「・・・・お皿、見るの怖い。」


 何があったのかあえて聞かないが俺は黙って三人を見送った。俺はまだ店長に聞きたいことがあったので店内に残ったのであった。

 とりあえず店長の営業時間が終了するのを待って俺は店長室の扉を叩いた。


「・・・どうぞ、入って結構だ。」


「失礼します。」


 俺は扉を開けてその場で立ち止まった。


「・・・その書類、一体全体何なんですか?」


「・・・知らないのなら知らないほうが無難だ。」


「そうですか・・・・それなら、今日は帰らせてもらいます。」


 俺はそういって店長室を後にしたのだった。これでは何も変わらない気がしないでもないがとりあえずこれで俺がやるべきことははたしたのではないのだろうか?

 一人で帰る帰り道・・・・俺は鼻歌を口ずさみながら自宅へと向かっていったのであった。今思えばあのティフルとフォルスは出番がとても少なかったな・・・。


「・・・・まぁ、久しぶりって感じがするけど・・・・いいかな?」


 家に入って自室に入ろうとしたのだが・・・やめて俺は電話の受話器を手に取った。勿論、かける相手は決まっている・・・・・このへたくそなほうの電話番号だ。


「もしもし・・・?あ、すみません・・佐藤さんでしたか・・・・人違いでした。」


さて、近頃は安定して更新できている気がする作者の雨月です。さて、今回でこの章は終わりですがどうだったでしょうか?おもしろかったのなら幸いです。次章は平凡な?日常になっていく予定です。

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